五話
表の倉庫街の喧騒は、埠頭に入った瞬間からガラリと変わり、搬入用のトラックが慌ただし出入りしていた。
目的の場所は三番倉庫。 最奥の倉庫から三つ目に位置し、今も搬入作業が続けられている。
中には人種、風体がまちまちの日雇い労働者が中身不明の木箱やダンボールをトラックへ積み込んでいた。
「なんやお前ら」
制服姿の男女が倉庫内を覗いていれば不審だろう。関西弁のいかにもな男が突っ掛かってきた。
倉庫街へ行く事になって、薄々気付いていたが俺たちが協力を仰ぎに来たのは羽籠組の組長──羽籠 隆義だ。
「約束通り来てあげましたので、羽籠さんとやらを早く出してください」
いつもの高圧的な態度の後はすぐさま俺の後ろへ隠れ「ですよねぇ~センパイ!」などと話す。
「あぁ……まぁ」
俺の気の無い返事に青筋立てる男は周囲に何か合図をする。
すると作業の手を止めた一部の強面たちが、俺たちを取り囲む。
「おいガキ共……ワシら菊水会の直参やと知ってて喧嘩売ってんのか?」
ヤクザと言えば二言目には脅しだ。
「あぁ? 直参だろうとなんだろうと、テメェで買った喧嘩はテメェでケツ持てよ。ガキみたいにピーピー泣きつくしか脳が無いのか?」
「吐いたツバ飲むなや! クソガキがぁ!」
素早い右ストレートを叩き落とす。
パーリングで弾き、ダッキングで懐に潜り込むとがら空きの溝尾にボディーブローを叩き込む。
先の戦いでも分かるよう、俺の力は並みの人間より強い。ましてや挑発に乗せられて、ウォームアップもしてないような相手なら当然、くの字に身体を折ってその場に伏す。
「てめぇ! ぶっ殺す!」
周囲に控えていた男たちが、一斉に飛び掛かってくる。
「キャー! 怖いですぅ~センパぁ~イ!」
ウキウキと弾けた声を上げながら避ける幸奏を無視し、リミッターが切れないよう。そして相手を殺さないよう、全ての男たちを一撃で沈める。
顎ががら空きの男の顎先を拳底で砕けば、脳震盪でその場に膝を着く。
近づき組敷いて体勢を崩そうとしてくる相手をジャブやローでいなし、投げようとしてくる相手には、とにかく捕まれないよう逃げ回る。
スタンドでしかも乱戦での胴タックルを諦めた相手が、低空姿勢に入れば蹴りで殺す。
バックを取ればキドニーブローで動きを止めて、腕や足の骨を折る。
そうして出来た死屍累々の山、最後に汗だく血だらけのボロボロで立っていたのは俺だけだ。
「はぁはぁ……クソッ……」
頭に血が上って応戦してしまったが、協力を取り付けようと考えていた相手の部下をのしてしまった。
「キャー! 流石センパイですね!」
汗だらけだというのに、幸奏平気で抱きついてくる。
「私の白馬の王子さまですぅ~」
「あのな……お前のせいでこんな……」
俺の苦言も聞こえない様子だが、幸奏は通報して駆けつけた警官を殺した殺人鬼。
その気になればここにいた連中ぐらい殺せただろう。
まぁ変に手助けをされて、連中を殺せば協力どころではないだろうが、そもそもこの状況で羽籠に「協力しろ」とはとても言えそうに無い。
「你在干什么……?」
落ち着いた女性の声が二階から聞こえてき、見上げると見覚えのあるストライプシャツに黒のスーツパンツ、そして切り揃えられた黒髪とサングラス。
「朱 惠琴か……」
羽籠組に雇われた中国人の用心棒だ。
俺と目が合った朱がゆっくりと階段を降りてくる間、ショルダーホルスターに入ったノリンコの92式手槍を握っていた。
「誰ですか? あの根倉そうなシナ人」
「羽籠組の用心棒……らしい」
相変わらずこの女は同性に平然と毒を吐く。
相手が銃を持っているのは見えているはず、その気になれば俺たちは簡単に撃ち殺される。
「好久不见、怪我……大丈夫?」
俺たちに敵意がないことが分かったのか、ホルスターに納まっていた銃を抜くことは無く、死屍累々の山を一瞥し手を差し伸べてきた。
「あぁ、あの時はありがとうございました」
差し伸べられた手を取ろうとするが、俺の傍を離れない幸奏が俺の腕を掴んで握手をさせない。
するとそんな姿を見た朱が肩を竦め、フッと苦笑すると地を這っていた男が口を開く。
「お、おい何してるんや……カチコミやぞ……」
恨み言を漏らす男を見下ろす朱は深いため息を吐くと、作業の手を止めている連中へ向かいパンッと手を叩く。
「恢复工作!」
中国語が分からない俺でも、朱が伝えたい言葉が分かる気がする。
その考えは連中も同じようで、戸惑いながらも運搬作業を再開し始めた。
「組長のとこ……案内……」
そう言うと朱は倉庫の外へ促すよう歩き始める。
ちなみにここへ着た当初、なぜ幸奏が無意味に煽ったのかと聞くと「センパイの戦っているところを見たかったんです!」とのことだった。
つくづく異能者とやらの考える事は読めない。




