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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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四話

 栫井 幸奏と合流した俺たちは早速、龍一たちとの戦いに備え、ある人物に協力を取り付ける為に倉庫街に向かっていた。


 ただ残念なことに氷華先生ら三人は同行せず、俺と幸奏だけでの交渉となる。


 正直不安が残るメンツだが、ソルジャックやカルロスが来たところで満足に日本語を話せないし、氷華先生は病院に残らなければならない理由があるらしい。


 そして目立ち過ぎる刀とチェーンソーは、まとめて幸奏のギターケースへ入れて現在はタクシーのトランクだ。


 後部座席で幸奏が無駄にベタベタしてくるおかげで、運転手は特に何かを問うわけでもなく、目的地である『赤レンガ倉庫街』へ着いた。


 表向きは観光客向けの華やかな場所だ。


 今もこうして祭りのように出店が立ち並び、賑わいを見せている。


「あ、センパイ! りんご飴売ってますよ!」


「あぁそうだな。命さえ掛かってなければ、ここで遊んでいきたいところなんだがな」


 格好をつけて幸奏を制すると不意に「ぐぅ~」っと俺の腹が鳴った。


「あれれ? もしかしてセンパイ、お腹空いてません?」


「う、うるせぇ……ここ数日マトモに飯なんか食ってなかったんだよ」


「腹が減っては戦はできぬ、ですよ! おおいに腹ごしらえしましょう!」


 幸奏が立ち並ぶ出店へ向けて俺を引っ張る。まず最初はさっき話していたりんご飴だ。


 はっきり言って旨くはない。りんごの表面に飴が付いた非常に食べにくいものだが、唯一利点があるとすれば、隣にいる女子高生がはしたなく大口を開けて食べる様を見れるくらいか。


「う~ん! おいひぃれすぅ~」


 ピンク髪をピョコピョコ揺らしながらはしゃぐ姿に思わず見とれてしまう。っが、忘れてはならない。


 幸奏(コイツ)は数日前に俺を殺そうとしていた殺人鬼だ。


「あぁ、まぁそうだな……」


「あ! 次はアレです!」


 幸奏が指をさす方向には焼きそば、焼き肉、たこ焼きにフランクフルト、屋台名物のジャンクフードが立ち並ぶ一角だ。


 そして全ての屋台で五人前ずつ注文すると、街路樹のそばでそれらを広げていた。


「うふふ~至福ですぅ~♪」


「いくら腹減ってるって言っても、流石にこの量は食べきれないぞ……」

 

 目の前に広がる茶色いジャンクフードの山を前に、片や舌舐めずりをし、片や早くも満腹感。


 そして早速、幸奏は焼きそばを頬張り始める。次々に完食していく姿は、まるで歴戦のフードファイターのようだ。


「す、すごいな……」


「え? これくらい普通ですよ?」


 普通と言うにはあまりにも豪快な食べっぷりで、桜色の唇をソースと油で汚している。


 思わず母親のようにビニール袋に入ったおしぼりを取り出す。


「うぷっ!」


 幸奏の顎に手を添え、力加減が分からないまま、おしぼりで拭うと苦しそうな声を上げていた。


「あぁ、悪い……力加減がよく分からなかった」


「ぷはぁ~! もぉ~センパイって意外に強引なんですね」


 わざとらしく頬を赤らめる幸奏が、俺からおしぼりを奪うと自分で口元を拭い直す。


 街路樹の木陰から覗く人々の賑わい。ごった返す人波に自然と目をやり、怪しい人物が居ないかを見るのが癖になっている。


 特に俺たちへ近づく人間には警戒を緩めない、それが例え俺と同じ第一高校の制服を着た女子生徒だもしても……


「って……あれ?」


 着崩したブレザーに茶髪のセミロング、困惑した表情の女子生徒──濱田(はまだ) 涼子(りょうこ)が居た。


 つい四日前のテストの日に会ったというのに、相変わらず激動の日々のせいで久しぶりの再会のような気がする。


 俺に話し掛けるか悩んでいる涼子へ、俺は迷わず立ち上がり歩み寄った。


「よう、なんか久しぶりに会った気がするな涼子」


 本当に久しぶりな気がする。今や組織にもヤクザにも関係がない、暴力に縁の無い数少ない知り合いだ。


「え、あ……うん、久しぶり……かな?」


 いやにたどたどしい反応。しどろもどろに答え挙げ句に視線を反らす。


 なにかやらかしたか? っと邪推したが、そういえば組織の意に反して目撃者を逃がしたので、バレないように極力話し掛けるなと釘を刺していたんだった。


「あぁ~前の約束な。たぶんもう大丈夫だ」


 四日経って組織から追われる身になったおかげか、すっかり忘れていた。


 今や崩壊した長尾組の関係者探しより、裏切り者の俺たちのが優先度が高いはずだし、涼子と話していても問題無いはず。


「ホント? なら良かった……」


「あれれ? 誰と話してるんですか? セ・ン・パ・イ♪」


 俺は一瞬で自身の浅慮を後悔した。問題のある奴が一人居たのだ。


「あぁ~高校の同級生だよ」


「えっとはじめまして、あたしは濱田 涼子。もしかして恭一の彼女さん?」


 涼子が自己紹介する間、幸奏はじっと相手を値踏みするような鋭い目を向けていた。


「ふーんそうですか。私はセンパイの彼女です! ブスの分際で気安くセンパイに声掛け無いでくださいね♪」


 あぁ、幸奏(コイツ)は最初からこんな奴だったな。


「ぶ……」


 恐らく涼子は初めてだったのだろう。初対面でこれ程敵意を向けられる事は。


「おい幸奏……止めろ」


「はぁ~い!」


 俺の制止を本当に理解しているのか、能天気な返事と共にこれ見よがしに腕を組んでくる幸奏に、軽くため息が漏れる。


「わ、悪いな涼子。幸奏(コイツ)、変な奴で──」


「い、いいのよ気にしなくて! それじゃあね!」


 俺に食い気味で答えた涼子は、素早く踵を返すと彼女の頬に何か雨粒のような物が見え、挨拶をする間もなく走り去ってしまった。


 流石にブスと言われて傷ついたのだろう。今度学校で会ったらちゃんと謝っておこう。

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