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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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二十一話

 クリスマスイブのムードをぶち壊しにするようなざわめきが、トイレの前で広がっていた。


 一人を鏡に叩きつけた音が聞こえていたらしく、いくらか殴られた俺を見るなり、道を開けるカップル達。


 今だけでも被害者面が出来るよう、ある程度痛めつけられていてよかった。


 涼子の腕を引きながら、一ノ瀬の元へ向かっている途中で涼子が逆に俺の腕を引いて制す。


「あれぇ……恭助?」


「やっと目が覚めたのか、良い感じにキマッてるとこ悪いがさっさと退散するぞ」


 警察に通報されたと考えるのが自然なほど、騒ぎは大きくなっている。


 組織(・・)の性質上、警察と互いに協力関係を敷いているが、末端の警官にまで組織の存在は明らかにされていない。


 以前ヤクザたちとバーで撃ち合った後に、死体をエドゥアルドや他の分隊員が処分し、そのあとは警察による捜査が始まっていた。


 つまり基本的に協力関係だが、度を越した殺人や暴行、イリーガルな個人の行動は看過されていないということだ。


「おかえりぃ~何か騒がしいけど……」


 一ノ瀬の元まで戻ると、急いで荷物をまとめる。


「悪いが問題発生だ。さっさとズラかろう」


「今エドさんに連絡するね……一応聞きたいんだけど、涼子ちゃんが関係してるの?」


 俺の自業自得だが、一ノ瀬はすぐさま左耳に掛かった髪を上げ、装着されたカナル型イヤホンのボタンを数回押した。


「まぁ少しだけな」


 実際成り行きで連れてきただけで、問題は『新羅(しらぎ)カンパニー』のバカ息子こと新羅(しらぎ) (ゆずる)だ。


 散々バカな事をやってきたヤツだが、俺のようにヤクザの息子という連中が多い七浜第一高校で『お山の大将』をやれているのは他でもなく、その背後にいる兵隊の存在だ。


「うぅ~レストランも予約してたのにぃ~」


 ふざける一ノ瀬と大人しい涼子、二人の手を引いて直通エレベーターへと向かう。


 本当なら騒ぎを避けるために別のルートを通りたいところだが、生憎と突然連れてこられて、このビルの構造を把握できていないのだ。


「一ノ瀬、なんか武器になりそうな物はあるか?」


「せっかくのデートなのに、物騒な物なんて持ってきてないよぉ~」


 そう嘯く(うそぶ)一ノ瀬に涼子を任せ、俺は大量の紙袋を抱えて直通エレベーターへと向かい、騒ぎのせいか一時的にエレベーターはがら空きになっていた。


 三人で乗り込んだエレベーター内で、終始呆けていた涼子が項垂れながら口を開く。


「へへっ……恭助ぇ、また助けてくれたんだね……嬉しい」


 独り言のようにたどたどしく呟く涼子に答える。


「まだ助かって無いだろ」


 そもそも助けるもなにも、涼子は自分の意思で新羅から薬を買ってラリってる。


 それに今、新羅の手下に襲われる理由があるとすれば、俺の暴力に対する報復なのだから。


「涼子、お前は長尾組の件で懲りていると思っていたが、どうしてまたあんな連中から薬を買っているんだ」


 違法薬物に当然、かなりの中毒性があり断つことは困難を極めるだろうが、自立を促す団体が存在し、最悪警察を頼れば良い。


 それらを利用すれば、今のように俺たちのような人殺しに関わる事もないだろうに。


「あたしがピンチになったら、また恭助が助けてくれるでしょ? あんな女より……あたしを……ふへへ」


 一言で言うなら()んでいる。


「バカかお前は……──」


 こんな病んだ女を助けたところで、薬物の依存に抗えず同じ事を繰り返した挙げ句に死ぬのだろう。


 だがそんな涼子の姿が、今は亡き母親の姿に重なる。


「──せめて出来る限りの事はしてやるから、薬は止めてくれよ……弱っていくお前を、見てられない」


 エレベーターの階層表示を見ながら、そう呟くとなぜか一ノ瀬の指先が俺の制服の袖を摘まむ。


 それが何を意味するのか分からないまま、目的の階層まで到着すると、俺たちと入れ違いで黒服たち数人がエレベーターへと乗り込んだ。


 俺たちはまだ狙われていないようだと安心し、ランドマークタワーから少し離れた反対車線側の路側帯で駐車されている青のセダンへと向かった。


 荷物をトランクへ押し込め、一ノ瀬は助手席に座り、俺と涼子は後部座席に座るとエドゥアルドはハンドルを握ったまま黙っている。


「あぁ~呼びつけて悪かったが、どうやら俺たちはまだ狙われていないようだ」


 俺が日本語で伝えたが、その言葉の意味を理解していないのか、エドゥアルドは無言を貫いている。


「あ、もしかしてあの黒服の人たちが日向くんと涼子ちゃんを狙ってたの?」


「たぶんそうだ。奴らは『新羅カンパニー』の兵隊だろう」


「うぅ? 手練れって言うなら、さっきから私服でつけて来た人たちの方が強そうだよ?」


 一ノ瀬がチラリとルームミラーを覗くと、俺の位置からでも見えるスモーク越しのガラスから写るカジュアルな服装の若者が、どこかへ電話を掛けている様子だ。


 その若者の胸元には、軍人などが良く着けているドックタグというやつがチラチラ見える。


「全然気づかなかった……」


「そうなの? てっきり日向くんは逃走経路がバレても平気だから、堂々としてたのかなって……じゃあ作戦変更ですねエドさん!」


 一ノ瀬の言葉に小さく頷くと、ゆっくりとシフトレバーをローへ入れて発進させた。

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