三十一話
「夢の国へようこそ! こちらが1日フリーパスになります」
テーマパーク『夢の国』最近出来た大型の遊園地らしく、創設者ウォルト・D・ニールと灰色のネズミが手を繋いだ銅像が出迎える。
何の目的があってここへ寄ったのか、そして完全武装解除を命じられ、ナイフ一本すら持っていない。
彼女──一ノ瀬 雪子がここに居るのだろうかと、辺りを見回していると見覚えのある黒服達を視界の端に捉えた。
「なぁアルヴァス──」
声を掛けようと隣を見れば、いつの間にか棒状の食べ物とネズミの耳を模したカチューシャを付けていた。
「ほらキミの分もあるよ」
そう言って寄越されたカチューシャを付け、棒状の食べ物を頬張った。
「いやそうじゃなくてだな……」
「後ろの黒服二人と私服が二人、僕たちを追跡している……だろ? 殺気は感じないから大丈夫だよ」
「ん? 私服が二人?」
怪しい黒服が居たのは見えたが、私服姿の怪しい連中に検討がつかない。
「雪子から射撃や、武術を習っていると聞いてね。気の流れや感覚的な所は、あまり鍛えていないのかい?」
「気の流れ……オカルトか何かか? 一ノ瀬からは体の鍛え方くらいしか教わっていない」
「フフッ……じゃあ気の流れについては追い追いにして、まずは僕から感覚的な所を教えよう。まぁ、そのつもりでココへ来たんだけどね」
そう言ったアルヴァスは早速、アトラクションへ向かった。
***
アルヴァスが教えると言った『感覚的な部分』は、俺が予想するよりも遥かに難易度が高かった。
アイリスのような厳しさは無いが、アルヴァスにとって出来て当然な事を、いちいち言語化して伝えるのが難しいらしい。
最初は簡単な事から、一ノ瀬が教えた『背筋を伸ばした状態を意識して生活する』に近く、まずは歩幅からだった。
自身の歩くスピードと歩幅を常に一定し、何歩、なんヤード歩いたか逐一、確認を取られる。
だが上記には利点があった。まず自分が歩いた距離がなんヤードか理解すれば、背後をつけてくる追跡者の距離を適時測れるという事だ。
これが何を意味するか、俺たちは一定間隔で必ず同じ歩幅、速度進むが、普通の人間はそんな事をしない。感情や環境によって移動速度や、歩幅は必ず変化する。
だが追跡者、常に俺たちを意識して歩いているため、自然と俺たちと同じ歩幅、速度になるのは、熟達者ほどなのだろう。
次は聴覚、同じ速度で歩く人間だけを、雑踏の中で意図的に聞き分ける。言われて『はい、そうですか』と出来るものでは無い筈なのだが、何故か俺には出来てしまう。
そして気付いた。俺たちを追う人間は、当初黒服の二人だけだと思っていたが、アルヴァスの言った通り明らかに二人分足音が多い。
アトラクションに乗れば、黒服は離れて私服の片方が監視を続ける事をプレパラートで作った銀鏡で確認する。
「どうするつもりだ……」
アルヴァスに問えば、笑顔を絶やさず、俺の頬をつねってくる。
「スマイルだ。雪子を見習って、こうして一般人を装っている間は、殺気をおさえるんだよ」
なんだか納得いかないが、努めて笑顔を作り、無理やり笑い声を上げる。
「不自然すぎるが、まぁいいよ。次はあそこだ」
アルヴァスが指差す方向、遠くに見える古びた洋館風の建物だ。
いくらこういった場所に疎くても、あそこが何か検討くらいつく。
長蛇の列に並びながら、古びた洋館を見上げる。いわゆるお化け屋敷というやつだろう。
そして何故か、尾行していた私服の二人が背後に立つ、黒服の連中は離れているのだろう。
心臓の鼓動が強くなる。明らかに敵が、無防備な背後を取っている状況に、アルヴァスは余裕綽々で雑談している。
前のカップルに軽く話をして、俺に話を振ってくるが、俺は後ろの二人に気を取られて生返事をしてしまった。
自分達の順番がすぐそこまでくるのを、まるで処刑を待っているような緊張で、努めて平静を装う。




