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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十三話

 天井の亀裂がみるみる広がり、重く膨れ上がったコンクリートがその下に居た一ノ瀬を潰そうとする幻視を見た俺は、咄嗟に駆け出した。


──アンリミテッド──


 咆哮(ロアー)の声が頭に響き、崩落する天井がスローモーションに見えるが、俺の足はそれより早く動く。


 それでも一ノ瀬までの距離は遠く、視界の端に青白い光が映ると壁際のスロープと右手首を鎖で固定するイメージを浮かべる。


(えにし)!!」


 崩れる天井に思わず身を屈めようとする一ノ瀬の細い腰を掴みながら、地面をスライディングの要領で滑り、スロープへと手繰るようイメージすると右手が鎖に引っぱられた。


 間一髪砕けた巨大なコンクリートが、一ノ瀬の居た場所に落ちる前にスロープへと引き摺られて事なきを得る。


「大丈夫か一ノ瀬!」


 一ノ瀬の頭を押さえながら問うと、当の本人は何故助かったのか分からないと言った様子で俺を眺め小首を捻った。


 そして壊れた天井からは巨大な肉塊がベチャリと落ち、そこから赤ん坊の無邪気な笑い声が聴こえてくる。


「なにあれ……」


 降ってきた肉塊の存在が信じられないかのように、俺の腕を払い除けて立ち上がる。


「クソッ、厄介な奴が来ちまったよ……」


 あの赤ん坊の顔が無数に張り付いた肉塊が、土煙の中をのそのそと這っている。


 そんな肉塊が突然、強烈な衝撃波と共に落ちてきた場所から吹き飛んだと同時に存在が掻き消えた。


 薄くその場に舞い続ける土煙から、赤い光が2つユラユラと人魂のように揺れている。


「氷華、無事か?」


「カルロス、どう見ても貴方の方が無事ではないわね」


 なにやら英語らしき言葉で、土煙から現れたボロボロの忍者装束の黒人と氷華先生が話している。


「ちょっと何和んでんのよ! あんたの相手はこっちよクソアマ!」


 口汚く罵りながら、文字通り身体中から炎を吹き出す魔女──セレナが口から血を吐き出すと、その血がグツグツと煮たっている。


「彼我の実力差は分かったでしょう? これでも手加減してあげているのだから、大人しくしたらどうかしら?」


「ざっけんじゃないわよ!」


 セレナの雄叫びと共に火炎の波が氷華先生に牙を剥くが、当の氷華先生が冰刀を一凪ぎすれば、波は真っ二つに裂かれる。


「落ち着くんだセレナ! 身体に炎が周り始めているじゃないか!」


 どこから出てきたのか、水蒸気の中から飛び出してきたアルヴァスが自身のコートを脱ぎ捨ててセレナの炎を叩き消し始める。


「あんたまで! わたしはまだ戦えるわ!」


 金髪の髪を燃やし始めている状況でも、セレナは激しい殺意を振り撒く。


「あの化け物を見ただろ! 僕たちの敵はNo.=3だけじゃない!」


「ぐっ!」


 セレナにもあの肉塊が見えてなかった訳ではないようだ。


 カルロスのあの重症、そしてアルヴァスの共闘姿勢は、奴らに苦しめられたからなのか。


「良く見たら『師匠殺し』の坊やじゃないかしら? 久しぶりね」


「…………お久しぶりです。No.=3……」


「相変わらず嫌味が好きなようで安心したわ」


「嫌味ではありませんよ。僕を拾ってくれた事は、今でも感謝しています。ですので、その不名誉な二つ名で呼ばれても、僕はあなたを傷つけません」


「お人好しも健在のようね」


 なにやらアルヴァスと氷華先生の間に、バチバチと火花を散らしているよう、見えるのは気のせいだろうか。


 そんな四人を遠巻きに見ていると、また赤ん坊の鳴き声がどこからか聴こえ始め、一斉に周囲の警戒を始めた。


「ヒヒッ……見ツケタ……」


 突然耳元から聞こえた声に、思わず声を上げて驚いてしまった。


「うわぁ!」


「えっ! なに!?」


 一ノ瀬も驚いた拍子に俺にくっつくが、柔らかい感触を堪能するより先に、傍らでニチャリと黒い歯茎を見せて不気味に笑う異様な女が佇んでいた。


 赤黒く化膿した結膜と、見えているのかすら怪しい角膜の間から赤い光が灯り、突然俺と一ノ瀬が吹き飛ばされる。


 一ノ瀬を庇い、左腕が見るも無惨なほど粉々のぐちゃぐちゃの肉塊に変わっており、痛みを認識するよりも先に抱いていた一ノ瀬を離して黒桐を引き抜く。


 そして飛ばされた先に、待ち構えていた肉塊へ刃を突き立てた。


「がぁぁぁああ! このくそ野郎! 手加減って言葉を知らねぇのかぁ!!」


 左腕の激痛が猛烈な怒りを噴出させ、突き立てた肉塊から血が吹き出す中、無理矢理引き抜くと今度は十字に切りつけ、皺だらけの赤ん坊の顔に直刀を刺す。


 赤ん坊の悲愴な鳴き声に頭を痛めながらも、尚も燃え続ける怒りを発散するよう、素手で十字に切りつけた傷口に腕を突っ込み内側から捲るように肉片を引き千切った。


 ギャーギャー喚くブヨブヨの肉を柔らかくするよう、一発二発小突く度に赤黒い血が吹き出し、バケツの水をひっくり返したようにそれを浴びる。


「可哀想ナ赤チャン……」


 滝のように溢れる血が止まると、今度は肉塊が巨大な腕へと膨れ上がり俺の身体中を締め付けられ、ミシミシとまるで細枝を折るかのように、くの字へ曲げられる。


 潰れた左腕が激しく痛む、締め付けられて内臓が口から飛び出そうだ。


「テメェ! ぶっ殺す!」


 何度も吐いてきた怒りの言葉を撒き散らし、口からヘドロのような血がゴポゴポと溢れてくる。


──アンリミテッド──


 ロアーの声と共に全身に力を込めるが、肉塊の力がそれを上回るのか、内側からブチブチと筋繊維が千切れる音が聴こえるだけだ。


 圧死を覚悟したその時──突然から聞こえた銃声と共に、俺を締め付ける巨大な腕に長大な二本の槍が突き刺さる。


 マントを靡かせて金色の瞳に宿る光を向けて、ソルジャックが心配そうに俺を一瞥すると、突き刺さった長槍で肉塊の腕を切断した。


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