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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十九話

 両手いっぱいの紙袋に詰まった服の内訳は、女物八割に男物二割といった感じで、当初の目的『俺の服を買いに来た』はかろうじて果たした形だ。


「次はここ!」


 ビシッと勢いよく指差す方向には、天高く聳える超高層複合ビル『七浜ランドマークタワー』


 当然来たことはない、だがこの街で『七浜グランドホテル』に並ぶランドマークなのだから、知らない方がおかしい。


 当の一ノ瀬は持っていた雑誌をしげしげと眺め、何度もビルと雑誌を見比べる。


「えへへ~♪ じゃあ行こ!」


「あぁ……今度はなにをしに行くんだ?」


「え、えぇ~っとぉ~……」


 しどろもどろな一ノ瀬が雑誌のとあるページを見せてき。


 そこには『クリスマスイブの定番デートスポット10選』なる見出しと『展望台からの最高の夜景で、好きなあの人と……』などと書かれていた。


 なんとも俗物的な見出しだが、人殺しが日常の俺たちからすれば、こんなデートスポット巡りやショッピングなんかの束の間の休息が心地よい。


 一階から五階までは『七浜ランドマークプラザ』となっており、専門店などが立ち並ぶショッピングフロアだ。


 五階層までのフロアを見渡せる吹き抜けがあり、そこはカップルや家族連れ、果ては外国人観光客でおおいに賑わっている。


 そしてここでも様々なものに目移りする一ノ瀬に付き合い、日用雑貨からインテリアやアクセサリーまで、女性受けの良いものを贅沢に買い続けた。


 こんなことならここで買い物を済ませておけば良かったのにと、一ノ瀬に恨み節を放つが本人はどこ吹く風。


 一通りの買い物を終えて展望台直通のエレベーターがある三階の受付へ行くと、すでに予約をしていたのか、長蛇の列をスルーしてエレベーターへ乗り込む。


 カップルたちで犇めき合うエレベーターが、静かに上がっていく事が分かる、液晶ディスプレイに表示される階層はあっという間に69階を指した。


 皆銘々に感嘆の声と共にエレベーターを降りていくと、地上を照らす淡い光に引き寄せられるように、巨大な一枚板のガラスへ張り付く。


 一ノ瀬が興奮気味に小走りで先を行き、ノロノロと後を追う俺を急かすように手招きをしながら窓際へ立つ。


 俺も遅ればせながら窓際に立ち、そこから見える景色に息を飲んだ。


「キレイ……」


 一ノ瀬からわずかに漏れたため息混じりの感嘆の声に、小さく同意するよう頷く。


 眼下に広がる夜景──煌々と輝く街の灯りに、一際目立つ大観覧車の鮮やかなネオンライト。


 そして俺が二日前に死闘を繰り広げた『七浜グランドホテル』に、街の明かりすら飲み込む黒々とした東京湾が水平線の先まで続いている。


 傍らの一ノ瀬を見ると夜景に魅了されたよう、ガラスに細い指を当てて隣にいる俺ですら聞き取りにくい小さな声で呟く。


「こんな平和がずっと続けばいいのに……」


 白息がガラス窓を一瞬白く染め、それを細い指先で拭うと蒼く深い瞳がこちらを向いた。


「どうしたの日向くん?」


「いや……なんでもない」


 俺はもう一度夜景を眺めると、近くにあったベンチへ腰掛けた。


 少し遅れて一ノ瀬も俺の隣へ腰掛ける。


「少し疲れたねぇ~なにか飲む?」


 カフェを指して提案され、ベンチに荷物を置くと俺は立ち上がった。


「俺がなんか買ってくる。なにがいい?」


「えっとじゃあ~あったかいココアがいいなぁ~♪」


「分かった。ちょっと待ってろ……」


 一ノ瀬の財布を貰い人だかりの出来ているカフェへと足を運び、数分待ってようやく一ノ瀬のご要望のホットココアと俺のホットコーヒーを買って戻ろうとしたところ、最悪な奴と鉢合わせた。


「チッ……」


 思わず舌打ちが漏れると、青筋立てる茶髪に高級スーツと不釣り合いな金時計をつけた男──新羅(しらぎ) (ゆずる)こと『新羅(しらぎ)カンパニー』のバカ息子とその御一行が行く手を塞ぐ。


「あぁ? 誰に舌打ちしてんだオタク野郎」


 バカ息子とその金に群がる俺と同じ『七浜第二高校』の制服を着た取り巻き男子生徒二人が、俺の肩を組む。


「この前財布没収してやったのに、まだ懲りねぇのか?」


 新羅の挑発にヘラヘラと笑いながら、俺のポケットから一ノ瀬の財布を抜き取る取り巻き。


 そう数日前、一ノ瀬と出会った日にカツアゲをしてきた野郎とは、このバカ息子と取り巻き共だ。


「譲くん、コイツ女モノの財布なんか持ってるよ。ッゲ! しかもめっちゃ金持ってるじゃん!」


「ふーん。ヤクザの息子だし、コイツ盗んだんじゃね?」


 取り巻き二人が厭らしい笑みを浮かべながら、一ノ瀬の財布から札束とクレジットカードを引き抜く。


「YUKIKO ICHINOSE? おいこれ、雪子ちゃんの財布じゃ……」


 取り巻き二人が新羅を見ると、バカ息子はなぜか顔を真っ赤にして憤慨していた。


「このオタク野郎! よりにもよってユキちゃんから財布をギってやがったのか!」


 なぜ俺が盗んだ前提なのか分からんが、取り敢えず俺の胸ぐらを掴まないとマトモに会話を出来ない性格なのは健在なようだ。

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