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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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三十四話

 正面にスーツの男が美術刀らしき怪しい輝きを放つ刀身を剥き出しにして見よう見まねであろう『八相の構え』で俺と距離を取り、後ろの三人は回り込むように俺の背後へ。


 俺も素人に毛が生えたようなものだ。剣術に明るい訳じゃないが一ノ瀬が持っていた日本刀は、重心が安定していたのか構えに微塵の隙もかんじさせなかった。


 だが目の前のコイツはどーだ? 傍目から見れば酔っぱらいがオモチャの日本刀を構えているようにしか見えない。


「おいおい震えてるのか?」


「黙れ!」


 俺の言葉に返す刀で返答し、突然斬りかかってきた。


 いくら泥酔者の構えといえど、本物の刃物だ。斬られれば死ぬ。


 そして背後には拳銃やドスを持った連中がいる。ここは多少危険でも、俺からスーツの男へ近づいて応戦するべきだ。


 考えながら走り出した振り下ろされる刀の刀身を、サバイバルナイフのソーバックで受けた瞬間、右手の銃口を男の眉間へ目掛け向けた。


「うっ!」


 一瞬にして恐怖の色が見え、引き金を引いた時、闇夜に火花が散る。


 白煙と共に刀を押さえていたナイフに加わる力が緩まるのを感じ、咄嗟に前蹴りで距離を取ると共に、蹴った勢いのまま背後へ飛び、ドスを持った男の首を切り付けた。



「がぁ!!」


 驚愕の表情で傷口を押さえる男の首へ、今度は頸動脈(けいどうみゃく)を断つ勢いで刃を突き立て回り込む。


 ドスを持っていた男を『人間の盾』とすることで、ポン刀を持って突っ込んでくる男を抑止し、リボルバーの銃弾を回避する。


 バン! バン! っと続けざまに二発の弾丸を受けた男の背中を、飛び二段蹴りで突き飛ばす。


 当然スタンスを取っていないので威力は半減だが、銃を持った男とそれほど離れていないおかげで、死体は仲間に(もた)れるように進んだ。


 今度はポン刀の男だ。剣豪クラスの手練れではないので、数メートル離れた相手を銃撃する。


 ダブルアクションのリボルバーよりも早く、豪放と共に三つの薬莢が弧を描きアスファルトに散らばる。


「きぇえええ!!!」


 奇声を上げて突如襲い掛かって来たのは、先ほど撃ち殺したはずのスーツの男。


 よほど恐怖だったのか銃弾への危機回避能力で、頬を抉る程度の傷を負ったようだ。


「しつけぇ!!」


 夜中に日本刀とやりあうには、間合いが取りにくい。それは刀身に映る街灯のせいだ。


 強烈な光がチラついて距離感が掴めなくなる上に、水平に構えた時のあの薄っぺらさだ。


「チッ……あいつらに獲物を持ったヤツとの──」


 独り言を呟いていると日本刀が頭上に迫っていることに気がついた。


「──『(えにし)』」


 さっきポン刀を持った相手を目にした時に思い付いていた対処法。


 鎖帷子(くさりかたびら)は衣服の下に仕込んで刀傷を防ぐ防具だ。それをイメージした能力の使い方。


 鉄鎖を五指の先と肘先に収束させるイメージで、手首を外側に『への字』に曲げる。そこにできた(たゆ)みに刀の衝撃を逃がす。


 鉄の鎖が白銀の刀身を受け、強烈な閃光と金切り音が耳を劈く。


 手を広げる形で刀を受けた為にアスファルトへサバイバルナイフが落ちる。


 右手に残った銃を、今度は警戒されないよう男の太腿を撃ち抜いた。


「ぐぁ!」


 情けない声を上げて銃声と共に体勢を崩した男の刀を弾き返し、腕を守っていた鎖を解除すると同時に落ちたナイフのランヤードと手首を繋ぐようイメージする。


 すると瞬時に鉄鎖が現れ、次にナイフを手繰るようにイメージすると手首に向かって鎖が引っ張られ、拾い上げる動作無しに手元にナイフが戻ってきた。


 膝をつく男の喉へ一撃、ナイフを突き刺すと応戦を恐れてすぐさま距離を離す。


 予想通りちから無く日本刀が振られたが、距離を離していたおかげで掠りもしない。


 バン! っと暗闇から銃声が聞こえ、脇腹に衝撃が走る。


 正面の男にばかり気を取られリボルバー持ちの男に撃たれたようだ。


「ヘヘッ! 死ねぇクソガキぃぃ!!」


 返り血でベットリと汚れた男が大股を開き、両手で慎重に狙いを定めている男がハンマーへ指を掛けていた。


「死んでたまるかぁぁあ!!!」


 慌てて俺も銃を構えて男の左肩を撃ち抜き、俺は逆に下っ腹と右肩を撃たれる。


 銃弾の応酬は先に弾が尽きた男を蜂の巣にすることで終わりを迎えた。


 身体中の穴から血を吹き、前のめりに倒れた男の手からリボルバーがずり落ち、俺も撃たれた下っ腹にネクタイを巻き付ける。


 霞み始める視界に映るのは、最初であり最後の相手──スーツの男が刀を必死に握りながらも、喉笛から空気漏れのような音を上げ、唾液混じりの血を吐いている姿だ。


 目は血走り狂気すら感じる。痛みに鈍くなっているのか、浅い息に血を混ぜながら、正面に立つ俺を睨み、尚も震える切っ先を向けてくる。


「ハァハァ……」


 俺もかなり消耗しているのか、無意識に白息を荒々しく吐き出す。


 ホールドオープンした自動拳銃(ストーム)のマガジンリリースボタンを押そうと親指を動かした時、右肩に強烈な痛みが走り銃がアスファルトへと落ちてしまった。


「ハァハァ……チッ、満身創痍かよ……『縁』」


 正面の男はゴポゴポと血を吐き出しているが、未だ俺の隙を伺っている。


 今度は死体が握っていた桐の柄の日本刀を手繰り、左手に持ち切っ先を男へ向けた。


「ゴホッ……ばけ゛も゛ん゛がぁ!!」


 何かを叫びながら男が喉に刺さったサバイバルナイフを引き抜くと、(せき)を切ったように歯の隙間と口の端、喉からヘドロのような赤黒い液体が溢れた。


 一瞬引いてしまい間隙(かんげき)を突いた男が、太腿の痛みを忘れたかのような俊敏な動きで間合いまで入ってき、上段から日本刀を振り下ろす。


 俺もすぐさま桐の持ち手を握り直し、男の胸へと突き立てた。


「く゛た゛は゛れ゛ぇぇ!!!」


 男の日本刀が俺の左肩へと切り込み、逆に俺の刀は男の胸へとゆっくり沈んでいく。


 手に伝わる人間の皮膚の固さ、それをすり抜けていく内臓の柔らかさ。そして身体中から抜けていく血の熱。


 男は俺に凭れるように身を預けると、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かに眠ってしまった。

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