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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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四十五話

 僅かな揺れと浮遊感に包まれたヘリコプターの後部で、龍一は器用に漆黒のロングコートを羽織り、左肩からスリングを通したアサルトライフルの動作を確認する。


 セブンスターの紫煙を口の端から漏らしながら、黒色のHK416のチャージングハンドルを数回引き、内部のリコイルスプリングを覗く。


「そんなに念入りに見るものなのか?」


 俺の素朴な疑問に、龍一は小さく笑いながら答える。


「フッ……そりゃそうだろ。コイツに命、預けてるからな」


 当然の反応なのだろう。俺も龍一に倣ってM92FSを見るが、どこをどう見ればいいのかさっぱりだ。


「No.=2そろそろ着きます」


 操縦席に座る一人の男が振り返らずにそう告げ、龍一がタバコの火を消しながら外を眺めた。


 それに倣って俺も外を見ると、眼下に見えるネオンライトのきらびやかな街に感嘆する。


 いつも通っている学校を過ぎ、長大なビル群に囲まれた巨大な街──七浜。


 そして因縁深いランドマーク、七浜グランドホテルが見えてきた。


「もしかして、あそこなのか?」


「あぁ、お前の親父は、お前に殺された妻の敵討ちの為にあそこで籠城している。すでに何人か組織の連中を送っているが、かなり抵抗が激しいらしいな」


 俺にとってみれば嫌な話だが、龍一はむしろワクワクした様子で笑いながら話す。


 俺のせいで無関係な人間が死んでいるかもしれない。そんな嫌な思いを抱いた事に驚いた。


 いったい俺は何人殺したと思っているんだ。


 屋上のヘリポートへ近付こうとするが、突然ヘリコプター内にけたたましい警戒音が鳴り響く。


「No.=2! RPGです!!」


 操縦士の言葉と共にヘリコプターのすぐそばを、一筋の閃光が通り抜け何処かから爆発音が響いた。


「ハハッ! 手荒い歓迎じゃねぇか! おい、こっちもお返しをくれてやろうぜ!!」


 ゲラゲラ笑う龍一の言うとおりに、操縦士がヘリポートへ近付くと、薄いネオンの光に照らされて見える人影が数人、屋上に待機していた。


 その中にはヘリにRPG-7を向けている男の姿が見える。


「ヤバい! また狙われてるぞ龍一!」


「ハハハハハハ! サイコーじゃねぇか!!」


 操縦席にかぶりつく龍一は興奮気味に爆笑しており、正気には見えない。


 ベルトを外して座席に置いてあったM92FSを、ホルスターへ納める防弾ガラスへ張り付く。


 RPG-7を構えている姿が見えるが、こちらから何かをする事はできないのか、龍一もライフルを持ちながら笑っているだけだ。


「さぁどうするキョウ。このヘリには、あの距離に届く兵器は無い……お前はこの窮地をどう脱するんだ?」


 突然、狂喜的な笑いを止めてまるで、俺が次にどうするかを試すような口調だ。


 いや龍一は試している。俺の殺し屋としての資質か、はたまた実力や運か。


 俺の一挙手一投足を窺う龍一を一瞥し、龍一が羽織っているロングコートと拳銃が入っていたアタッシュケースを掴み、後部のキャビンのドアを引くと凍てつく突風が吹き荒れる。


「おぉ! またクレイジーな事をする気だな! ハハッ!」


 突風に耐えながら手すりを掴み、半身を乗り出してRPG-7を構える男を睨む。


 ここで突然だが、俺の異能『(えにし)』についてだが、基本的にとあるA地点とB地点を繋ぐ鉄鎖を出現させるだけの力だ。


 この鉄鎖は強度も重量も、ホームセンターなんかに売ってる鉄鎖と遜色無い。


 だから今やろうとしている事──ロケット弾とこのアタッシュケースを繋げてヘリへの直撃を避ける。


 そこには問題が二つある。一つは被弾面積の多いヘリから反らすには、アタッシュケース一つでは軽すぎる点だ。


 空のアタッシュケースは1kg程度、俺の持つ拳銃と同じ程度だろう。だが空のアタッシュケース内で異能『縁』を発動させる。


 鉄鎖で満たされたケースに、ヘリから(ほう)って地上に落下する重力加速が加われば、数センチは反らせるはず。


 二つ目はかなりの難題だ。


 俺の異能は最近知った欠点がある。いや欠点をあげれば枚挙に暇がないが、今回のは致命的な問題。


 栫井(かこい) 幸奏(ゆかな)との戦いで知った。その欠点は、俺が知覚できる範囲でしか発動できない事と、異能の効果範囲だ。


 栫井が路地裏にドーム状の有刺鉄線を張り巡らした事、あれを俺がやろうとしたら出来なかった。


 答えは後述した効果範囲──恐らく俺の空間認識能力の低さが原因だろう。


 長くなったが、これが二つ目が難題な理由(わけ)


 ロケット弾にアタッシュケースを鎖で繋げる為に、ある程度俺に近付かないといけない。


 言葉にすれば簡単だが、こんなことが出来る奴は人間じゃない。


「でっ、どーするか決まったかキョウ?」


「ヘヘッ……俺も正気じゃないのかもな。冗談みたいな……自分に都合の良い未来にばかり思考を裂いてる」


「お前は元から異常だ……」


 冷たい言葉を背中に受けながら、ジッとRPG-7を睨む。


「俺はたしかに異常かもな……」


 グッと目に力を込めて、ただ一点だけを見つめ視界の端に青白い光が集まる。


 白息を吐きながら冷たい風の音とプロペラの音の奥で、発射音が聴こえると、正面のビルから小さな閃光がきらめく。


 鈍重な動きでアタッシュケースを放り投げ、小さな閃光をジッと見つめた。


──アンリミテッド──


 何処(どこ)からか聞こえた女の声……いや、ロアーの声が聞こえると両目と後頭葉(こうとうよう)に激痛が走り、目の端から何かが垂れる。


 ゆっくりと流れてくるロケット弾が、俺の異能の射程圏内に入った瞬間叫ぶ。


(えにし)! 頼むぞ……」


 視界の端に映る青白い光が一層強く輝き、アタッシュケースの取っ手と弾頭のロケットモーター部分のノズルに結び付く。


 その瞬間、落ちていくアタッシュケースに持っていかれるように、コマのように回るロケット弾が何処かのビルに突っ込み爆発した。


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