三十話
アルヴァスの運転する軽自動車の助手席に座り、高速道路を使い日本の首都近郊まで差し掛かるまで、俺たちは互いに無言を貫いていた。
「今さらなんだが、手掛かりはあるのか?」
俺がアルヴァスと会ったのはこれで三回、対面で話すとなれば初めてに近いはずだが、いきなりため口でよかったのだろうか。
「僕が情報部から得たモノなんだけど。どうやら雪子は『新羅カンパニー』に身を寄せているらしいんだ」
氷華に見せられた写真も情報部から得たと聞いていた。あれらを元にした推察なのだろう。
「デカい企業らしいが、一ノ瀬のパトロンか何かか?」
少しでも多くの情報を得ようと、俺は氷華から聞かされていた情報については知らないふりを決めた。
「いいや。僕が知る限りだと、雪子のパトロンは『元老院』と『ハームフルコーポレーション』かな」
『元老院』とやらは初めて聞いた名前だが『ハームフルコーポレーション』は、世情に疎い俺でも聞いたことのある巨大企業だ。
この日本が世界トップクラスの医療技術を誇る由縁、それは彼の『ハームフルコーポレーション』の功績のおかげらしい。
数日前に新羅カンパニーの私兵に襲われた際にも名前が出て動揺していたのには、一ノ瀬がハームフルに関係があるからだったのだろうか。
「『元老院』とやらは初めて聞いたんだが、それって表の存在なのか?」
「もちろん裏の存在だよ。『元老院』はあらゆる日本企業や政治に干渉できる特別な存在で、そこに所属する者たちの総称さ」
「なんだよそれ。日本の闇じゃないか」
「たしかに日本の暗部かもしれないけれど、今や彼ら彼女らも衰退の一途だ。『ハームフルコーポレーション』の現CEO常夜 章成の影響力が凄まじくてね……──」
アルヴァスいわく、ハームフルコーポレーションと企業名からして製薬会社と思われるが、その業務実態は多岐に渡るらしく。
この間襲ってきた岸本が言っていたように、軍需産業にも手を掛け、医療機器や本業の製薬、人材派遣に福祉や社会奉仕、そして企業誘致なども行っている。
『ボールペンから核ミサイルまで』をモットーに、その業種形態の広さ深さは全て、CEO常夜の采配によって成っていると言われている。
「──キミの両親を殺害する依頼を出したのは『元老院』の代議士だったよ。龍一は乗り気だったが、僕が断ったせいで、キミと雪子が出会った……僕を恨むかい?」
アルヴァスの言葉に少なからず動揺した。
たしか初めて一ノ瀬と会った路地裏での仕事は、龍一と一ノ瀬の二人だけだったと聞いている。
「恨むつもりは無いが……依頼した代議士とやらに、親父は恨みを買っていたってことか?」
「キミの父親は長尾組の中でも、かなりの稼ぎ頭だった……その稼ぎを選挙資金にするために、代議士は彼を強請ろうとしたが、彼の持つ武力の裏に防衛省の影があった為に抹殺を決意したそうだ」
「長々と話したが、つまりはカネってことかよ」
「それだけじゃない。龍一……いや組織がキミの父親と組んで、何か悪巧みをしているという噂も嗅ぎ付けられたようでね。僕は組織への不信感があったから、依頼を断ったんだよ」
親父が龍一と繋がっていた?
そんな話は聞いた覚えがない……っが、少し違和感があった出来事がある。
それは親父と最後に殺し合いをした『七浜グランドホテル』の屋上。
母さんを殺し、俺が死んだあの日には親父は居なかった筈で、何週間も居所を探していたわりに、最後にはあっさり発見でき。
しかも龍一は何かを試すように嘘まで吐いて、俺に親父を殺させた。
「悪巧みってのは……具体的に尻尾を掴んでいるのか?」
俺がアルヴァスを睨むと、アルヴァスが横目にチラリと目を合せ、すぐさま視線を運転へ向けた。
「さぁ……僕には教えてくれなかったよ。キミの事も、最初は雪子の同級生として組織へ勧誘したとばかり思っていたが、氷華と繋がっていたり、異常者だったりと困惑しているところだよ」
今の話を聞いてアルヴァスの立場を思えば、組織への不信感を募らせるのは無理もない。
たしかに俺は普通の人間ではなく、ある人間をベースに作られた戦闘用クローン。
それを組織の最高戦力、No.=zに伏せているということは、俺の存在自体が組織の暗部になるのだろう。
「そうか……俺も何がなにやら分からない事だらけだ。例えばアンタが僅かな情報だけで、どこへ向かっているのか……」
俺の言葉にアルヴァスは爽やかな笑みを浮かべた。
「雪子が言っていたが、キミには本当に暗殺者としての素養がないんだね」
「そうか……」
一ノ瀬がそんな事を話していたとは初耳だ。
「そう、例えば。さっきの質問の仕方、情報を引き出そうするにしては率直すぎる物言いだ。そして次にキミの目つきに顔つきだね」
「顔が悪いのは元々だ」
「キミの目は人殺しだと言わんばかりで、無用に相手を警戒させる……──」
そういえば最近、俺は目付きが悪いとよく言われている。
俺はここ数日で何人も殺してきたが、一ノ瀬や久世を見て人を殺している時とのギャップに驚いた。
あれはそれほどまで、一般人に溶け込む能力に長けていたということか。
「──ということで、僕からの提案だ!」
そう言ってビル郡の間に聳え立つ、ヨーロッパ風の巨大で堅牢そうな城を指差した。
「遊園地……ってやつか?」




