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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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四十二話

 灰色の世界から解かれた時、また時間が飛んだ。


 この間死んだ時も気が付いたらテストを受けていた……って簡単に死んだとか言ったが、頭を撃たれた痛みと心臓を貫かれる苦しみを味わった身としては「死んだ」しか言いようがない。


「いってぇ!!!」


 首根っこを掴まれて引き摺られたせいで、全身の傷口から血が吹き出し、両手を見れば傷の残った指が見える。


 たしか目が見えなくなる前には、両腕の上腕から先は失くなっていた筈だが……恐らく相場の異能(ちから)のおかげか。


「誰だよ! くそっ!」


 目を開いてトレンチコートの襟に掛かった手を振り払い立ち上がる。


 見ると何処かの施設らしく、真っ白な床に壁が一本道を形成しており、俺を掴んでいたであろう黒髪の女が背を向けている。


「一ノ瀬……か? ずいぶん乱暴だな。こっちは怪我人だぞ」


 見たことの無い紺色の学生服を着ている。別の任務で潜入でもしてたのだろうか。


「怪我人……? キミは死体……」


 聞き慣れない声を発した一ノ瀬? っがゆっくりと振り返るとその容姿に驚いた。


 黒髪ショートカットで女の知り合いと言えば、一ノ瀬か久世くらいだったが、久世は一ノ瀬より十センチ以上の身長差がある為見分けがつく。


 振り返った女は濁ったダークブラウンの瞳をしており、どことなく俺に雰囲気が似ている気がした。


「お前、誰だよ」


「14番……」


「はぁ、ふざけてんのか? 名前でも何でも良いから答えろ」


「じゃあロアー……」


 それだけ言うとロアーと名乗った女は、また俺のトレンチコートの襟を掴んできた。


「やめろ。俺はペットじゃないんだよ」


「でも……シード(・・・)が連れてこいって……」


「あのな……俺が知らない奴に、ホイホイついて行くわけねぇだろ。離せ、さもないと殺すぞ」


 俺の脅しにロアーは首を横に振る。


「無理……私たちで殺し合いはできない……」


 舐められてるのか? まぁ最近、目つきが悪いとか良く言われるが、見た目はただの高校生のはずだからな。


「女だから手を上げない……とか思ってんのか?」


「思ってない……でも無理なものは無理……」


 なんか読みづらい女だ。脅しても表情に一切変化がない。


「はぁ~チッ! 分かったよ。殺すって言ったのは撤回する。その代わりと言っちゃなんだが、ここが何処(どこ)か教えてくれ」


「ここは組織(・・)の本部……」


 まさか答えるとは思っていなかったが、平然と返ってきた答えに驚いた。ここが一ノ瀬たちが所属する組織(・・)の本部なのか。


「組織って事は一ノ瀬たちが居るのか?」


「いち……のせ……知らない……」


 小首を傾げながら言われたが、本当に知らないのだろうか。


 俺が久世ほどの読心術を持っていれば、真偽を見抜けたかも知れないが、俺には本当に知らないようにしか見えない。


「じゃあ俺を連れてこいって言ってるシード(・・・)てのは何者だ」


「覚えてない……の?」


「生憎だが、そんな変な名前の奴は知り合いには居ないな」


「1番のこと……だよ?」


 また番号か。そう言えば組織の精鋭部隊の総称もナンバーズだとか誰かが言っていた。


 それと関係があるのか?


「さっきから自分の事を番号で表しているが、それは特別な数字なのか? それとも俺をバカにしてるとか?」


 若干睨みを利かせながら問うが、ロアーはビシリと俺の鼻を人差し指でさす。


「キミは13番……私は14番……シードが1番……」


 『真実はいつも一つ』とでも言いたげだが、それだけのワードで理解しろ。というのがそもそも難しい。


「第一、俺は13番じゃねぇ。日向(ひなた) 恭一(きょういち)だ!」


「そう……」


 コクリと頷くとまた俺の首根っこを掴もうとするので、距離を置くために一歩引くと、小さく頬を膨らませる。


「シードが連れてこいって……」


「それは分かったから……あぁ、くそっ! 会えばいいんだろ! 」


 ロアーが先を行き、長い廊下を終始無言で歩き続けた。


+++


 白一色で統一された廊下は、方向感覚を麻痺させる為なのか、先を行くロアーが数回角を曲がった先に行き止まりに出た。


 壁際まで立つとそこが扉であることが判明し、小さな駆動音と共に扉が開いた。


 部屋は廊下の明るさとは対照的なほど暗く、淡い光が所々から差すことで部屋の中心に円卓があることが分かる。


 そしてその円卓の最奥に座していた巨大な影が、のそりと立ち上がった。


「13番……連れてきた……」


「ふむ、死体では無いようだが?」


 落ち着いた低い声が静かな部屋に響き渡る。


「生き返った……」


「13番に蘇生機能や、代謝の活性化に関する機能は無かった筈だが?」


 巨大な影が地響きにも似た足音を響かせながら、俺たちへと歩み寄ってくる。


「知らない……でも……2番の右腕……ついてる……」


 つい最近折られた右腕をチラリと見る。たしかに氷華先生が手術した筈だが……


 俺が13番で、ロアーは14番、そして1番は恐らく目の前の巨大な影だろう。なら2番とは、当然人を指す言葉の筈だ。


 そこまで考えて自分がかなり気持ち悪い想像をしてしまったことに気が付く。氷華先生は他人の右腕を俺に移植したのか?


「ならば治癒機能を獲得している可能性があるな……」


「おい、俺を呼んどいて好き勝手、話してんじゃねぇよ」


「あぁそうだったな……ワタシはお前の死体を欲していたんだがな」


「おあいにくさまだな! 見ての通りピンピンしてるもんでよ。ご期待には答えられないな?」


 目の前の巨大な影の異様な威圧感に、脂汗が流れるがそれ以上にコイツを見ているとイラついてくる。


「お前はいつもワタシの……いや、ワタシたちの期待を裏切ってくれる……」


「ハッ! お前らのことなんか知るかよ」


 巨大な影から丸太のような腕が伸び、俺の首を掴むと軽々と持ち上げられた。


「ゼロもNo.=2も……なぜお前のような欠陥品を贔屓(ひいき)するのか……度しがたいな」


「ぐっ! 偉そうに俺を非難できんのかよ! ガラクタのデクの棒がよぉ!!!」


 身長が高い……エドゥアルドがお190cm位だった筈だが、コイツはそれよりも遥かに高い250cmはありそうだ。


 そしてそんな長大な身体を自在に動かせる筈もなく、デカイ巨体を三本目足──杖のように巨大なポールアックスの柄を地面に突き立てている。


「自身が産み出された意味も……使命すら思い出せないお前を……」


「シード!」


 ロアーの声が室内に響くと、地面へ落とされた。


「兄弟喧嘩……よくない……」


「あぁそうだったな。すまないロアー……」


 俺への謝罪が無いまま、巨大な影は踵を返した。


「このまま組織(・・)に居続けるのなら、使命くらいは思い出せ……それが出来なければ、お前を殺して再利用する……」


 地鳴りのような低い声でそれだけ言うと、疲れた老人のように暗がりの円卓の最奥へ座した。

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