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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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二十二話

 イルミネーションが彩る幻想的風情を眺めながらも、俺は内心穏やかではなかった。


 さっきのドックタグを着けた若者が、タクシーを捕まえて俺達の乗る車を尾行し始めたにも関わらず、エドゥアルドの運転は穏やかで法定速度遵守している。


 それに一ノ瀬は楽しそうに虚ろな涼子や、エドゥアルドに話し掛けており、相変わらず武器などを持ち出す気配がない。


 そして行く先は明らかに車通りが少なくなっている倉庫街へと向かっており、つけてきている車も数が増えてきた。


 先日の狙撃事件以降、以前にも増して夜間の警戒が強くなっている倉庫街へ入れば、否応なしに攻撃されるに決まっている。


 なのにこの車は普段、仕事で使っている黒いバンや兵員輸送車ではなく、明らかに非戦闘向けの一般車だ。


 俺の緊張をよそに、倉庫街から埠頭へと移り、やがて何事もないかのように停車した。


「どういうことだよ一ノ瀬……このままじゃ」


「つけられているのが分かった時点で、組織(・・)の支部へは帰れないんだよ……ここで連中を全滅させるしかない……」


 さっきまでの和やかな雰囲気は何処へやら、扉を開けて降りる一ノ瀬とエドゥアルドに続き降りようとする。


「おい涼子、お前は絶対にここを動くなよ」


「うぅん……」


 まだトリップしているのか、涼子は項垂れたまま鈍い反応を示すが、構わず俺も車を降りる。


「一ノ瀬、武器はあるのか?」


「一応エドさんが持ってるスチェッキンがあるから、援護に合わせて相手の武器を奪うしかないよ」


 若者が乗り込んでいたタクシーがたどり着き、後部座席から降りた若者は胸元から取り出した拳銃を、運転席に座るドライバーへ向け、簡単に頭を撃ち抜いた。


 こめかみを撃ち抜かれ、ハンドルへと凭れるドライバーがクラクションを響かせると、それに呼応したように高級車が集まってくる。


「久々の戦争だ! ウズウズして仕方ねぇーぜ!」


 溌剌とした若者の声が埠頭に響き、その声を掻き消すほどのクラクションの音を気疎く思ったのか、もう二三発死体の頭を撃つとクラクションは止んだ。


「あまり大声で騒がないでください梶元(かじもと)君、目撃者が増えるとこちらとしては、面倒になりかねません」


 高級車から降りてきたのは、整えられた白髪頭の中年男が、梶元と呼ばれた若者を窘めると、梶元はペッと唾を吐き捨てる


「本当なら俺の獲物なんだぜ? 先生!」


「間違えなく彼らは手練れです。相手を甘くみて、また部隊は全滅……なんて言うのはごめんですよ」


「あぁ? 仲間見捨てた先生(カス)がどの口で言ってんだ?」


 目の前で繰り広げられる寸劇を眺めている訳もなく、エドゥアルドが拳銃を構えた瞬間、梶元は中年の男を突飛ばし自分は大きく後方へ飛び退いた。


 だがエドゥアルドも軌道をなぞるようにマシンピストルを数発放つが、あり得ない反射神経で転げるように銃弾を回避したと思ったら、車の影へ消えた。


 応戦とばかりに車から続々と降りてくる黒服たちが、自動拳銃を構えて発砲してき、俺とエドゥアルドは慌てて車の影へ隠れる。


「おいエド! 一ノ瀬が居ないぞ!」


 今さらバラクラバを被るエドがハンドサインで、激しい銃撃が起こる方を指差す。


 エドゥアルドの応戦で、次々にヘッドライトが消えていき、徐々に銃撃が弱まってきたように感じる。


 見れば一ノ瀬が素手で大人相手に一歩も引けを取らず、うまく敵部隊を撹乱してくれていた。


 俺も一ノ瀬とは反対方向へ身投げ出し、正面の黒服三人から自動小銃の銃口を向けられた瞬間、俺の視界の端に青白い光を灯す。


(えにし)!」


 俺の叫びと共に黒服たちの向ける銃口の先に、銀色に輝く鉄鎖が繋がれ、それらをあらぬ方向へと引くイメージを思い浮かべると、瞬く銃弾は地面や空を虚しく穿つ。


 黒服たちが盾にしている高級車のボンネットを滑り、敵陣に入ると黒服たちは持っていた自動小銃を捨てて、すぐさま特殊三段警棒を引き抜く。


 なるほど一ノ瀬も手練れだと言っていたように、コイツらはそこらのチンピラと違って場馴れしている。


 暗がりで見えにくいが、恐らく常時携行している16インチの短い警棒なのだろう。


 見た目にはカーボンかスチールだが、三段警棒は見た目ほど強度がないのが弱点だ。


 正面の黒服があからさまに頭を狙って、振りかぶっているのを見、俺は即座に背後を振り返り、足を狙っている黒服の警棒を蹴る。


 そしてその勢いのままに踵を返すと、勢い良く警棒を振りかぶりがら空きになった黒服の下腹部を前蹴り、戻した足の勢いそのままに浴びせ蹴りを上手く顔面へ当てると、黒服の頭蓋骨が凹み口や耳から血を吹き出しながらアスファルトに突っ伏した。


 すぐさま体勢を立て直し、手放された小銃を鎖で手繰りセーフティを解除すると残りの二人を簡単に蜂の巣にする。


「撃ち方止め!」


 突然の怒号に思わず身体が反応してしまい、一瞬硬直すると声の主である中年男性が、一ノ瀬に喉元へナイフを突き立てられていた。


「あいてて……この嬢ちゃん強すぎだろ……俺たちの後輩か?」


 梶元が頭から血を流しながらダラダラと身体を起こし、両手を上げる。


「さぁ少なくとも私の生徒ではありませんし、リベレーター(・・・・・・)が再建されたという話は聞きませんね」


 中年の言った『リベレーター』という単語に、妙な既視感を覚える。


 それに梶元という若者が首から下げているドックタグに、『新羅カンパニー』の兵隊らしき黒服たち。


 そうだ。いつの日か久世(くぜ)から聞いた覚えのある男の名前──岸本(きしもと) 誠二(せいじ)は久世の仲間を見殺しにした裏切り者だと。


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