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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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三十七話

 ホッと一息ついて明日のテストの為に一時間ほど軽く復習を行い、俺と涼子は2人でマンションを出た。


 涼子は先ほどまでのコスプレ用セーラー服ではなく、一ノ瀬のお下がりを着ており。俺は寒空の下ショルダーホルスターを付けただけのワイシャツ一枚だ。


 ブレザーの変えなど無いし、一ノ瀬が男物の服を持っている筈もなく、一ノ瀬に頭を下げて金を借りた上でトレンチコートを買った。


 その帰り道、家出少女である涼子に行くあてなんて無く、ネットカフェで寝泊まりするらしく、部屋を借りているネカフェまで送ると俺の役目は終了だ。


「明日、学校で会っても話し掛けるなよ……というか暫くは俺たちに接触するな」


 組織の連中にいらない目を向けられ、疑われても面倒だ。第一、目撃者を故意に逃がしたと知られれば、一ノ瀬や俺の命が危ないからな。


「分かった……でもあたしが危なくなったら、助けに来てくれるんでしょ?」


 金髪の短い髪を揺らしながら、俺の少し前を行く涼子が振り返り、少し憂いの籠った目が向けられる。


「そうだな。俺は雑魚だから、あまり期待するなよ」


「恭助がまた助けてくれるなら、あたしは嬉しい……」


 涼子が目を伏せながら何かを言った気がしたが、良く聞こえなかった。


+++


 涼子を送りコンビニで買ったホットコーヒーに飲みながら、歓楽街をのんびり歩いていると、不意に誰かとぶつかった。


 ビチャっとアスファルトにコーヒーを飲ませてしまい、相手を見ずに謝罪した。


「あー、すみません……」


「俺様にぶつかっといて、その程度の謝罪かぁ~? クソガキ……」


 聞き慣れた嫌な声にハッキリと怒りを覚え、鼻息荒く向き直る。


 バイオレットの光沢があるスーツにヘビ皮の靴に、大嫌いな麝香(じゃこう)、そして細いタバコを咥えた無精髭の男──本郷(ほんごう) 允人(まさと)が立っていた。


「土下座だろ……さっさとしろ」


 顎をしゃくって咥えていたタバコを吐き捨てた。


 火種がついたままのタバコが、誰かの足元に当たったのか小さなどよめきが起こる。


「ふざけんな……誰がお前に──」


 俺が言いかけた瞬間、ヤツの前蹴りが下っ腹に突き刺さる。


「──ごほっ!」


 唾液が漏れヤツのズボンに掛かろうとした時、今度は下顎が跳ねた。


「まだ躾足りねぇのか……たくっこれだからガキは……」


 ぐらりと視界が歪み、下半身に力が入らず地面に膝を着いた。


 痛みが全身に駆け巡り、蹴られた下っ腹の傷口が開いたのを感じる。なぜ怒りに駆られながら、俺は手より先に言葉が出たのだろう。


 本当に憎い相手なら、迷わず銃を突き付け引き金を引けばいい。


「ぶっ殺す!!」


「おいおい、こんな人混みでチャカぶん回すつもりか? 誰かに当たるぞ」


 ヤツにそう言われてハッとし、トレンチコートの襟元に手を突っ込んでいた己を諫め、辺りを見回す。


 通行人はピークを迎えているにも関わらず、モーゼのように俺とヤツを避けながら移動しているが、その距離は人、一人か二人分程度。


 ここでヤツを撃った弾丸が貫通し、潰れた鉛が縦横無尽に通りすぎる人々に当たれば大惨事だ──などと考えたのは間違えだった。


──バァーーン!──


 アーケード街にこだまする銃声と悲鳴と怨嗟の声が、遠くから聞こえてくる。


 左胸に空いた小さな穴から、栓の空いたワインのように赤い血がゴポゴポと気泡を含んで溢れてきた。


──バァン!──


 顔を上げた左目の視界が掻き消え、変わりに鼓膜を破るほどの豪放が、一気に二つの感覚器官を破壊した。


「がぁぁぁあああ!!!」


「チッ……まだ生きてんのか」


──バァン──


 ヤツの握った純金製のルガーの銃口が光り、眉間に激痛が走り、何が起こったのか知覚する間もなく、すべての感覚器官が死んだのを感じた。


 暗く狭い銀天を一瞬煽り、俺は力無く膝をつき、アスファルトを見つめる。


「これであの赤髪に従わなくてもいいんだよな……」


 誰かが何かを言った気がしたが、もうそんな事はどうでもいい。寝かせてくれ。


※※※


 ふと目を覚ますと、俺は教室にいた。


 黒板にはテストを受ける際の注意事項と、今日受けるテスト項目『英語』と『社会』の注意点。


 英語はテスト後のノート提出も点数として加算される旨、社会は特に無しだ。


 変な夢を見ていたのかとも思ったが、全身に走った激痛が現実の物であることを認識させる。


 左胸、左目、額の順に触って確認してみても、傷跡どころか穴も空いていない、まぁ目に関しては空いていたら大問題だが。


 予鈴が学校中に流れ、試験監督の社会担当の教師が入ってきた。


 昨日について考えることは、昨日やった予習のことばかりだ。

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