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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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八話【幕間】

 黒塗りのハイヤーが走り去った後、羽籠が睨む先に兵員輸送車が間近に迫っていた。


 狙撃手は羽籠の部下たちを撃った時は違い、大人しく準備運動をしている羽籠を眺めている。


 それは消音器を付けている事から分かる通り、相手に狙撃手の位置を特定されない為。


 約三ヶ所からなる狙撃ポイントでは、最も狙い安く、だが発見されやすい場所には佐野が居り、ハイヤーの裏に隠れていた日向にも発見されていた。


 そして羽籠を撃ったスナイパーは久世、そして佐野と左右対称の位置には日向が抜けた変わりに黒人の少年が居た。


 ウガンダの紛争でLRAに洗脳教育を施された少年兵──コニーは混血児(ムラート)である。


 そんな一人のスナイパーと二人のマークスマンを歯牙にも掛けず、羽籠は二本のナイフを構え小さく呟く。


「『リフレイン』サイコーに楽しい殺戮(さつりく)ショーにしよーや!」


 厭らしい笑みを浮かべたまま、瞳に宿した赤い光をテールライトのように一瞬で構えていた位置から消え、煙りのように現れては消えを繰り返す。


 そしてものの数秒で輸送車のフロントウィンドウに、サバイバルナイフを突き立てた。


「ハロー! 殺し屋ども!」


 バラクラバを着けた軍服の外国人がブレーキを踏むと同時に、レッグホルスターから自動拳銃を引き抜き、羽籠へ銃弾を撃ち込んだ。


「ヒヒッ! 痛いなぁ~ずいぶんご挨拶やないかぁ~」


 額と右目から血を吹き出しながらも笑い、羽籠が頭を縦に振った時、フロントウィンドウにコツコツと潰れた弾頭がぶつかる。


 そして羽籠は左腕をくの字に構えた瞬間、強烈な風切り音と共にフロントガラスがくだけ散った。


 さらにカランビットの刃がバラクラバの外国人の首を跳ねると羽籠は飛び退き、兵員輸送車は轟音をあげて建物に衝突する。


「ええなぁ~ぞろぞろ出てきたわぁ~」


 兵員輸送車からは数人の男女、全員がマルチカムの迷彩服とバラクラバの上にガスマスクを付け、小銃と短機関銃で武装している。


 その中には小学校高学年ほどの体格の少年──本郷 (たける)も居た。


 完全武装の兵士達がジュラルミン製の盾を構え、攻勢を示す中最後に出てきた二人の外国人は場違いなほど軽装。


「全員! 撤退戦用意! 全力で逃げなさ~い!」


 いやに野太い男の声で女口調の黒人男性が、両手に装着した手甲型の鉤爪(かぎづめ)を鳴らしながら下知をとる。


 しなやかなで中性的な体つきながら、厳つい黒人の顔面に無理やり化粧をしたようなケバケバしさ彼は『組織(・・)』が誇る最高戦力──No.=1の名を冠する男。


「おぉ! 彼がまさに! 噂に違わぬ異常者(・・・)ということですな!」


 No.=1の隣に立つこの場で最も場違いな男。


 歴史の教科書に出てきそうな海賊がそのまま飛び出したかのような男──No.=5は両脇に差した二本のカットラスと胸に携えた二挺のフリントロック……ではなくトンプソンコンテンダーが特徴的である。


「ならばこのイスマイル! 皆が逃げるだけの時間を稼いで見せましょう! なーに私のし──」


 長い口上を述べている間に眼前まで迫っていた羽籠が、イスマイルの首へサバイバルナイフの切っ先を当てたまま止まった。


「長いごたくより、さっさと殺し合おうや!」


 武装していた男女全員が反応できず、慌てて背後を振り返るが羽籠は素早く飛び退き元の位置へ戻ると、さっきの運転手を殺した影響でボロボロになったカランビットとサバイバルナイフを放り、ジャケットの内側から新たなナイフを二本構える。


「さぁ後は私たちナンバーズに任せて、貴方たちは逃げなさい! 異常者(コイツ)の力は想像以上よ……」


 最後に絞り出したNo.=1の言葉に、真剣味を感じ取った武装集団は重装備を輸送車へ投げ捨て、最軽量の装備で脱兎の如く逃げ去る。


 そして羽籠は逃げ出した連中よりも手強そうな獲物を前に、興奮の色を隠しきれない様子。


「ヒヒッ! サイコーやでぇ……お前ら組織とか言う連中は軒並みおもろい……やっぱヤクザは戦争してなんぼやろ!!」


 羽籠が真っ先に飛び掛かったのはNo.=5──イスマイル。


 常人なら目で追う事すら出来ない、さらに訓練された兵士や元軍人であっても手も足も出せないようなスピードに、イスマイルは腰のカットラスを引き抜き、ナイフによる斬撃を受け止める。


「Oh shit! 流石は異常者(・・・)……人間離れしてますね!」


「No.=5! 援護するわよ!」


 カットラスで数度のつばぜり合いを行い、羽籠が軽く後ろへ飛び退くと今度はNo.=1──ヘススの鉤爪による流線的な斬撃が繰り出される。


 異能を持ってしても一撃を与えられない速さの攻撃を受けてもなお、厭らしく笑う羽籠が体勢立て直す為に一歩引いた瞬間全身から血が吹き出した。


「あぁ? いったいなぁ~……ピアノ線かぁ?」


 ヘススの芸術的な斬撃は、両手の指に嵌めたリングに掛かる鋼線を張り巡らせる為のアクションをも兼ねていた。


 勝利への確信に思わず笑みがほころぶヘススは、太い指を滑らかに動かす。


「蜘蛛の糸に絡められたようねぇ~どう? 降参する?」


「ヒヒッ! ええなええなぁ! おもろい戦い方すんなぁ~それで降参したら、なんや助けてくれるんか?」


「いいえ……あなたのような異常者は例え命乞いをしようとも許さないわよ?」


 それだけ言うと、ヘススは右手を天高く突き上げ左手を胸の辺りで伸ばし両腕でLの字を描くと、羽籠の肉体に数多の線が食い込み。


 やがて頭から胴体、指先足先に至るまで、なます切りにされた羽籠の身体中から血が吹き出し、透明な鋼線を真っ赤な液体が伝う。


「Oh my god……」


 傍らに居たイスマイルですら口を押さえて悶絶する光景だった。


 切れ目の入った身体がバラバラと音を立てて崩れていく、そんな姿を見れば誰でも絶句するだろう。


 だがそれを行ったヘススは平然とリングの鋼線を切り外し、バラバラになった死体から目を背ける。


「ふぅ~久しぶりに戦ったわね。まぁまぁだったかしら?」


「流石はNo.=1……恐れいったよ! ハハッ」


「いやぁ~ホンマやわぁ~まさかバラッバラになるとは思わへんかったわぁ~」


 ヘススとイスマイルが慌てて振り返ると、そこにはバラバラに崩れた筈の羽籠が全身から血を吹き出しながらも、首を鳴らし平然と座り込んでいた。


「どうやら、本当にバケモノらしいわね……」


 頭を撃たれても、身体を切り刻まれても死なない得体の知れない人間に最も相応しい言葉を放ち、二人は臨戦態勢を整える。


「ほな第二ラウンドの始めましょかぁ~」


 厭らしい笑みを浮かべながら立ち上がる血だらけのバケモノ(・・・・)を前に、二人は静かに息を飲んだ。

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