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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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十一話

 一ノ瀬と氷華先生の静かな対峙を遠巻きに見ていると、真っ先に俺の存在に気が付いたのは氷華先生だった。


 俺を一瞥すると、すぐに一ノ瀬へ視線を移す。


 その行為が意味指すところは、一ノ瀬の関心を引かせない為だろう。


 俺はすぐさま身を低くし、両脇の直刀の柄を押さえながらゆっくりと一ノ瀬の背後を取る。


 とうの一ノ瀬は、氷華先生の発した異能『絶対零度』の効果を知らないせいか、慎重に相手を見据え距離を取っていた。


 以前行った捕縛、拘束に関しては相手が幸奏であった為に容易だったが、今度の相手は一ノ瀬、相当の手練れだ。


 心得の無い俺が羽交い締めにしたところで、右手に持つ日本刀で反撃されるだろう。


 そんな事を考えながらすぐ傍まで迫った時、突然振り返ろうとした一ノ瀬の背後に慌てて掴み掛かった。


「くっ!」


 一ノ瀬の抵抗は凄まじく、首へ手を回そうとすれば、身を屈めそのまま足払いを仕掛けてき、俺がその場で避けると、ふわりとロングコートが舞い、気づけばサマーソルトの要領で顎を蹴りあげられた。


 一歩下がって頭を振って意識を保とうとするが、続けざまに一ノ瀬の拳底が人中を目掛けて最速で飛んでくる。


 慌てて顔を守ったが、衝撃は人中ではなく下腹部に走った。


「がはっ!」


 唾液を吐き出し悶える俺に、容赦なく追撃が来ると分かっていたが、氷華先生の横槍のおかげですぐに体勢を立て直せた。


「まだ行けるわね?」


「ま、まぁなんとか……」


 氷で出来た刀で守られ、俺はふらふらと向き直る。


 すると一ノ瀬は一瞬驚愕の表情を浮かべて、再び『霞の構え』をとる。


「日向くん……生きてたの?」


 冷徹な低い声で問われ「あぁ」と力無い返答をすると、一ノ瀬は蒼い瞳を潤ませ、桜色の唇を小刻みに震わせる。


「あの時、本当に死んだと思ってたのに……」


「奇跡的に生き返ったんだよ。龍一に聞かなかったのか?」


 恐らく最後の死の記憶、七浜グランドホテルで母親を殺した時の話をされているのだろう。


 一ノ瀬は小さく首を横へ振ると、一度大きな息を吐く。


「お姉ちゃんの話を聞いてから、日向くんが疑わしいとは思ってた……」


「疑っていたわりには、随分親切にしてくれたな」


「そうかな……近くで監視するために、演技をしてたんだけど……」


 そう言えばそうだった。


 一ノ瀬(この女)は最初から、ずっと演技をしているような気色の悪さを覚える奴だったが、まさか俺も信頼を勝ち得てはいなかったとは。


 いや、たしかにここ数日、何かにつけてずっと行動を共にしていたし、一ノ瀬が居なければ同じ部隊の仲間が俺の傍にいた。


「出会った時に言った『二人で夢を叶えよう』ってのは、嘘だったって訳か?」


「そう言えば信頼を得られそうだったから……かな?」


 眼前の一ノ瀬はまるで出会った頃のような冷徹な表情が張り付き、いつものように朗らかに笑っていた面影はない。


「ははっ、そうだった……お前は最初からそんな女だったよな」


 我ながら無様に笑うもんだと自分を貶める。


 少し、ほんの少し、一ノ瀬に裏切られたような気分だ。


「キョウ、貴方は下がりなさい……」


 氷華先生の肩を叩き、腰に携えた二振りの直刀──『黒桐(こくとう)』と夕雲(せきうん)を引き抜く。


「いいや、俺がやるよ。俺には肉親なんて呼べる奴は居ないが、家族ってやつの大切さが少しは分かるつもりだ……だからお前らに殺し合いはさせない!」


 一ノ瀬に対する小さな裏切りへの怒り、それを力へ変えるように氷華先生の前に立ち、やや身を屈める。


 初めて会った路地裏以来、二度目の対峙に緊張の色を隠せない。


 額を伝う汗がすぐにでも凍りつきそうなほど寒さの中、ジクジクと痛む身体から、ワイシャツに滲む程の出血している。


 少しでも力めば痛む全身に力を込め、一ノ瀬との距離を縮めようとした時──熱風が背後から吹き、真っ赤な炎が頬を掠めた。


「ずいぶん探したわよ! 裏切り者のお姉さん!」


 今にも胸ぐらを掴み掛かってきそう不機嫌な声──俺の記憶ではナンバーズの一人『セレナ』だ。


「はじめまして……見ない顔だけど、『魔術協会』の人間が、私に用かしら?」


 漆黒のローブから僅かに顔を覗かせ、両腕には赤く光るタトゥーが見える。


 そしてこちらへ向けた手の平から、白煙が燻っていた。


「へぇ~裏切り者の異常者(・・・)のくせに『魔法(まほう)』を知ってるんだ」


 フードから顔を出し、金髪のロングヘアーを靡かせ、ローブの裾から覗く真っ赤に耀くルーン文字のタトゥー。


「えぇ多少だけれど、知っているわよ。異能に憧れた無能力者の悪あがきの成果……だったかしら?」


「チッ! 言ってくれるじゃない……あんた私が大っ嫌いなタイプだわ!」


 セレナは両腕を突き出し、手の平からドラゴンの息吹きのよつな炎を吐き出す──が俺たちを巻き込む前に、氷華先生の氷の壁がそれを遮った。


「日向くんの相手は……わたし!」


 後ろばかりに気を取られて、眼前に迫る一ノ瀬が振り下ろす冰刀を、慌てて黒桐と夕雲の()で受け止め火花が散った。


「ぐっ……」


 一ノ瀬と俺の体格はあまり変わらないが、常人より遥かに筋力が高い俺が力負けしていた。


 つばぜり合いに何かコツでもあるのか、一ノ瀬の刀が眼前にまで迫った時、誤って左手に込めていた夕雲が滑る。


 受けきれなくなった右手の黒桐の刀身を滑る冰刀が、唾の無いせいで俺の指を跳ねようとしたすんでで、身体ごと動かして一ノ瀬の斬撃を回避した。


「はぁはぁ……」


 肩で荒く息をしながら白息を吐く俺とは対照的に、一ノ瀬の呼吸は浅く今度は中段の構えを取る。


 半分玄人のつもりだった俺だが、一ノ瀬を前にすると今までの相手が、いかに小物だったか思い知らされる。


 殺人に一切の余念が無く、俺の知らない技術の多くを体得しているようだ。


 条件で言えば、人間ではない上に武器は一級品、その上人知を越えた力まで備えている俺が、一ノ瀬を相手に素直に恐怖を覚えている。


「まったく……とんだ暗殺者だよ。一ノ瀬……」

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