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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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四十六話

「ハハハ!! サイコーだぜ、キョウ!」


 龍一の爆笑を聞きながら、激痛のあまり両目を覆う。


「がぁぁあああ!!」


 痙攣する目蓋をゆっくりと開き、手のひらに広がる血溜まりに驚愕した。


 あの女の声が聞こえると、必ず手痛い代償を支払わされる。


「流石はキョウだぜ。難なくこなしやがったな? 最悪、俺がこの距離から狙撃してやろうと思ったが、必要無かったようだ」


「この距離から? そんなの人間じゃねぇだろ」


 ビル群が発生させる風に加えて、ヘリの不安定さ、さらに対象は豆粒程度と来た。


 見たところ狙撃銃の類いは無いし、HK416の射程距離は300m程だった筈だ。


「へーじゃあ、いっちょ見せてやるか? 神業ってやつを……」


 スリングに手を掛けた龍一が、後部の床に座り込み腰にベルトを通して固定すると両足を投げ出した。


「おい、ヘリを横に向けろ!」


「はい!」


 操縦士に命令すると、ヘリはゆっくりと回頭する。


「オブザーバーは要らねぇ……測量も風速も不要だ。しっかり見てろよキョウ……」


 龍一がポケットから、何かを取り出して口に含むと、ゆっくりと深呼吸しながら銃を構える。


 プロペラの駆動音と僅かな揺れを感じながら、時折強い風が吹く中、目標は遥か先のビルの屋上──RPG-7に二人がかりで再装填が行われていた。


「すぅ~はぁーーー…………」


 龍一が鼻から深く肺に空気を取り込み、口から二酸化炭素を吐き出すと一瞬の静寂が訪れ、コッペンセイターが火を吹いた。


 風の音に負けないほどの豪放が響き、龍一の視線の先にあるビルの屋上に居るRPGを構えていた男が、血を吐きながら倒れる。


 再装填を手伝っていた男が慌てた様子で、RPGを拾おうとした瞬間──もう一度発射音が聴こえた数秒後、もう一人の男に命中した。


「あり得ねぇだろ……」


「ハハッ! すげぇだろ? 俺はケンカよりこっちのが得意なんだぜ? まぁ、狙撃ってなぁ下準備なんかが面倒で大嫌いなんだけどな。ハハハハハハ!」


 目の端に溜まった血涙をぬぐい、ズキズキ痛む後頭部を押さえながら、ゆっくりと屋上に近付く中、ぼんやりとしていた視界が一つの人影を見つけた時、靄が掛かっていた視界が一気に開けた。


 ぞろぞろと仲間を引き連れ、その先頭に立つ人影に小さな灯りが灯る。


「あのクソ野郎……ようやく見つけたぞ」


 頭に血が上る。


「No.=2……複数人により屋上が占領されています。このまま近付くのは危険です」


「だなぁ~ここまで来たが、一旦撤退して地上組に頑張ってもらうしかないなぁ~」


 龍一の挑発的な笑みを見る余裕もなく、俺の脳裏には虐げられてきた記憶が、吐き気を催す程に押し寄せてくる。


「冗談じゃない! ここまで来て引き下がれるか! だいたい、地上組ってのは籠城している長尾組の連中に苦戦してるんだろ!?」


「あぁ~そうだったな。でも頑張ってもらうしかねぇよ。仕事として受けたからには、雪子たちも全力だろう?」


「まさか一ノ瀬たちが戦っているのか!」


「そりゃあそうだろ。あらっ? 言ってなかったか? ハハッ悪かったな」


 苦戦……というより抵抗がかなり激しいとだけ言っていたが、いつ一ノ瀬たちに被害が出てもおかしくない。


 佐野は気に食わないし、アイリスやエドゥアルドのことはよく知らないが久世や一ノ瀬が、死ぬかも知れないと考えると胸が締め付けられる。


 特に一ノ瀬とは初めて俺の復讐に共感してくれ、しかも協力を約束してくれた。


 なのに俺はこのまま、あのクソ野郎を目の前にしておめおめ撤退するのか? いや──答えはすぐに出た。


「絶対に退かねぇ……絶対だ!」


 操縦席から冷ややかな笑い声が聴こえ、龍一は嘲笑とも思える笑みを浮かべている。


「じゃあどうする? パラシュートでゆっくり近付くか?」


 龍一の言葉には、確実に蜂の巣にされる事が分かっている皮肉が込められているのだろう。


「もっと早く、確実に近付いて皆殺しにする……そうすれば、龍一が突入して一ノ瀬たちを援護できるんだろ?」


「ハハッ! そうだな、お前が本当に二度も奇跡を起こせたら約束してやるよ」


 龍一の言質を取ると俺はすぐさまホテルの屋上と、ヘリコプターのステップを交互に見ると視界の端に青白い光を発生させる。


 想像(そうぞう)するのは屋上のヘリポートを照らす照明と、ヘリコプターのステップが繋がる姿。


 さっき言った効果範囲の話だが、少しだけ抜け穴がある。


 それは俺の空間認識能力の低さが起因する、離れた物体同士の接続には、ある程度の距離が必要ということ。


 その逆、俺と距離が近い物を離れた物体へ繋げる事は、前述したものより効果範囲が広いということだ。


「『(えにし)』ヘリと屋上を繋ぐ……」 


 青白い光の粒がヘリコプターのステップと屋上を繋ぎ、摩天楼に銀白色の細い糸を渡した。


「おい、キョウ……その異能(ちから)、さっきも使ってたが後で説明してくれるんだよな?」


 なぜか怒気の籠った静かな声音で問いただす。


「あぁ信じてくれるとは思えないが……知っている限りを話すよ……生きて帰れたらな」


 コレがいわゆる死亡フラグってやつじゃないのか? っと考えたが、すぐに頭を振ってバカな思考を端へ追いやる。


 一直線に伸びた鉄鎖だが、これを断ち切られる前に行動を開始した。


 最短距離で素早く距離を詰める方法、それはパラシュートやパラグライダーではない。かといってステップから伸びた鉄鎖の上を、一輪車で走る訳でもない。


 答えはヘリコプターと屋上の上下関係、斜行を利用した簡易的なジップラインだ。


 しかも命綱無し、妨害有り、死ぬ可能性大の超危険なアトラクション──そんなハリウッド映画並みのアクションを、こなすつもりでいる。


 だが迷う時間は俺には無い。


 覚悟を決めて勢いよくヘリコプターから飛び出し、どこまでも落ちていきそうな、漆黒の闇を数秒跳躍すると左手に意識を集中する。


「『(えにし)』!」


 手首を起点に輪を形成すると屋上へ伸びる鉄鎖に繋ぐと同時に、弛んだ鎖を信じられない速度で滑っていく。


 ガリガリと音を立て火花を散らす。そして空を裂く鉛弾がかすった。

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