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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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四十三話

 偉そうな巨漢にはらわたが煮えくり返しそうだが、部屋を出たロアーがくしゃくしゃと雑に頭を撫でてきた。


「なんのつもりだ」


 イラついた訳じゃない。ただその力加減が下手でプチプチと髪を抜いている事が気になっただけだ。


「ん……妹として……慰めてる……よしよし……」


「俺は一人だ。兄弟姉妹なんて居ない。テキトーな事言うな」


 そんな会話を終えて、本部を出たいと提案するとさっき来た道を引き返すように歩きだし数分後。


 そして連れてこられたのは外ではなく医務室だ。


 医者らしき黒人の男に指示されるままに傷を見せた。


 刺し傷、切り傷、弾痕がおびただしく残る上半身を見た黒人医師はあからさまに顔をしかめ、ロアーへ話し始める。


「はい……今すぐオペの必要がある……だって」


「あぁ、たしかに痛みが引かなくて困ってたんだよな」


「冷静すぎ……」


「痛いし気持ち悪ぃけど、死ぬわけじゃないし……なにより痛みに鈍感になってきてる」


 ここ数日斬られることも撃たれることも多々あったおかげか、かなり鈍感になっている自覚がある。


 だが傷を塞げるなら何でもいい、さっさと親父(アイツ)を殺したいしな。


+++


 黒人医師と外国人看護士に麻酔を導入され、気を失い数時間後、目を開けると視界が波打ち緑色に発光した液体に浸かっていた。


 ゆっくりと上半身を起こそうとするが、液体の中で身体を動かすと全身に激痛が走る。


「ん? 目が覚めたのかキョウ、ちょっと待ってろよ」


 遠くから聴こえてくる龍一の声に応えることも出来ず、待っていると、ゴポゴポと音を立てて水が抜けていく。


 全身を覆っていた水が抜けると、ひょいと顔を覗かせたロアーが俺の全身を刺していた針を無造作に抜いていった。


 痛いっと声を上げそうになったが、鼻と口を塞ぐようにマスクが付けられており、うまく声が出せない。


「おはよう……」


 ロアーの挨拶に首肯して答えると、見慣れた親友──赤井(あかい) 龍一(りゅういち)が顔を覗かせる。


「立てるか?」


 龍一の言葉に俺は無言で手を差し出すと、察した龍一が俺を起こしてくれる。


 まだ感覚が麻痺しているのか、手足に若干痛みが残っている。


「あぁ……ありがとう」


「身体に異常はねぇか?」


「まだちょっと痺れてる感じだ……」


「ホーそれだけか? 撃たれて斬られて刺された挙げ句、死にかけたってのに、たいした(タマ)だな!」


 ガラス張りの水治療用の浴槽のようなモノから出ると、ロアーがバスタオルを貸してくれ、俺はそれを風呂上がりのように腰へ巻き付ける。


「ホント、奇跡だよな」


 俺は軽く笑い飛ばすが、龍一は一転真剣な顔つきに変わる。


「っで、本当のところはどうやった?」


「どうやったってなんだよ……奇跡的に生き残っただけだ」


 別に隠すような事でもないかもしれないが、正直に言ったところで信じてもらえるとは思えない。


 死んだ所を見ず知らずの能力者に生き返らせてもらった……なんて。


「ヘッ流石は俺の親友だ。キョウ!」


 左胸に残った刺し傷に重なるよう、握り拳で軽く小突かれたが、そこに痛みは無く龍一の言った「親友」という言葉を数回口の中で転がす。


+++


 俺が着ていた学生服とトレンチコートはズタズタな上、誰の血か分からないほど汚れてしまった為に着れる状態ではない。


 それならと用意されたのは防刃製の白いワイシャツと、同じケブラー繊維で出来た黒のスラックス。


 あの戦闘で使い物にならなくなったホルスターの変わりに、スラックスのベルトに通すCQCホルスターを備える。


「そういや俺がやったM9は……落としたんだったな」


「悪いな龍一」


 かなりカスタムされていた銃だったが、いつの間にか失くなっていた。


 その代わりと言った様子で渡されたのは銀の光沢が眩い特徴的なアウターバレル──ベレッタM92FS。


 前にもらったM9のヘヴィーウェイト同様、その重量は少し重く感じる。


 それ以外はほとんどノーマルで、フィンガーチャンネルに左右対応のマガジンキャッチボタンは従来のものだ。


