二話
四人連れ立って歩いている姿を客観的に見れば、かなり異様だろうな。
完全武装の外国人二人に、制服姿の俺は腰に刀を差しているとくれば、確実に通報ものだ。
「どこに行くつもりなんですか?」
先頭を行く氷華先生に疑問をぶつける。
「五人目の異能者は、誰彼構わず殺す狂人よ。そんな彼女を仲間に引き入れようとするだけ危険」
「狂人……じゃあ、どうするんです?」
「他の異能者を引き込む必要があるけど、一人アテがあるわ」
俺が出会ってきた異能者は、どれも協調性なんてない変人ばかりだったが、それよりマトモなら問題ない。
「早速会いに行くって事なんですね」
「ええ、話が早くて助かるわ」
そう言いながら病院の中庭に出ると、トレンチコートを羽織りマフラーを巻いた女子高生らしき女の子の後ろ姿があった。
「お待たせしたわね」
氷華先生の声に「はぁ~」っと深いため息を吐きながら振り返った女の子は、ピンク色の長い髪を靡かせ、不機嫌そうに目を伏せていた。
「寒空の中で待たされるなんてサイテーです──」
不機嫌な女の子が顔を上げると、何故か瞠目する。
「──センパイ!」
突然弾んだ声を上げてこちらへ駆け寄ってくると、俺の手を握り満面の笑顔を向ける。
「あ……え? だ、だれ?」
俺の困惑に一瞬、眉根を寄せる女の子。
俺をセンパイと呼ぶ女子高生に心当たりがな……いや、一人だけ居た。
「もしかして本当に憶えてないんですか……」
「あぁ、いや、今思い出した。栫井だろ?」
雰囲気が変わり過ぎて思い出せなかったが、路地裏で襲われていたメガネを掛けた地味な女子高生──栫井 幸奏だ。
ピンク色の長い髪のせいでギャルっぽく見える。
「幸奏です! ゆ・か・な♪」
「あぁやっぱり栫井なんだな」
つい数日前に殺されかけたが、その時に通報しておいたから、今はまだ塀の中だと思っていたが。
「もぉ! ビックリしたんですよ? 目が覚めたらセンパイ居なくなってたしぃ~センパイ以外の男に触られたんで、思わず殺しちゃいました!」
テヘッと舌を出しておどけているが、まさかあの場に駆けつけた警官を殺して今ここに居るのか……
「貴方の知り合いなら話が早いわね。もしかしてこの間、腕を折った原因は彼女なのかしら?」
「えぇまぁ……」
あの時は死にもの狂いで逃げられたが、今目の前に居る油断ならない相手──栫井に手を握られている。
「あのぉ~あんまり気安く私の! センパイに話し掛け無いでください。殺しますよ、おばさん」
「おば……」
氷華先生の呟きに怒りの色は無いが、口の中で言葉を転がしている。
「本気で栫井を仲間にするつもりなんですか? 正直、常識や道徳、倫理観なんて欠片も無さそうで……」
殺し屋やってる俺が言うには、どーにも説得力に欠けるが、俺が言いたいのは仲間だろうと、平気で殺す奴に背中を預けるのは危険すぎるということだ。
「もぉ~ひどいですよセ・ン・パ・イ♪」
俺の唇を細い人差し指でなぞり、笑顔を向ける姿に背筋が冷たくなる。つい数日前に殺されかけたりしなければ、惚れていたところだ。
「今のところ貴方さえいれば、言うことを聞きそうだし。なにより彼女も私たちが匿わなければ、今ごろは指名手配の殺人鬼ってところかしら?」
たしか栫井は俺が通報した警官を殺して、ここまで来たような口振りだった。
「私はセンパイが居るならなんでもいいですよ」
氷華先生の言葉に興味無さげに栫井が同意する。
「俺を殺したがっていたが今はどうなんだ? 栫井」
「もちろん! 今もセンパイの初めてになれるように努力します!」
つまり俺を殺したいという意思は、今なお健在ということだな。
「俺たちは組織の殺し屋どもに追われる身……俺や氷華先生たちを殺そうとするなら、本意でない連中に殺されると思うぞ」
「うーん……それは嫌ですね。気持ち悪いです……でも私は簡単に殺られないですよ?」
「簡単に殺られるさ。俺と栫井は似たような能力だから、弱点はわかる──」
俺たちの共通する弱点は、能力者自身が脆弱な人間である点。
異能の発生、つまり俺は鉄鎖、栫井は有刺鉄線が現れるまでのタイムラグ。
「──不意打ちによる攻撃」
咄嗟に能力を使ったところで思考が介在する以上、たったの数秒が生死を分かつ事になる。
なにより相手は異能者と戦うことを目的にした武装集団。
俺たちは背中を預けながら戦わなければ、自分自身が危ない。
「はぁ~分かりました。センパイの言う通りにします……」
唇を尖らせながら不承不承に俺の意見を飲んだ栫井は、改めて俺たちの仲間に加わった。
「そのかわり、私の事は恋人らしく幸奏って呼んでくださいね!」
「うっ……こ、恋人? そうだな……分かったよ。ゆ、幸奏……」
「はい! センパイ♪」




