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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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二十九話

 12月28日俺は行動を開始した。


 あの画像以上に組織(・・)の手を借りられないと判断した為、まずはアイリスたちに協力を仰ごうとするが、部隊の隊員は上の指示で全員バラバラの配置に変えられた。


 一ノ瀬が裏切ったとなれば、すぐに追撃の部隊を編成しなければならなく、かといって元14番分隊がその任務に従事すれば、手心を加えるかもしれない。


 そう考えられれば、遊ばせておく人員は無いので全員をバラバラに配置換えするのは自然な流れだ。


 その自然な流れに逆らうように俺は配置変えがなく、逆に龍一に呼び出され、何度か来たことのある最奥の会議室まで来た。


 中はいつものように薄暗く間接照明のみが、部屋の隅を照らしている。


「よぉキョウ! 待ってたぜぇ~」


「待たせたな。単刀直入に言いたいことがある」


「あぁ? 雪子の事だろ?」


 暗くてもよく分かる赤髪の男──赤井(あかい) 龍一(りゅういち)は紙煙草に火を点けて煙を吐き出す。


「ふぅ~刺客を送るのを止めろって言うんだったら、答えはNOだ」


 やはり氷華の睨んだ通り、ここは裏切りや足抜けに関して過敏で、一度裏切った俺の意見なんて聞く耳を持たないようだ。


一ノ瀬(あいつ)が組織にしてきた貢献は無視なのか? たった2日3日居なくなっただけで?」


「アホか。うちの情報部の人間殺して釈明が無いんだぞ」


「不可抗力だとしてもか?」


「だとしてもだ! 動き抑制できるお前のようなクローンと違って、雪子は人間で制御なんてできねぇんだよ! それに雪子は従順さと卓越した技術があったから、組織(ここ)での信頼と実積が大きい」


「つまり抜けたら大打撃なんだろ?」


「はぁ~抜けたらじゃなくて、アイツは抜けたんだよ」


 ため息混じりに紫煙吐き出し諦めの色を出す龍一へ、一歩歩み寄り力強く机を叩く。


「俺が連れ戻す……だから一ノ瀬が裏切ったなんて決めつけるな!」


「……一度足抜けしたお前が、今さら俺たちの命令に背いて行動するのは勝手だ。捜索と殺害は決定してんだよ。それを覆すなんてことしねぇ──」


 もう一本のタバコに火を点け、龍一は肺一杯に煙を溜め込み一息に吐き出した。


「──だがNo.=z(ナンバーズ)の中にも、雪子殺害を拒否してる奴がいる。そいつを監視役につけるのが、俺が出来る最大の譲歩だ」


「妙なマネをしたら、俺はそいつに首を跳ねられるってところか?」


「あぁ、そいつは組織の中じゃトップクラスの腕前で、なにせ雪子に直々に武術を教えた師匠だからな」


 武術と言えば、以前戦った時に妙な中国拳法を使っていた。


 それを教えた人間とくれば、相当腕が立つのだろう。なんせ俺は一切歯が立たなかった。


「そうか……なら早速そいつを呼んでくれ、今日中にでもここを発つ」


「やぁ久しぶり」


 突然背後から聴こえた声に驚いた。


「うわぁ!」


 背後に立っていたのは黒髪に青い瞳をした自称中国人のアルヴァスだった。


「ハハッ! なにビビってんだよ。さっきから居ただろ?」


 ケラケラと笑う龍一に少し苛立ったが、それよりもこの優男が見事に気配を消していた事に感服する。


 どちらかと言えば目を引く存在で眉目秀麗、ハッキリとした鼻梁の高い顔立ちなのに、駅前で初めて会った時も周りの反応は薄かった。


「気配が無かったって顔してるね。キミも時を経れば気の流れを掴めるはずだよ」


 イケメンがにっこりと笑い、いつもの読心術を炸裂させる。


「あんたが俺の監視役ってことで良いんだよな?」


「そうなるね。二人で雪子を無事に連れて帰ろう」


 裏があるのかと思うほどの善良さに寒気を覚えるが、俺にはこの男の本心は計れない。


「あぁ……よろしく」


「話が済んだなら、スミスからの贈り物をキョウに渡しておく」


 ドンッと円卓に置かれたのは長方形のジュラルミンケースだ。


 龍一のスミスといえば、氷華たちと一緒に居た忍者装束の黒人──カルロス・バレットのことだろう。


 ケースの持ち手付近に指紋認証型の錠がついており、俺の親指を押し当てると簡単にロックが外れた。


「失くしたと思ってたんだがな……」


 俺の呟きに誰も呼応せず、ケースの中には整頓された状態のブラッククロムのベレッタM92カスタムと、シルバーステンのM92FSカスタムに予備弾倉が三つずつ。


 そしてランヤード付きの鍔の無い忍者刀──『黒桐(こくとう)』と『夕雲(せきうん)』──があり、さらには新調された左右のホルスターが付いたハーネス。


 紺色のブレザーを脱ぎ、早速ハーネスを取り付ける。


 両脇にはベレッタ用のホルスターと脇腹に掛かるマガジンホルダー、腰には忍者刀を携える為の金具があった。


「まるで人間武器庫だなキョウ。そんなに武器がいるのか?」


 恐らく武器だけの重量で5kgは越えるだろう。


「最悪一ノ瀬と戦闘になったら、これでも心許ないくらいだ」


「おいおい、雪子は化け物じゃねーぞ! ハハッ!」


 愉快に笑う龍一を尻目にジュラルミンケースを閉じ、俺とアルヴァスは会議室を後にした。


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