十七話
見覚えのある白一色の長い廊下を、俺たち四人はまるで囚人のように並んで歩かされる。
前を行く三人は用心深く拘束衣を着せられ、荷物のように運搬されており、逆に俺は一ノ瀬と手錠で繋げられ恋人のように腕を組ながら歩く。
迷いそうな廊下を突き当たりまで行くと、暗く広々とした円卓の部屋へと招かれる。
円卓の最奥の巨大な影は俺と同じ、1番目のクローン『根源』その傍には14番目のクローン『咆哮』が居た。
「裏切り者たちを捕まえて戻ったか……No.=2」
仰々しい物言いをするシードに、龍一はポリポリと頭を掻きながら円卓の席につき、アルヴァスやセレナも氷華先生たちを並べると、席へつく。
良くみると俺が見たことのない人間が何人か居る。
「あ、あー単刀直入に言う。俺はこの四人を再び、組織に招き入れたいと思ってんだ!」
「はぁーーー!!!???」
龍一の提案に真っ先に異を唱えたのはセレナだ。
「意味わかんない! コイツら組織裏切った上に異常者なんでしょ!?」
「まぁ反対意見が出るのも当然だよな……だがNo.=1とNo.=5の意見を聞けば、少しは理解してもらえるはずだぜ?」
そう言って奥の影が二つ揺れた。
薄明かりの中でも判然としている事、一人は細身の黒人で宗教的な理由なのか、やたらとアクセサリーが目立つ。
薄明かりじゃなくても分かる場違いなコスプレ野郎、漫画なんかに出てきそうな海賊風のコートにシャツ。
また胸に巻かれたホルスターにはフリントロックピストルのように拳銃が刺さっており、少しの挙動で腰のカットラスがカチャカチャと音を立てる。
その二人が英語で何やら説明を始めたように見えた。
というかさっきから龍一を含め他の連中も、全員もれなく英語で話しているので、学の無い俺にはさっぱり分からない。
緊張の高まる円卓では英語での白熱した討論が繰り広げられ、それはさながら字幕吹き替え無しの洋画を見せられているようなものだ。
たまらず傍らの一ノ瀬へ耳打ちする。
「なぁ、アイツら何話してんだ?」
「えっと、日向くんたちを許すか許さないか、みたいな感じかなぁ~」
一ノ瀬が通訳として、連中の会話を簡単に説明してくれた。
内容としては、細身の黒人と海賊風の白人が異能者──羽籠 隆義に敗れ去ったおかげで、数多の銃火器に加えて兵員輸送車を奪われたらしい。
そしてそんな羽籠には、凄腕の殺し屋──朱 惠琴に、同じく異能者の栫井 幸奏が仲間に加わり、手に終えない状況のようだ。
朱は元々、羽籠と行動を共にしていたが、あのメンヘラサイコ女の幸奏が組めば手がつけられないというのは分かる。
「そんなわけで、対異常者に関しての知識を持つ元No.=3以下三人の裏切りを看過しようってな話だ。まぁ許した訳じゃないから、気に入らなければ仕事中にでも殺しちまえ! ハハッ」
話が纏まったのか龍一が席を立つと、氷華先生の前へ行き拘束を解いた。
一人の異能者を前に、その場に居たナンバーズ全員が武器に手を掛け緊張が走る。
「俺たちの意見は纏まった。あとはお前の意思次第ってな感じだな」
「あら随分優しい譲歩ね。もし私が断ったらどうなるのかしら?」
通訳の一ノ瀬から話のあらましを聞いていると、氷華先生は靦然とした態度で嘲笑を浮かべる。
「もちろん秘密保持の為、ならびに仲間殺しと裏切りの代価を持って処刑する。その巻き添えで雪子もな」
「はぁ~そう来ると思ったわ。でも貴方は私が組織を抜ける前の約束を守ってたようだし、私一人が協力するくらい構わないわよ」
「それじゃあダメだ。ソルとスミスも協力してもらう」
「それは二人に直接言ったらどうかしら? 親友だったなら平気でしょう?」
「二人も拘束を解くのはリスクが高過ぎる。お前一人が決断しろ……」
龍一が拳銃を引き抜くと一ノ瀬へ向けて銃口を向けた。
そして向けられた当人の一ノ瀬は、一瞬ビクリと跳ねたものの抵抗や身動ぎもせず、静かに瞼を閉じ俺の手を握ったまま小さく震えている。
「銃を下ろしなさい龍一……」
「おっと異能は使うなよ。返事はイエスかノーだ。まぁノーと言えばお前の家族は、即あの世行きだがな?」
まるで脅迫。いや思えばコイツは最初からそうだった。
選択の余地など与えず、相手に自分の望む答えを言わせるために手段を選ばない。
「…………わかったわ。ソルジャックもカルロスも、再び組織に忠誠を誓う」
氷華先生の答えに満足そうな笑みを浮かべると、龍一はホルスターへ拳銃を収めた。
今ハッキリ分かった。俺はこの組織が、記憶を捏造されて作られた親友──赤井 龍一が嫌いだ。
コイツらのやり方も、龍一の思想も大っ嫌いだ。




