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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十五話

 現状を整理しよう。


 今はソルジャックとカルロスの異能者二人がメインで、敵の数を減らしているが、連戦による疲労の蓄積。


 それに加えて敵の数は倒すたびに勢いを増している。


 援護に回るのは魔術師のセレナと、拳法家のアルヴァスそして、今は絶賛言い争いの最中である龍一と氷華先生だ。


 特にセレナは魔法を使いすぎると、自身にも火が回るらしく連発や継続的な支援は事実上不可能。


 またアルヴァスは抜きん出た身体能力を持っているが、基本的には人間なので、肉塊の攻撃をマトモに受ければ挽き肉にされるだろう。


 龍一は銃の弾が尽きているし、肩を貸す一ノ瀬はこの中で最も突出しない人間で、氷華先生は異能の能力の制限で氷の壁を築いての防御程度しかできない。


「もう詰みかもな……」


 龍一の一言で一気に場が弛緩していく。


 一発逆転というか、氷華先生が俺たちを省みず能力を解放すれば、何とかなるかもしれないらしいが、氷華先生曰く「私以外が全滅すれば、躊躇無く力を使う」とのことだ。


 まぁその前に唯一の家族──一ノ瀬 雪子を助ける為に他の全員を身代わりにして逃げ回るとも言っていたが。


「あのさ、一つ気になる事があるんだが……誰かあの女と話したことあるか?」


 その場に居た三人に話を聞くが、三人とも首を横に振り、氷華先生が落ち着いた口調で話はじめる。


「『上位者(じょういしゃ)』というのは、そもそも人間を超越した存在。私たち人間とマトモに意志疎通を図ることはできないわ」


「いや、でも……ここに入った時にあの女『見つけた』とか『アナタ』とか、俺を誰かと間違えてたみたいなんだよ」


 その直後にあの赤ん坊の顔を無数に張り付けた化け物に、ボコボコにされて、ここまで逃げてきた。


 っとこれまでの経緯を簡単に説明すると、氷華先生はアゴに指をやり、なにやら考え込む所作をする。


「そうね……たしか彼女──(ひとみ)さんは、この病院の医者の子供を身籠ったって話を聞いた覚えがあるわ。それと関係しているのかしら……」


 驚いた事に、あの異様な風体の女に名前があったらしい。


「ハハッ! あんな変なババアとヤりてぇ男が居るとか、どんな変態野郎だったんだよ」


 龍一の軽口もわかる気がする。


「彼女は16歳よ? それにあんな風に精神を病んだのは、自分の初産した子供が乳幼児突然死症候群(SIDS)によって亡くなった事が原因らしいわ」


 マジかよ。どう見ても二、三十は年上だと思ってたが、分裂症の患者は老けて見えると言うし、その類いのものなのだろう。


「それでアイツは俺を、その医者と見間違えたって感じか?」


「筋は通っているわね。恐らくそうじゃないかしら」


 氷華先生も頷いてくれ、龍一も鋭い眼光を向けながら小さく首肯する。


「まぁ、上から降ってきた時の化け物も、さっきまで戦ってた俺らを無視してキョウを攻撃してたしな」


「そうね。でもどうするのかしら? 貴方が彼女が探していた男と似ているとして、それをどう利用しようというのかしら?」


「俺が囮になる!」


 氷華先生の質問に即答すると、小さなため息が聞こえた。


「はぁ……左腕は潰れていて、全身ボロボロなのよ? そんな状態であの中へ突撃すれば、間違えなく数秒でボロ雑巾ね」


「氷華先生、あの注射器をください」


 肩の傷を癒したあの注射器があれば、潰れた左腕はともかく、全身の筋肉の裂傷は修復される筈だ。


「『細胞操作(セルドライブ)』のナノマシンは何度も使えないわ。それに他の異能者の体液が侵入すれば、一時的に能力を使えない──」


 そんなデメリットを感じたことは無かったが、もしかしたらさっき言われた『深度(しんど)』とやらが関係しているのかも。


「──それに細胞分裂の速度が上がって貴方の…………まぁそれは良いかしら。まぁとにかく使わない方がいいわ」


「死ぬわけじゃないなら、俺は使いたい」


 また俺が即答すると氷華先生からはため息が、龍一からは爆笑が聞こえてきた。


「ハハッ! やっぱキョウ、お前はイカれてるよ!」


「黙りなさい龍一……」


 爆笑していた龍一に刃を向け制すると、氷華先生は白衣の内から注射器を一本抜き取る。


 その時にチラリと見えた試験管の束、その中にはさっき見た金属ナトリウムの他に雷銀なんかもあった。


 氷華先生の手に握られた注射器を受け取ろうと、血だらけの右腕を伸ばす。


「待ちなさい……──」


 氷華先生の制止され、咄嗟に腕を引っ込めた。


「──異能者は通常一つしか異能を持てないのだけれど、これはその縛りを一時的に解くナノマシンなの」


「はぁ……」


 俺の生返事に嫌な顔一つせず、降ろした俺の右手に注射器を握らせてきた。


「これを打てば一定時間、本来の異能は使えないのよ。だからあそこに突撃すれば、死ぬと思うわ」


 氷華先生の忠告を聞きながら、俺はそれでもやるべきだと強く思う。


 他の連中が死ぬ気で戦ってて、このまま何もしなければじり貧で死ぬ。


 だったら、せっかく一ノ瀬を守ろうとしたのが無駄になる……まぁあの時は咄嗟に体が動いて、意図的ではなかったが。


 ともかく俺は満身創痍な身体を直して化け物どもを引き付け、そのうちに他の連中、又は俺自身があの異様な女を殺す。


「全部俺がぶっ殺す……」


 一ノ瀬に肩を借りたまま首筋に注射器を当て、スイッチを押し込むと針が刺さる小さな痛みと共に、ナノマシンが体内に流れ込んで来ると、視界の端は青白い光で満たされていく。


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