 だがそんな一見ノーマルな銃でも、龍一がくれたモノなだけあって特殊な弾を使用する。


 M9は通常の9x19mmのパラベラムに弾頭をフランジブルに変えたものだったが、このM92FSは改良が施されているだけあって弾丸は強裝弾。


 しかも弾頭は徹甲弾──つまり弾丸の中心に鉄の芯が内蔵されたアーマーピアシング──ある程度の強度を持つボディーアーマーを貫くAP弾だ。


「いいのかよ……コレ」


 龍一を窺うといつものようにバカっぽく笑う。


「ハハッ! 丸腰って訳にはいかないだろ! 今度は失くすなよ」


「あぁ……わかった」


 俺が頷きホルスターに携えると、少し離れた場所に居たロアーが小さく「ずるい……」っと言っていた気がした。


+++


 真っ白な廊下を俺たち三人は連れ立って歩き、途中数回すれ違った外国人は、規律を重んじる軍人然とした真っ直ぐな敬礼を向けられたが、龍一とロアーは逆に将校のように悠然と肩で風を切る。


 そんな二人の落ち着き払った態度に少しの感嘆を覚え、目的の場所まではただ無言で歩き続けた。


 侵入者対策のためか、どこまでも真っ白な廊下に方向感覚を狂わされていたが、目的の地下施設までくると、ようやく白一色の世界から解放された。


 そのかわりに広がるのは鈍色(にびいろ)で満たされたコンクリートの巨大な駐車場だ。


 大きな砲身が剥き出しの重戦車。鋭利な尖角が目を引く装甲車に、なん十人もの兵士を簡単に移送できそうな兵員輸送車たち。


 他にも軽自動車にセダン、見るからに高級そうなリムジンやスポーツカーにバイクも並んでいる。


 俺は正直、乗り物の区別はつかないが、ここを見る人が見れば垂涎(すいぜん)の光景だということが分かる。


「今回は車は使わねぇぞ」


 俺が様々な乗り物を見、感嘆の息を漏らしていると先を行く龍一がそれだけ言うと簡素なエレベーターのスイッチを押した。


 しばらく待っていると到着したエレベーターへ三人乗り込み、現在示されている地下階層から最上階を指すボタンを押すと、両開きの扉がゆっくりと閉じる。


「そういやしばらくぶりだったな。俺たちが会うの」


 俺の言葉に龍一は小首を傾げ、なにかを納得したように手を叩く。


「ん? あぁそうだったな。俺たちは組織の裏切り者を追ってたんだよ。セレナとアルヴァス……この間会った二人とな」


 裏切り者……と言われて最初に思い付いたのは氷華先生のことだ。


「裏切り者か……見つかったのか?」


「ん? 興味あるのか?」


 エレベーターの駆動音がわずかな無言の間を紡ぐ。


 組織の裏切り者と接触していると知られたら、俺の命はどうなるのかと、自己保身的な考えが脳裏を(よぎ)り押し黙ってしまった。


 龍一が訝しげに口を開こうとした瞬間、エレベーターは目的地に着き、会話を中断せざる終えない。


 エレベーターを降りた時、武装をした男女の外国人が敬礼し出迎える。


「お待ちしておりましたNo.=2……ヘリの用意はできております」


 男の方が英語らしき言葉でなにかを伝えると、龍一はタバコに火を点けながら頷き歩き始める。


 格納庫らしき場所にはヘリコプターとセスナのような飛行機たちが並んでいた。


 またしてもそれらを無視して外国人の男女二人を先導にして、格納庫を出ると頬に殴り付けられる突風。


 ビュービューと耳を過ぎる冷たい風に混じって、ビュンビュンバリバリと頭上に竜巻を発生させる汎用小型ヘリが煌々と照らされていた。


「キョウ、お前の親父を見付けた……カタをつけに行くぞ」


 先導をしていた二人から、それぞれ違うスーツケースを受け取った龍一は、慣れた様子でヘリの後部に乗り込む。


「どうした!? さっさと乗れよ!」


 ヘリのプロペラ音に掻き消えないよう叫ぶように話す龍一に促されるまま、ステップに足を掛けると龍一の手を借りてヘリに乗り込む。


 すると有無を言わさず先導していた女が後部の扉を閉めてしまった。


「ロアーが乗っていないぞ」


「あぁ、アイツは本部の防衛を担ってるからな」


 革張りのシートに軽く座り、ホルスターからM92FSを抜き、ベルトを絞めるとヘリコプターが宙に浮いた。


 防弾ガラスから見えるのは、幾つも建ち並ぶ長大な一本のガラスの塔、そこから点々と漏れる光が幾重にもなり、天の川のように街を照らし青白い海を照らす摩天楼が広がっている。



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