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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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五十話【第一章 最終話】

 俺の叫びを掻き消すように、ヘリコプターのプロペラの音が徐々に近づき、見上げれば龍一が身を乗り出しながら手を振っていた。


 ヘリポートに降り立ったヘリから龍一が颯爽と飛び出し、俺を心配するように駆けつける。


──などと勘違いしていた。


 龍一の前蹴りが顔面にクリーンヒットし、マウントポジションだった野郎から無理矢理引き剥がされ、HK416の銃口が向けられた。


「よぉキョウ……アイツは誰だったんだ? 教えてくれるんだよな?」


 記憶を取り戻し分かった。龍一の言うアイツ(・・・)とはまず間違えなく、相場 龍の事だろう。


「相場 龍……俺たちの敵だろ?」


 相場は俺たちの……そして組織(・・)の敵だ。


「んっ……そうだ。俺の目がおかしくなっちまったのか、俺たちの敵に助けられてたように見えたんだが?」


 何か訝しむような目を向けられたが、それは恐らく俺が今まで記憶を失っていたのに、突然取り戻した事に対しての疑いだろう。


「た、たしかに助けられたのかもしれないが……」


「まぁ疑いようが無いよなぁ? お前らクローンはゼロの劣化版が、異能を手に入れて相場龍と内通してたんだ」


 龍一の目は裏切り者を処断する者の目をしている。


 組織が裏切りを最も重い罰と捉えている。その証拠にNo.=z、分隊には『イスカリオテのユダ』を想起させる13の文字は存在しない。


 そして俺の素体番号13は、あの時も言っていたが無神論者である氷華先生がナンバリングした。


 だがやはり裏切りを危惧された龍一によって、俺は御しやすいように12番目のクローン『比嘉(ひが) 恭助(きょうすけ)』によって記憶改竄が容易に施せるよう。


 そして14番目のクローン『ロアー』に肉体の制御、抑制を委ねられている。


 その上、俺の監視には龍一他のNo.=zが付いているとくれば、1番目のクローン『シード』から疎まれるのは仕方ない。


 龍一が俺に銃を向けるのも仕方ない……


 諦めかけたその時、屋上の扉が勢いよく開くと、中からとてつもない冷気と共に一瞬にしてアスファルトの表面が氷ついていく。


「チッ……厄介な奴のご登場かよ」


 血だらけ顔面を拭って扉の方を見ると、白い息を僅かに吐きながら左手に日本刀の鞘だけを持った氷華先生が、いつもの白衣を羽織ってゆっくりと現れた。


「こんばんわ坊や……いい夜ね」


 悠然とやってきた氷華先生へ龍一は銃を向けた。


「いい加減、ガキ扱いは止めろや氷華!」


「私たちから見れば、貴方は今も拾ってきたあの頃の坊やのままよ?」


 ヘリコプターのプロペラの音の中にあって氷華先生の声は透き通って聴こえる。


「俺を拾ったのはゼロだ。お前みたいな裏切り者じゃねぇ!」


 龍一の怒号と共にトリガーが引かれ、豪放が連続して響くが氷華先生は意にも返さず、悠然と歩き続ける。


 弾丸は氷華先生の周囲に反射する、光の粒にぶつかると潰れ跳ねた。


「『絶対零度(ぜったいれいど)』ダイヤモンドダスト……」


 氷華先生の目に宿る青白い光がより一層強く耀き、雪の結晶に守られた氷華先生に弾丸は通用しないと悟った龍一は、即座にナイフを抜き駆ける。


 それを見た氷華先生は逆に立ち止まり、日本刀の鞘を腰に添えて右手を寄せ、まるで抜刀の構えを取った。


「冰刀……顕現!」


 黒い皮手袋が凍り付き、耳を劈く不快な金切り音が谺する中、氷華先生の右手に氷でできた日本刀が形成されていく。


「チッ! あぶねぇ!!」


 龍一が滑りながスライディングの要領で身体を沈めた瞬間、氷華先生が氷の刀を抜刀する。


鎌鼬(かまいたち)……あら、避けたのね」


 龍一の頭上を空気の刃が掠めて、轟音と共に背後のヘリコプターが両断された。


 避けられた事をさほど気にした様子がない氷華先生が、氷の日本刀で龍一のナイフを受け止め瞬間、ヘリコプターが爆発した。


 目の前で爆発したと思ったヘリコプターの爆炎は遠く、気づけば俺はソルジャックに抱えられて屋上から飛び降りていた。


「うわぁぁあああ!!!」


 とてつもない浮遊感に思わず声が漏れる。


 真っ暗な空がものの数秒で地上を行き交う人が見える程、近くに来た瞬間、恐怖を体験する時によく起こる錯覚かと考えていると、俺を抱えていたソルジャックが呟いた。


「Non ti preoccupare……」


 かなり訛った話し方だったが、日本語ではないことは分かる。そして見上げた金色の瞳に宿った光が、恐怖から来る錯覚ではなく異能であることを理解した。


 人々のどよめきの中、ふわりと降り立ったソルジャックが俺を降ろすと全身に激痛が走る。


「うっぐぅぅぅ……いてぇ」


 まず両手の拳が砕けており、切られた両足に上手く力が入らず、脹ら脛にはカランビットが刺さったままだった。


 その上にマトモに目を開けられていられないほど、両目から血涙と鼻血止まらない。


 そんな俺を見かねたのか、俺はソルジャックに背負われながら何処かへ連れていかれた。

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