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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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三十八話

 クリスマスまであと6日、テストは明日で最終日。そしてそこからは冬休みだ。


 俺は制服の上にトレンチコートを着、隣にいる一ノ瀬は青い薔薇の刺繍が入った白のロングコートを着ており、二人揃って白息を吐きながら迎えの車を待っていた。


「さ、寒いねぇ~」


「もう真冬だからな。これからもっと寒くなるだろうな」


「うぅ~寒いのやだよぉ~」


 プルプル震える一ノ瀬の足元を見れば、白い素肌を露にしてる。


「スカートやめるか、ストッキングでも履いたらどうだ?」


「そうだねぇ~動きやすいからスカートのままがいいし、ストッキング買おうかなぁ~」


 などと雑談をしていれば時刻は午後6時。すっかりと日も落ち街灯から伸びる影だけが異様にうつる。


 そして待つこと数分、夜闇に射す二つの光線が、ゆっくりと俺たちの前で停車した。


 影のように真っ暗な黒いバンの運転手──エドゥアルド・ティーシンが運転席から、2メートル近い巨体を縮めながら降りてくる。


「エドさんおつかれさまぁ~」


 無愛想に小さく頷くエドゥアルドは、俺たちを横切り後部の両開きのバックドアを開ける。


 中には金の短髪アメリカ人女性──アイリス・レイアーチが居り、一ノ瀬と俺に手を貸し招き入れた。


「雪子、キョウ、お疲れさまテストはどうだった?」


「うぅ~ん、私はちょっと不安かなぁ……」


「俺はかなり不安だ……」


 「あらら、御愁傷様」っと笑うアイリスに促されるように座り簡素なシートベルトを絞める。


 隣には当然のように一ノ瀬が座り、傍らには防刃布で包まれた日本刀が置いてある。


 エドゥアルドが運転席に乗り込むと、バンは小さな駆動音を上げながらゆっくりと加速していく。


「チカちゃんと佐野くんは?」


「あの二人は羽籠(はごもり) 隆義(たかよし)を追っているわ」


「ってことは……倉庫街か」


 アイリスが人差し指をピンと立て「That’s right」っと流暢な英語で答える。


「あぁそうそう、キョウにはプレゼントがあるわ」


 そう言って揺れる車内からアタッシュケースを一つ取り出し、俺へと投げてきた。


 鍵がかかったケースには指紋認証式のロックがあり、人差し指で触れると電子音と共に鍵が開く。


「中身は知らないけど、No.=2からの品よ。大切にね」


 No.=2といえば龍一の事か。


 本人は番号で呼ばれるのは人間性を否定されているようで嫌っているが、組織内では実力者を示す称号のようなものだそうで、敬称のように広く使われている。


 アタッシュケースを開くと、ソコにはなんの変哲もない自動拳銃が一挺。


 ベレッタM92の民間モデルだ。銃身下部のマウントベースがないので間違いない。


 そんなM9には様々なカスタマイズが施されている。


 手に持って分かる柔らかい樹脂製のフィンガーチャンネル付きグリップに、右手にズシリとくる重さはヘビーウェイトモデルだからだろうか。


 特徴的なアウターバレルの先端に、コッペンセイターのようなものが備えられ、軽く回すとそこにフラッシュハイダー加工が施されているのがわかる。


 そしてスムーズに稼働するブラッククロムの遊底(スライド)を引くと、昨日から持っているPx4とは違うストレートブローバック方式。


 つまり銃口にサプレッサーなどのアタッチメントを使うことを想定されているということだ。


「ちょっと握りにくい気がする」


 やはりダブルカラムマガジンという機構のせいで、日本人の手には少し大きく感じる……いやだから、滑り止め意味もあって柔らかい樹脂なのか。


 そして弾丸は……いつもの茶褐色の鉛で出来た弾頭ではなく、丸みのある鮮やかなライトブラウンだ。


「この弾は?」


 マガジンから一発取り出して、隣の一ノ瀬へ渡すと一瞬眉をしかめた。


「これはフランジブル弾だよぉ~屋内戦を想定されてるんだと思うよ?」


 弾を込め直すとふと一ノ瀬が眉をしかめた理由に、一つ心当たりがあった。


「黒色火薬の匂い……」


 一ノ瀬が数少ない嫌いなモノの中に『血と硝煙の匂い』がある。暗殺を生業としているくせに、その匂いが嫌いというのはおかしな話だ。


 それというのも、アイリスから少し聞いた話だが。


 今いる『第十四番特殊分隊』に所属している中で最も古株のエドゥアルドと共に、最初期の隊員として一ノ瀬を支えた他の二人が居たそうだ。


 本名はギャスパー・ノルベール──自らを『シヴェール』と偽っていたフランス人のスパイだった男。


 そして本名をアニュス・デイ・クレド──『クリスティーナ』と呼ばれていたそうだ。その名の通り、熱心なカトリックであり、その実は敵対組織に雇われた暗殺者の女性だったそう。


 この二人は組織に離反する形で、逃亡を図ったそうだが。その処分を任されたのは、二人の責任者──一ノ瀬だった。


 シヴェールとクリスティーナを自らの手で殺めてからは、銃を嫌い。挙げ句には血と硝煙の匂いすら嫌悪するようになったらしい。


 だがそのおかげで銃火器に対して鋭敏な感覚が養われたそうで、一ノ瀬宅で俺や佐野が待ち伏せている事を匂いで察知していたそうだ。


「No.=2からのプレゼントは満足かしら?」


「あぁまぁ、俺も皆みたいに馴染みがある銃があった訳じゃないし、カスタムガンは素直に嬉しいかな」


 もう少しレースガンらしい近代銃でも良かった気がするが、まぁ龍一らしい。アイツもガバメントを使っているしな。


「これから行く戦場に、私たちは随行しないわよ」


「母さんに会って、親父の居場所を聞き出すだけ……なんだよな?」


「えぇそうね。そのかわりに戦闘は極力避けること、その銃もただの護身用ってことを忘れないように」


 そう釘を刺され、トレンチコートの下あるショルダーホルスターに仕舞う銃の重さと、これから久しぶりに会う母親への再会に緊張が隠しきれない。


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