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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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七話

 日が傾き始める時分に協力を取り付けられ、無事に解放されてハイヤーから降りると早速、問題発生だ。


 幸奏の持つスマホの着信が鳴ると、露骨に嫌な顔をして電話に出る。


 発信者は氷華先生らしく、漏れる声に緊張の色が窺えた。


「センパイ、あの女ところで問題があったそうです」


「たった数時間だってのに……すぐに戻ろうか」


 ギターケースを背負い直すと、背後のリアウィンドウが音もなく下がり、中から羽籠が顔を出す。


「なんや? 問題でもあったんか?」


 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる羽籠に首肯すると、笑いながらドアロックを解除する音が聞こえる。


「闇医者先生のとこやろ? 乗ってたらええやん」


「早速の協力、感謝するよ」


 そう言って羽籠に招かれるままドアを開く──その瞬間、風切り音と共に顳顬(こめかみ)を掠め、羽籠の眉間に穴が開いた。


 血を流しながら顔面からリアシートへ突っ伏する羽籠の姿に、傍らの巨漢達が怒号を上げながら拳銃を引き抜く。


 俺は咄嗟に幸奏の手を引きながら慌ててハイヤーの影に隠れた。


 そして一気に思考を回転させる。幸いにも人通りに面していないおかげで、騒ぎにはなっていない。


 乗車タイミングで発砲した事はたしかだが、発射音がしなかったということは狙撃者はサイレンサーを装着している。


 そのせいで巨漢二人は右往左往しているだけだ。


 だがおおよその位置は分かる。羽籠を狙ったということは、目標の位置を視認できる範囲であり、高度な位置からの狙撃は不可能だろう。


「くそっ! どこからや!」


 運転手の男もハイヤーの影に隠れていたのか、スーツの脇から拳銃を引き抜き、発射位置と思わしい場所を覗き込む。


「おいあんた! 頭を下げ──」


 再び風切り音が劈き、運転手の男の右目が抉れると、ハイヤーのトランクに頭をぶつけたまま動かなくなった。


「チッ……だから言ったのに」


 『遮蔽物から二秒以上頭を出さない』あの時は久世が俺の服を引いてくれたが、俺がそれをしてやる義理はなかった。


 なんて言い聞かせながら、罪悪感を紛らわしているうちに見た目だけはデカイ巨漢二人が怯え、一人が小さな悲鳴を上げて明後日の方向へ走り出した瞬間。


 巨体の腹に穴が空き、その場で転けた巨漢の一人の頭が抉れピクリとも動かなくなった。


「羽籠を撃った射撃角と違う! まずいぞ!」


 傍らにいた幸奏の手を強く握り、身を低くしながら周りを覗くと目測数百メートル離れた建物の影から、スコープが光を反射しているのが見えた。


 そして巨漢を撃った一連の射撃速度はボルトアクションではない事を物語る。


 逆に羽籠と運転手を撃った銃弾は、狙いにくい頭部を的確に撃ち抜いている。 

 

 この埠頭近くの倉庫街は街や山から抜ける風の他に、海風が吹いている為、狙撃に向かないのは素人の俺でもよく分かる。


 建物の影に隠れている相手は恐らく一人、一撃目を胴体に当てて動きを止め、二撃目で沈黙させていることから生粋のスナイパーって感じはしない。


 あくまで素人感覚だがな。


「誰か双眼鏡……もしくは単眼鏡あるか?」


 幸奏ともう一人の同居人、朱に聞いたが二人は首を横に振る。


 狙撃を警戒していたとはいえ、双眼鏡なんて無いよな。


 小さなため息を吐くとアスファルトに何かが倒れる音が聞こえ、建物に隠れている狙撃手を見るとスコープの反射は消え、逆にもう一人の巨漢が別の角度から撃たれた痕を残して息絶えていた。


 最低でも計三人の狙撃手、それだけ居るというのに不思議なことが一点。


 なぜか俺たち三人は撃たれなかった。


 銃撃が止んだ時、運転手の死体から拳銃──トカレフTT-33──を奪い簡単なプレスチェックを行い、エジェクションポートに初弾が装填されている事を確認する。


 そして狙撃手が隠れていた建物に向かって二発の銃弾を発射した。


 当然距離があって当たりはしないが、建物の壁面と一階下の窓ガラスを割ったが、撃ち返すどころか一切の動きがない。


 ふと考えを巡らせていると、一台の輸送車がこちらへ近づいてくるのが見えた。


 それは組織の駐車場で見た覚えのある兵員輸送車だ。


「やべぇ! 強襲部隊か!」


 俺が慌てて運転席へ走ろうとするが、朱が俺の腕を取って頭を振る。


 すると俺の変わりに運転席へ乗り込んだ朱が、後部座席のロックを解除してくれ、俺は幸奏の手を引きながら扉を開けると顔を真っ赤に染めた羽籠が膝を着きながら首を鳴らしていた。


「うわぁ!」


 思わず驚きの声を上げると、羽籠がハンカチで血を拭いながら、いつもの厭らしい笑みを浮かべる。


「いやぁ~まいったなぁ~まさか突然撃たれるなんて思ってなかったわ」


 飄々とした様子で開いたままのドアから車外に出ると、呑気に伸びを始めた。


「あぁ~やっぱ一回死んだ後は軽く運動しやなアカンわ」


「なに呑気な事言ってんだ!」


 赤い光を宿した目を向け、俺へ笑顔を向けると深紅のスーツから二本のナイフを引き抜いた。


「うちの奴ら殺られて黙ってんのも(しゃく)やし、かるぅ~く運動したるわ……」


 右手に大型のサバイバルナイフ、左手に長大なカランビットを持ち、厭らしい笑みを浮かべながら輸送車へ向けて駆けた。


 それと同時にエンジンが掛かり、排気口から黒い煙を吹き始めるハイヤーへ幸奏とギターケースを押し込め、狙撃を警戒しながら最後に俺も乗り込んだ。


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