四十九話
眉間に向けられた金色の銃口に、慌てて顔を逸らしながら引き金を引くと、同時に耳元で豪放が鳴った。
すぐさま視線をアイツに戻すと、タバコの火種が消し飛んだだけの涼しい顔を忌々しく思う間もなく、脇腹に痛みが走る。
クソ親父の野郎も俺の銃撃を顔を逸らすことで避けたようだが、崩れたバランスをモノともせず、強烈なミドルキックが飛んで来た。
「ぐっ!! ざけんなよ!」
痛みに堪えながら脇腹に突き刺さる左足を掴むと、前腕と上腕に力を込める。
「どぉらぁ!!」
クソ親父の体がふわりと浮き上がり、半回転した時に放り投げた。
熱を帯びた右腕に力を入れて、投げた方向へ銃を向ける。
「チッ! うざってぇガキだ」
二発の銃声が摩天楼に響くが、虚しくアスファルトに二つの穴が空く。
投げられて倒れ伏した野郎は、即座に体勢を立て直すしながら銃弾を避けると、今度はポケットから小型のカランビットナイフを取り出した。
対して俺は銃以外は持っていない。
野郎のナイフは大したもので、俺のように直情的に致命傷を狙うものではなく、低姿勢から足元を薄く切りつけ返す刀で腹を裂いてきた。
銃撃で距離を取ると即座にルガーで応戦してくる。
「チマチマ鬱陶しいんだよ!!」
俺の叫びに野郎は笑った。
「バカか? 一対一ならキッカケ作りは当たり前だろが」
その言葉を聞いた瞬間、野郎にペースを握られている事に気がついた。
離れれば撃たれ、近づけば切られるという恐怖から、中途半端な距離を保っている。
そして握られたペースを打開する案もないうちに、野郎の銃撃が始まった瞬間、浅く切りつけられた記憶からか、無意識に野郎へ向けてダッキングした。
本当に反射的だった。銃弾は致命傷になりかねないが、カランビットなら怖くないと。
低姿勢からジグザグに近づくと、野郎の左手に握られたカランビットの刃が、俺の右目に突き立てられる瞬間、時間の流れがスローモーションのように遅く流れている気がした。
──アンリミテッド──
またロアーの声が聞こえた時、ゆっくりと突き刺さる刃から逃れるように体ごと顔を回転させる。
回転しながら左足を伸ばし、跳び後ろ回し蹴りの要領で野郎の顔面に蹴りを見舞う。
「がぁ!」
野郎の悲鳴と共にまた俺の目に激痛が走るが、必死に痛みを堪えながら血涙を拭う。
倒れ伏した野郎の右手に握られたルガーを蹴りあげる。
簡単に飛んでいった金色のルガーに続いて、野郎に追い討ちを掛けようと下っ腹を蹴った瞬間、脹ら脛に痛みが走った。
「いってぇ!」
見れば左足の脹ら脛に、浅くカランビットの湾曲した刃が突き刺さっている。
痛みと驚きに気を取られていると、野郎が立ち上がった瞬間俺の右腕を掴まれ、投げっぱなしの背負い投げをされた。
耳元で銃声がし、慌てて体勢を立て直し右手に握られていたベレッタが無くなっている事に驚く。
「よそ見してる場合か?」
野郎の声がした方向へ視線を向けた瞬間、顔面に拳が入った。
まるで礫を投げつけられたような痛みに、すぐさま両肘を合わせて防御体勢を取ると、見越したようにボディブローが深々と突き刺さる。
「がっ……」
あまりの痛みに唾液が漏れる。
ただのジャブにボディブローだが、野郎の指に着いた装飾品がメリケンサックのように痛みを倍増させるんだろう。
などと冷静に分析していると、もう一発のボディブローが刺さり、俺の体がくの字に折れた時、後頭部を捕まれた。
スポーツマンシップなんて無い野郎は、当然のように顔面に膝蹴りをくれ、折れた鼻から血が吹き出す。
「がぁぁぁあああ!!」
銃で撃たれた痛みに匹敵しそうな痛みに、悶絶するが、そんな俺への追い討ちを止めない。
「ハハハハッ! クソガキがイキッて俺様に歯向かうからだ!!!」
昔を思い出す痛みと姿だ。
だが昔とは違う。守ってくれた母さんはもうこの世には居ない。
「うがぁぁぁあ!!」
血だらけの唾液を吹き出しながら、野郎の足にしがみつき無理矢理倒れさせると、掴んでいた足を曲がるはずもない角度へ曲げる。
──アンリミテッド──
ロアーの声が聞こえた時、まるで小枝を折るように野郎の足は野郎の悲鳴と共にあらぬ方向に曲がった。
「ぎゃぁぁああ!!!」
野郎の悲鳴を無視してマウントを取った状態で、力いっぱい野郎の顔面を殴り付けた。
──アンリミテッド──
メキメキ、ボキボキ──俺の指が潰れた音なのか、野郎の頬骨が砕けた音なのか分からない。
──アンリミテッド──
グチャグチャ、ベチャリ──俺の拳が砕けた音なのか、野郎の目玉が潰れた音なのか分からない。
「ぶっ殺すつってんだろぉぉおおお!」
ヘリポートに激痛を紛らわすよう俺の絶叫だけが、風に乗って摩天楼に反響していった。




