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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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五話

 表の倉庫街の喧騒は、埠頭に入った瞬間からガラリと変わり、搬入用のトラックが慌ただし出入りしていた。


 目的の場所は三番倉庫。 最奥の倉庫から三つ目に位置し、今も搬入作業が続けられている。


 中には人種、風体がまちまちの日雇い労働者が中身不明の木箱やダンボールをトラックへ積み込んでいた。


「なんやお前ら」


 制服姿の男女が倉庫内を覗いていれば不審だろう。関西弁のいかにも(・・・・)な男が突っ掛かってきた。


 倉庫街へ行く事になって、薄々気付いていたが俺たちが協力を仰ぎに来たのは羽籠(はごもり)組の組長──羽籠(はごもり) 隆義(たかよし)だ。


「約束通り来てあげましたので、羽籠さんとやらを早く出してください」


 いつもの高圧的な態度の後はすぐさま俺の後ろへ隠れ「ですよねぇ~センパイ!」などと話す。


「あぁ……まぁ」


 俺の気の無い返事に青筋立てる男は周囲に何か合図をする。


 すると作業の手を止めた一部の強面たちが、俺たちを取り囲む。


「おいガキ共……ワシら菊水会の直参やと知ってて喧嘩売ってんのか?」


 ヤクザと言えば二言目には脅しだ。


「あぁ? 直参だろうとなんだろうと、テメェで買った喧嘩はテメェでケツ持てよ。ガキみたいにピーピー泣きつくしか脳が無いのか?」


「吐いたツバ飲むなや! クソガキがぁ!」


 素早い右ストレートを(はた)き落とす。


 パーリングで弾き、ダッキングで懐に潜り込むとがら空きの溝尾にボディーブローを叩き込む。


 先の戦いでも分かるよう、俺の力は並みの人間より強い。ましてや挑発に乗せられて、ウォームアップもしてないような相手なら当然、くの字に身体を折ってその場に伏す。


「てめぇ! ぶっ殺す!」


 周囲に控えていた男たちが、一斉に飛び掛かってくる。


「キャー! 怖いですぅ~センパぁ~イ!」


 ウキウキと弾けた声を上げながら避ける幸奏を無視し、リミッターが切れないよう。そして相手を殺さないよう、全ての男たちを一撃で沈める。


 顎ががら空きの男の顎先を拳底で砕けば、脳震盪(のうしんとう)でその場に膝を着く。


 近づき組敷いて体勢を崩そうとしてくる相手をジャブやローでいなし、投げようとしてくる相手には、とにかく捕まれないよう逃げ回る。


 スタンドでしかも乱戦での胴タックルを諦めた相手が、低空姿勢に入れば蹴りで殺す。


 バックを取ればキドニーブローで動きを止めて、腕や足の骨を折る。


 そうして出来た死屍累々の山、最後に汗だく血だらけのボロボロで立っていたのは俺だけだ。


「はぁはぁ……クソッ……」


 頭に血が上って応戦してしまったが、協力を取り付けようと考えていた相手の部下をのしてしまった。


「キャー! 流石センパイですね!」


 汗だらけだというのに、幸奏平気で抱きついてくる。


「私の白馬の王子さまですぅ~」


「あのな……お前のせいでこんな……」


 俺の苦言も聞こえない様子だが、幸奏(コイツ)は通報して駆けつけた警官を殺した殺人鬼。


 その気になればここにいた連中ぐらい殺せただろう。


 まぁ変に手助けをされて、連中を殺せば協力どころではないだろうが、そもそもこの状況で羽籠に「協力しろ」とはとても言えそうに無い。


你在干什么(なにをしているの)……?」


 落ち着いた女性の声が二階から聞こえてき、見上げると見覚えのあるストライプシャツに黒のスーツパンツ、そして切り揃えられた黒髪とサングラス。


(しゅう) 惠琴(ふいくん)か……」


 羽籠組に雇われた中国人の用心棒だ。


 俺と目が合った朱がゆっくりと階段を降りてくる間、ショルダーホルスターに入ったノリンコの92式手槍を握っていた。


「誰ですか? あの根倉そうなシナ人(・・・)


「羽籠組の用心棒……らしい」


 相変わらずこの女は同性に平然と毒を吐く。


 相手が銃を持っているのは見えているはず、その気になれば俺たちは簡単に撃ち殺される。


好久不见(久しぶりです)、怪我……大丈夫?」


 俺たちに敵意がないことが分かったのか、ホルスターに納まっていた銃を抜くことは無く、死屍累々の山を一瞥し手を差し伸べてきた。


「あぁ、あの時はありがとうございました」


 差し伸べられた手を取ろうとするが、俺の傍を離れない幸奏が俺の腕を掴んで握手をさせない。


 するとそんな姿を見た朱が肩を竦め、フッと苦笑すると地を這っていた男が口を開く。


「お、おい何してるんや……カチコミやぞ……」


 恨み言を漏らす男を見下ろす朱は深いため息を吐くと、作業の手を止めている連中へ向かいパンッと手を叩く。


恢复工作(作業再開)!」


 中国語が分からない俺でも、朱が伝えたい言葉が分かる気がする。


 その考えは連中も同じようで、戸惑いながらも運搬作業を再開し始めた。


「組長のとこ……案内……」


 そう言うと朱は倉庫の外へ促すよう歩き始める。


 ちなみにここへ着た当初、なぜ幸奏が無意味に煽ったのかと聞くと「センパイの戦っているところを見たかったんです!」とのことだった。


 つくづく異能者とやらの考える事は読めない。

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