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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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三十六話

 一ノ瀬が帰って来たので寝室に隠れていた涼子を呼んで三人、リビングに集まると早速傷が開いて汚れた包帯を取り替える。


「一ノ瀬、すまんが包帯巻いてくれないか? 自分でやると緩くなって……」


 血のついた包帯の外して新しい清潔な包帯を一ノ瀬へ差し出すが、勢いよく首を横に振る。


「わ、私は治療とかそんなの、無理だよぉ~!」


「べつに完璧な治療は求めてない。あくまで応急手当でいいんだ」


 そう説得するも一ノ瀬は苦い顔をして断ってくる。「どうしてもダメ」らしく見かねた涼子が代わりに巻き始めた。


「いてっ……もうちょっと優しくしてくれよ」


「さっき恭助(アンタ)が緩いの嫌だって言ったんでしょ? 我慢しなさいよ」


 一ノ瀬は協力しないかわりに、俺たちが戦っている間に捕らえられた男の情報を教えてくれる。


「売春や風俗店の経営。家出少女や誘拐した女性、不法滞在の外国人をクスリ漬けに無理矢理働かせていた。良く言えばどこにでも居る悪人だよねぇ~♪」


 彼氏のことをここまで悪く言われても……っと思ったが。


 当の涼子自身は、少し眉をしかめる程度で一ノ瀬の言う事を何度か口のなかで転がすと、納得したように小さく頷く。


「それでソイツと俺の母さんとの関係は?」


「中島ケイタはただの経営や、部下を使った誘拐等を指示、実行していたんだけどぉ~日向くんのお母さんは、その上司にあたるって言ってたよ?」


 そんなクズ供のまとめ役として、母さんは名乗りを上げたわけではない。


 凄惨な過去を持つ女性の手助け、そして親父(アイツ)からは部下が失敗した際のスケープゴートとするため。


 あのクズ野郎からすれば、母さんは無数にいる情婦の一人に過ぎない。


「まぁだいたい検討ついてるんだろうけどさ。母さんの居場所は『七浜グランドホテル』だ」


 あのホテルのオーナーとは懇意にしていたはずだから、実家かホテルの常にどちらかにはいる。


「うん! そこらしいって裏は取れてるよ?」


「そうか。じゃあ次は涼子だ……」


 ここまで情報があるなら、組織として彼女はどのように扱われるのか、少し考えれば分かる。


 一ノ瀬に言わせるまでもなく、俺の考えでは涼子は非戦闘員の目撃者だ。ならば"殺す"以外に選択肢はないはず。


「うぅ~ん……」


 小首を傾げながら一ノ瀬は涼子の顔をジッと覗き込む。あどけない表情の裏に、そろばんを弾き様々な計算を行っているはずだ。


「私は殺すしかないと思うんだけど。正直、嫌だなぁ~っておもうんだぁ……」


 そう言って苦笑し「友達だから」という言葉を付け足して、俺へ向き直る。


 いつだったか聞いたことがある。今の部隊を見ても分かるが、一番年齢が近くて久世と佐野の19歳。


 孤児院から出た同級生は皆死んだらしく、今は俺しか同じ年齢の友人? はいないらしいと。


「なら事実を隠蔽して逃がしたらどうだ? (さいわ)い涼子の存在を知ってる人間は、組織内にはお前だけだし」


 隣の涼子を見ると、瞠目と恐怖が入り交じった目で俺を見ていた。本当の殺人を目の当たりにすれば「殺す」という言葉の重さが理解できるのだろう。


 俺もそうだった。あの日一ノ瀬と出会うまでは「殺す」なんて言葉は脅しの一種でしかなかったのに。


「そ、それって組織を裏切る行為じゃないの?」


「そうなるのか? 無益な殺生をすることが組織への不利益に繋がりかねないっと、俺は思うんだがな」


 突拍子もない話ではない。殺しの集団に『組織』なんて名前を付けるということは、組織の秘匿性を象徴しているのと同義だろう。


 目撃者を殺して口を封じる事が、秘密保持の為なら無用な外敵を作らないことも一つの秘密保持だ。


 もし仮に涼子を殺した事が、身近な人間に知られて血眼になって組織を探られ、思わぬ脅威になる可能性もある。


 まぁバレるとしたら、その原因は今日の俺だろう。一ノ瀬の預かり知らないところで人を殺し、あまつさえ死体はそのままだ。


 それらを加味して一ノ瀬に説明すると、唸り声を上げながらも不承不承で首を縦に振った。


 元々、一ノ瀬も殺しには反対だったんだ。ならばその背中を押すように誘導すれば、半々くらいの確率で生存を約束される事になると踏んでいた。


 あまり賢くない俺がテスト以来、久々に頭を動かした事でどっと疲れが来たのか、深いため息が出る。


「ふぅ~なにはともあれ、これで涼子の身の安全は保証されるんだな?」


「うん、そうだね。私は何も見なかったし、知らなかったって事にするね♪」


 一ノ瀬は満面の笑顔で事が済んだとして、軽快なステップで鼻歌まじりにキッチンへ足を運んだ。


 そしてなおも困惑した様子の涼子に、声を潜めて話しかける。


「本来なら両目を潰し声帯を切除した上で、毒によって四肢を壊死させて一生自力歩行できなくされて、ようやく生きていられるんだ。五体満足だが、俺たちの事を他人に漏らすなよ」


「誰にも話したりしない。恭助はあたしの命の恩人だもん」


 先ほどまでの困惑し、憂いた表情はどこへやら、俺の言葉に臆面もなく真摯な眼差しでそう答えられ呆気に取られた。


「お、俺が命の恩人か? まさか……連中から助けたのは涼子(おまえ)が利益をもたらしてくれると思っただけだ」


「雪ちゃんから……いや、組織ってやつらからも守ってくれたじゃん」


「それは……一ノ瀬の希望もそうだが、なにより俺の寝覚めが悪くなるからだ」


 一ノ瀬も望まない死。俺ももちろん望んでいない、そして涼子自身も……なら何が得かで議論をした方が良いと思っただけ。


 そしてなによりも俺の時は龍一に助けられた。今度は俺が誰かを庇ってもいい気がしたんだ。


「お待たせぇ~♪」


 そう言って持ってこられたのはいつものココアだ。


 俺は慣れた手つきで一ノ瀬の持つ盆から、マグカップを二つ取り、一つは当然俺のでもう一つを涼子の前に置いた。


「さんきゅーな」


 持ってきた一ノ瀬よりも早く、いの一番にココアをすすり深いため息を吐く。もちろんどうしても飲みたかった訳じゃない。


 つい今しがたまで殺すだの殺さないだのと、話していた一ノ瀬が出す飲み物を簡単に口に出来るはずがない。


「ふぅ~うまい」


 涼子は俺や一ノ瀬の反応を窺いもせずに、無警戒な様子でマグカップに口をつけた。


 たしか俺が初めてこの部屋に来た頃に、同じように佐野から指摘を受けたか。


 改めて一ノ瀬以外の面々は、暗殺者ではなく軍関係者か法執行官、一般人で構成されてるおかげか、毒殺等の特殊な殺害方法に関して知識が無いようだ。


 だが一ノ瀬はまったくの別だ。幼少の頃から暗殺を生業としているために、体格が倍近く違う大人相手に得物を選ばないとすれば、毒殺が最も有効らしい。


「美味しい……」


 涼子の呟きに俺と一ノ瀬は無言で視線を交わす。数日前に一ノ瀬と出会った頃を思い出し、自然と微笑みが溢れる。

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