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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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六話

 朱が先導する事数分、三番倉庫から離れ賑わう表の倉庫街まで来ると一台のハイヤーの前で止まった。


 運転席のフロントウィンドウを叩くと、スーッとパワーウィンドウが下がる。


「その後ろのガキが例の?」


 さっきのチンピラより、いくらか利口そうな男がサングラスを外し俺たちを覗きながら、朱に問うと「そうだ」と首肯する。


「ちょっと待ってろ」


 そう言うと男は運転席から降り、後部座席のウィンドウを叩く。


 すると後部座席からは見覚えのある巨漢が二人、黙って降りてきた。


「入るのは一人だけだ……」


 巨漢の一人にそう言われ、幸奏を見ると「どうぞ」と言わんばかりに優しい笑顔を向けてくる。


 中にいるのは当然、目的の羽籠 隆義だろうが、仮に幸奏が行ったとしても色好い返事なんて期待できないだろう。


 俺はギターケースを背負い直して後部座席のドアを引こうと手を伸ばすと、巨漢の男に腕を掴まれた。


「身体検査が先だ」


「あぁそうだな……」


 男に従ってギターケースを下ろし、両手を上げる。


 当然だが俺はギターケースに入れた刀以外に持っていない。


 滞りなく検査が終わると「入れ」と指示されるが、乗り込む前に一つ言っておく事があったことを思い出す。


「俺に何かあっても、そこの女には手を出すなよ」


 俺の言葉に男たちは鼻で笑ったが、朱だけはしっかりと頷いた。


「幸奏もだ。俺に何かあっても誰も殺すな」


「えぇ~その約束は守る自信無いですよ? だってセンパイは私が殺すんですから……もしも先に誰かに殺されたら、発狂しちゃいます」


 笑顔を向けながら恐ろしい事を言う幸奏に苦笑し、ハイヤーに向き直るとドアを開けて、後部座席へ乗り込んだ。


「ん? あぁ~久しぶりやなぁ~允人(まさと)のせがれぇ~」


 暖房のきいた快適な車内で、向き合うように備えられた後部座席の上座には、俺をリンチした日以来のヒョウ柄のワイシャツに真っ赤なスーツを着た男──羽籠(はごもり) 隆義(たかよし)


 その男が親父と同じようなカランビットナイフを片手に弄び、足を組んで悠然と座っていた。


「そうだな。部下を使ってボコボコにしてくれた以来だな」


「ハハッ! 相変わらず生意気で元気そうやな。座りぃや」


 促されるままに対面へ浅く腰掛けると、羽籠は弄んでいたカランビットを折り畳みスーツのポケットへ仕舞う。


「それでぇ? あの闇医者先生から連絡あったんやけど、困ってるんやって?」


「あぁ……俺たちは組織(・・)に追われている。だからチカラを借りたい」


「はぁ~その組織なぁ~正直、俺らも困っとんねんなぁ~」


 羽籠は頭をポリポリ掻きながら懐から、数枚の写真を見せ手渡された。


 見れば一枚目には、どこかの取引現場なのかアタッシュケースを持った外国人と日本人、数人が無惨にも銃弾を浴びて地面に伏した写真。


 二枚目はどこか長閑な一軒家、そのリビングにむごたらしい親子の写真。


 最後に武装した久世と佐野らしき隠し撮り写真があり、二人と共に数人の兵士風の連中が写っている。


 恐らく組織に所属する隊員なのだろう。


「日本のヤクザやこの街の三合会(トライアド)、大陸マフィアにカルテルの連中とも違うんや。コイツら法ってもんを知らんのちゃうかってくらい、派手に動きよる」


 そう言われてみれば、これだけ人死が出ているのに、警察や軍が出た様子はない。


 ニュースなどでも報道されているそうだが、そもそもここのヤクザ共は戦争状態だ。死人が出るのは当然としても、誰も捜査しないというのはおかしい。


「たしかになんで警察は動かないんだ?」


「闇医者先生が言ってた事が正しければ、この国の法をある程度無視できるんやろ。元老院の寵愛を受けた秘密結社……やったか?」


 闇医者先生というのは氷華先生のことだろう。俺をリンチしたあの日も朱にそう命令していた。


 そしてその氷華先生が言っている元老院(げんろういん)に関する記憶は無い。もしかすると、相場か龍一に記憶をいじられているのか。


 どちらにせよその元老院が裏で糸を引いてるおかげで、組織(・・)は法律に縛られる事はない。


「そんな連中をまともに相手してたら、いくら人や金がいるか分からへん……ってのが、組長としての俺の意見や──」


 そう言うと羽籠は組んでいた足を解くと、前のめりになる。


「──そんで俺個人の意見としては、強い奴と殺りあえるなら何でもええねん」


 まるで少年のように目を爛々と輝かせながら語る羽籠に対し、俺は「そ、そうか……」っと若干引き気味に返事をした。


「協力に関しての返答を聞かせてくれ」


「条件付きならオーケーや。条件って()っても大したもんちゃうよ? 闇医者先生でも、外のイカれた姉ちゃんでも、允人の倅でもええから、俺とタイマン張ってくれ」


 そう言った瞬間、羽籠の瞳に真っ赤な粒子が集まっていき。


 俺は慌ててその場から立ち上がると、ルーフに頭をぶつけた。


「本気の殺し合いしたいんや……どっちが強い異能者か、白黒ハッキリさせたいだけ……」


 口角をゆっくりと吊り上げ、歪な笑みを浮かべたまま、羽籠はゆっくりとスーツのポケットに手を入れる。


 その所作の意図を察した俺は即座にルーフに片手を突き、左足で羽籠の上腕蹴って動きを止めさせた。


「いたたぁ~冗談やん……」


 そう言って冗談めかしく笑いながら左手を上げ、押さえられた右手のポケットから人差し指を引っ掛けたカランビットナイフをチラリと見せた。


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