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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十六話

「おいおいマジかよ……」


「どーして人間(ヒト)にこんなことが……」


 一ノ瀬と龍一の驚く声が聞こえ、俺の身体中の傷が完全に塞がっていくが、急速な治癒に神経痛のような痛みが全身を支配する。


 それが止んだ頃に手を見ればさっきまで開いていた傷が、裂傷痕となって塞がっていた。


 残念ながら大方の予想通り、潰れた左腕だけは再生しなかったが、それでも成すべき事は成せる身体に戻っている。


「ありがとう一ノ瀬、もう大丈夫……──」


 一ノ瀬の支えを断ると、腰に付けていたハーネスと鞘を外し、制服のネクタイを捨てた。


 そして大きく息を吸うと、あの異様な女に聴こえるよう大声を張り上げる。


(ひとみ)! お前は誰を待っているんだ!」


 全員の視線が俺を向く、戦っていたソルジャックやカルロス、アルヴァスにセレナ、そして赤ん坊の顔を張り付けた化け物どもに守られる異様な女も。


「ヒヒヒ……」


 異様な女は未だ嬉々として笑う。


「お前が待つ男がお前の子供を殺した! ならば何を怨む? 何を憎む!? お前が殺してきた赤ん坊は、お前の心の傷を埋めるオモチャじゃない!!」


 今話している内容は少しだけ氷華先生に聞いたことに、俺の妄想を脚色したものだ。


 付き合っていた医者は、恐らく遊び半分だったのだろう。そのせいで彼女の生んだ子供、病気と偽ったのかもしれない。


「ヒヒッ……ヒ……」


 そして精神を病んだあの女は、異能を使って乳幼児を大量虐殺した過去があると、氷華先生に軽く聞いたのだ。


「もう止めよう! お前の子供は死んだ!!」


 赤ん坊を象った異形の怪物。それは想像するに、あの女が望んだ妄想、願望が備わった異能なのだろう。


 彼女は自らの子供が死んだ事実が、認められ無かったのかもしれない。


「チガウ……チガウチガウチガウ!!!」


 どうやら俺の想像した通りだったようだ。


 赤ん坊の化け物が、彼女の動揺に合わせるよう一斉に暴れ始め、俺は一直線にあの女の元へ駆け出した。


 すると予想通り、今まで戦っていた連中には目もくれず、ズルズルと這い寄ってくる。


「あとは俺に任せろ!」


 散々殴られてきた肉塊の恐ろしさは、身に沁みて分かっている。


 だがコイツらの弱点は、遅鈍さではない。その攻撃の単調さだ。


 見た目が赤ん坊顔を無数に張り付けた化け物なだけに、攻撃というより人間相手にオモチャ遊びをするような単純さがあった。


 だからこそ、本来なら一撃で絶命に至る攻撃をアルヴァスや龍一は回避し続けられたんだ。


 複数体現れてからは、あの瞬間移動が無くなった。恐らく数体を操る思考力がないのだろう。


 そして動揺すれば、瞬間移動ではなく反射的な防衛行動に出る。


 叩きつけは瞬間的な脚力強化で避け、ジグザグに走ることで掴みをかわし、体当たりは思考加速と肉体強化で回避した。


 そうしてたどり着いた女の元へ駆け寄ると、同時に強烈な右ストレートを放った。


「お前がどんだけ不幸だったのか……俺には分からない……話を聞けば同情するだろう──」


 そう言いながら鼻血を出し、怯える女のギトギト髪を引っ張り、無理矢理立たせるとそのまま右腕のみで首を掴み持ち上げる。


「──怨むなら俺を……俺だけを怨め! 他のガキや無関係な人間でなく、お前を殺す俺だけを怨み、憎みながら死んでいけ!」


「ガッ……ギギ……」


 苦しそうに俺の腕を鋭い爪で抉り掻き(むし)る。


 赤ん坊たちの悲痛な叫びを一身に受け、右腕に最大限の力を込めた。


──アンリミテッド──


 ロアーの声が聞こえた瞬間、ゴキリと音が鳴り、異様な女の首がくの字に曲がった。



***



 真っ白な視界が徐々に晴れていき、気付けばうたた寝していたかのように、車の振動で意識が覚醒していく。


 今も耳の奥で赤ん坊の鳴き声が、耳鳴りのように残っているような気がする中、ゆっくりと顔を上げて周囲を見渡す。


「あぁ~目が覚めたぁ? えへへ~」


 聞き慣れた間延びするアホっぽい話し声がし、差し向かいの座席に目をやると一ノ瀬がヘラヘラと笑っていた。


「ここは……いっ!」


 何処だ。っと問おうとした時、激痛が全身を巡り思わず声に出た。


 潰れた左腕、肩を深々と抉る刀傷、手錠に繋がれた右腕には無数の引っ掻き傷がある。


「って、手錠……どういう事だよ」


「えへへ~日向くんなら簡単に解けるだろうけど、出来れば大人しくしててね♪」


 なんだか初めて佐野や久世と会った時を思い出す。


 あの時も俺は脅されて身動きもマトモに取れなかったが、今は違う! なんて息巻いたところで、隣には銃を持った龍一がいるし、逃げられる筈だ。


 まぁそもそもタイマンで一ノ瀬に手も足も出なかった訳だし、今手錠を破壊して一ノ瀬へ殴り掛かっても、あっという間に返り討ちだろう。


「全員生きて帰れるってのに、これから処刑ってか……」


 散々裏切り者なんて罵られたんだ。これからコイツらに連れて行かれた先で行われる事は、想像に難くない。


 拘束衣をつけられた氷華先生が小さく鼻で笑った。

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