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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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二十六話

 日本全国の主要都市には組織(・・)の支部が存在する。


 規模も人員も本部に集約しているため、基本的に俺たちのように任務で一時的に、寝床や武器の管理の為に用意された施設である。


 佐野のピアッジオMP3に乗って、走ること30分でついた支部のミーティングルーム。


 そこには『たんじょうびおめでとう』の横断幕と、アメリカのホームパーティーみたいな内装が施されていた。


「っで? どういうこと?」


 不機嫌そうに問いただしてきたのは、金髪ショートカットのアメリカ人女性──アイリス・レイアーチだ。


「今朝一ノ瀬を見たきり音信不通になった。スマホもそうだが、財布やら制服やらも全部置いたまま居なくなっていた」


 と言いつつも俺は内心、それほど慌てるような段階ではないと考えている。


 だって普通そうだろ? スマホや財布を置いたまま散歩に出掛けるなんてうっかりの範囲だろ。


「居なくなってまだ数時間しか経ってねぇんだし、そのうちフラッと帰ってくるだろ」


 欠伸混じりに頬杖をつくツンツン頭の金髪ピアス──佐野(さの) 純也(じゅんや)が俺と似た意見を言う。


 するとアイリスは首を横へ振り、俺を呼びつけた火傷顔(フライフェイス)──久世(くぜ) 千佳(ちか)が口を開く。


「私たちも雪ちゃんと長いこと仕事してきたけど、一度も連絡が取れない状況になったことがないよ?」


「連絡って無線にも出ねぇのか?」


 佐野が黒い端末と耳にはめたカナル型のイヤホンを取り外し、ヒラヒラと見せるが久世は否定を示す。


「マズイのはこの状況が改善されないまま上に知れて、下手をすれば雪子は組織(・・)から逃亡した裏切り者よ……」


 アイリスの言葉に皆押し黙ってしまう。


 佐野じゃないがたった(・・・)数時間居なくなっただけで大袈裟だ。


「取り敢えず今日は様子見をして、明日にも帰って来なければ私たちは一旦任務を置いて本部に帰還しましょう」


 アイリスの言葉に俺を含めて皆頷き、日本語が分からないのかコニーにだけは、英語で改めて説明していた。


***


 そして結局26日になっても一ノ瀬は帰ってこず、相変わらずの音信不通な為、俺たちは支部の荷物を纏めて本部へ戻ってきた。


 何度目かの白一色の廊下を六人で歩き、忙しなく動き回る情報部を訪ねる。


 あれよあれよという間に情報部の最奥に案内され、そこには金髪の白人女性が目の下にクマを作りながら咥えタバコでパソコンに向き合っていた。


「ん? ゾロゾロとなんの用?」


 俺たちの気配に気づいたのか白人女性は訝しむように目を細める。


「雪子が音信不通なの、昨日連絡したでしょ?」


「ふーん、一大事ね……あぁ今確認したわ」


 メールボックスの未読の山から素早く一つを広げる。恐らく昨日のうちに報告を上げていたのだろう。


「情報部の部長ヘレン・リューリーに依頼するわ。私たちの隊長、一ノ瀬 雪子を捜索して」


 うやうやしく頭を垂れるアイリスに続いてエドゥアルドが軽く頭を下げると、久世に佐野が続く。


 俺とコニーだけがそんな一連を眺めていた。


 ヘレン・リューリー……どこかで聞いた名前だと思ったら、居酒屋でアイリスが口にしていた名前か。


「貸し一つよ?」


「またデカイ貸しになったわね」


 二人は流暢な日本語で話を進め、お互いにクスりと笑った。


***


 情報部のヘレン・リューリーを訪ねて1日経過した12月27日。


 なんの音沙汰も無く、久しぶりにアイリスと佐野と共に格闘技の訓練を少しして、エドゥアルドに獲物を持った相手に有効なCQCやCQBを教わった。


 そして一ノ瀬が置いていったスマホは、俺が使えるようにパスワードや生体認証を変え、何度か涼子に電話をしては一ノ瀬の不在を確認している。


 一ノ瀬が音信不通になって2日目に入り、本部内でも日に日に慌ただしさが増していく。


 俺自身はそれほど焦っていなかったが、どうやら付き合いが長い連中からすれば大問題なようだ。


 一ノ瀬と出会って三日目に、俺がチンピラに絡まれていた栫井(かこい) 幸奏(ゆかな)を助けた後、彼女に俺は殺し屋に向いていないと言われた。


 その理由は「日向くんは優しいから」だったが、その言葉の裏には一ノ瀬の信条が隠れていたのだ。


 一ノ瀬は組織に利益をもたらさない救い(・・)はしない。


 相手が女、子供だろうと老人だろうと、一般の目撃者は情け容赦なく殺してきた。


 もちろん紛争地域に行けば、一般人に化けたゲリラなんてザラなんだろうが、現代日本の女子高生がそんな非情になれるはずもなく。


 一ノ瀬の倫理観や価値観は組織(・・)の中で壊れてしまい、もはや人助けなど利益を生まない愚行と考え、俺をぬるいと暗に否定した言葉だった。



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