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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十四話

 赤ん坊の鳴き声を掻き消すように注がれる銃弾の嵐、そして俺を捕らえた巨大な腕をソルジャックが引き裂き、肉の塊がズルリと落ちてリノリウムの床へ叩きつけられた。


 力を込めてデカイ指を(ほど)こうとするが、マトモに動くのは右腕だけ。


 崩落した天井から降りてきた赤髪の男──俺を裏切り者と罵った赤井(あかい) 龍一(りゅういち)が大型のサバイバルナイフ片手に降りてきた。


「よぉ昨日ぶりだな……」


 いつもの飄々とした口調ではない。そして俺を裏切り者(・・・・)のクローンとして、卑下する目を向けてくる。


「あぁ今日も会えるなんて、光栄だよ。龍一……」


 俺を見下ろす龍一が身を屈め、サバイバルナイフの切っ先を頬へ向け、軽く撫でるように一筋の赤い傷跡をつけた。


「減らず口叩くじゃねぇかユダ(・・)


 『イスカリオテのユダ』この世界で最も有名な宗教にまつわる逸話が残る裏切りの代名詞だ。


「光栄な名前で呼んでくれるじゃないか、俺は良く知らないが?」


「そうだろうな。お前にそんな余計な知恵は授けてねぇからな」


 吐き捨てるようにそう言った龍一が、俺の目にナイフを突き立てようとした時、予想外の場所から制止の声が飛んだ。


「龍一くん!」


「なんだよ雪子、別に殺そうなんて思ってねぇぞ?」


 平気で嘘を吐き「冗談だ」と言わんばかりにおどけると、手に持ったナイフで肉片を切り取っていく。


「ほら、終わりましたよお嬢さん」


 龍一が肉片を切り取り終わると、ナイフをしまって静かに俺から後退る。


 一ノ瀬の肩を借りて、潰れた左腕の激痛を堪えながら小さく耳打ちした。


「どうして助けたりした……俺は敵だろ」


「先に助けてくれたのは日向くんでしょ? それに──」


 一ノ瀬の視線の先には高速移動で攻撃をかわしながら戦うソルジャックと、強化された肉体で肉弾戦を挑むカルロス。


 それに続々と増殖する肉塊へ、龍一の銃撃とアルヴァスの軽快な攻撃、そして体に炎を纏いながら肉塊を燃やすセレナたちが、俺と一ノ瀬を守ってくれる。


「──今は協力しないと、生き残れない状況だから……」


 一ノ瀬がそう言ってフッと笑った。


「分別がつくようになったのね雪子。なら話は早いわ、この空間『異界(いかい)』から出るには、異能を発動した『上位者』を始末しなければならないの」


 青い瞳に光を宿した氷華先生が一点に、増殖する肉塊の中心に居る異様な女を見つめながら口を開いた。


 また知らない専門用語が出てきたが、要はこの謎空間を作ったあの女を殺せば良いだけの話だろう。


「とにかく、あの赤ん坊の肉塊をどうにかしないと……弱点とか無いんですか?」


「彼女の異能は初めて見たのよ。弱点なんて分からないわ」


「それじゃあ……例えば異能名から推測するとか?」


「あら? 貴方はそもそも勘違いしているようだけど、異能に名前を付けて呼ぶのは、異能の発現をイメージしやすくするためなのよ? 名前を付けてない能力者もいるわ」


 失念していた。そう言えば、さっきからソルジャックやカルロスは今も無言で戦っているし、氷華先生もほとんど異能名を叫んだりしていない。


 栫井や羽籠も……俺だけめちゃくちゃ異能名叫んでたのって超恥ずかしい……


「まぁ貴方は見るからに『深度』が浅そうだし、咄嗟に異能を使えないタイプそうだから、異能名に固執するのは仕方ないわね」


 氷華先生にも別角度からの慰めをもらったところで、残弾が底を尽きた龍一が戻ってくる。


「なに楽しそうに話してんだ? こっちはあのうるせぇ赤ん坊の化け物殺してんのによ」


「あら、その割には数が減らないわね? もしかして手加減してるの?」


「て、てめぇ……だったら昔みたいに、なんかアイデア出せ!」


「そうね。貴方全員がセルシウス度-80℃以下まで耐えられるなら、私がアイツらを氷漬けにしてあげるわ」


 チラリと氷華先生の眠たげな目が俺を見た。


 今ですら白息が出て軽く霜が張るくらい寒いのに、その上まだ下げるとなると、確実に俺の左腕は壊死するだろうな。


「冗談だろ。あー、あんたは異常者の中でも欠陥品だったな」


 龍一の軽い嘲笑に、出会って初めて氷華先生が怒りを露にした。


「フフッ……坊やも、友人や家族、大切な人たちと一緒に生きたまま焼かれれば、私と同じ異能が宿ったかもしれないわね」


 微笑みはしてるが目の奥はまったく笑っていない、俺は自然と妹として一ノ瀬はどういう顔をしているのかと窺う。


「懐かしいね二人とも、昔はいっつも喧嘩ばかりしてた」


 姉とは全く違う意味で微笑みを浮かべていた。

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