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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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三十三話

 銃声と怒号、悲鳴が止んだせいか、別に部屋に入っていた客たちが避難していく中、俺は涼子と共に血を洗い流していた。


 涼子は何も言わず湯船に浸かり、俺はシャワーで身体にこびりついた血糊を擦る。


 逃亡もしくは自害されると困るので、一緒に風呂へ入れたがこの後はどうしよう。


 取り敢えず俺の部屋から自分の制服を取って、一ノ瀬のマンションへ戻ってアイツらと合流する。涼子の服は……たしかコスプレ用の服がクローゼットにあるはずだ。


「血は洗い流せたか?」


 血の滲んだ浴槽に口を浸けて小さく頷くのを確認して、俺は先に浴室を出る。


 湯を浴びて血行が良くなったせいか、身体中の傷跡が浮かび上がってきた。訓練の時に出来た擦り傷、切り傷に加えて弾痕と殴打痕。


 少し触れても痛みは無いが、自分の弱さの象徴のようで少し恥ずかしい。


 血糊で汚れたスラックスを履き直し、ワイシャツはクローゼットに入ったコスプレ用のモノを代用する。


 残ったブレザーとネクタイは元の紺色と灰色が、赤黒いペンキをひっくり返したようにベットリとついていた。


 そして遅れてノロノロと浴室からバスローブ姿で出てきた涼子に、クローゼットから出したコスプレ用のセーラー服を渡す。


「それに着替えたらすぐに出るぞ」


 それだけ伝えると足下に転がるジャージの男の目玉に刺さったナイフを引き抜くと、切っ先が曲がり持ち手のストッパーが壊れている。


「まぁ使えるわけないか……」


 薄っぺらな学生鞄を持ち、セーラー服に着替え嗚咽を漏らす涼子が浴室から出てきた。


「俺の部屋に寄ってから出る。逃げられると困るんだが……鎖で繋ぐわけにもいかない」


 手錠を掛けて俺と繋ぐと、さっき逃げたスーツの男が仲間を引き連れて戻ってきた時、戦ったり逃げたりするのが難しくなる。


「どうせ私も殺すんでしょ?」


「ん? いや、そんな予定は無いな」


 一ノ瀬に殺せと命令されればその限りではないが、長尾組の連中の戦力を削ぐためとはいえ、幹部から三下のチンピラまで殺しすぎた。


 これ以上アイツに繋がる貴重な人材を無下にしたくない。なにより無益な殺生だ。


「うそ……」


 まるで信じていないような言いぐさだが、つい数日前の俺も一ノ瀬に対して同じ気持ちを抱いていた。


「信じなくても良いが、俺は涼子を利用できると考えている。だから利用価値がある内は死なないでくれよ」


「なにそれ……意味わかんない」


 それだけ言うと俺が涼子の分の鞄を持って、閑散としたホテル内を二人で歩きエレベーターを使わずに非常階段を一階まで降り、ノーマルルームに入った。


 さっきの怪しげな雰囲気があった部屋とは違い、ここは普通のビジネスホテル程度の落ち着いた内装だ。


 そしてクローゼットには変えのワイシャツとネクタイ、自前のホルスターと大型のサバイバルナイフがある。


 もちろん銃を持っている訳ではないので、ナイフと催涙スプレーや市販のスタンガン、特殊警棒が携行できるレザーナイロンのヒップホルスターだ。


「なんでわざわざネクタイまで絞めてるのよ」


 目を赤く腫らした涼子は、小さく鼻をすすりながら問いかける。


「もちろん対人格闘になると不利になるが、簡単な止血帯や拘束具にもなるからな。結束バンドでもあれば別だが……」


 それに本気で戦闘に備えるなら、シャツなんて着ずにTシャツに軽くて丈夫なジャケットを着るし、靴底のすり減ったスニーカーより、鉄板入りの安全靴やジャングルブーツを履く。


 なにより学生という身分を明確にする方が、便利な部分も多いからな。



+++



 真冬のラブホテルの前に、(かた)やコスプレと分かるセーラー服の少女、片やホルスターにナイフや拳銃をさした薄着の少年。


 そして対峙するのは、桐の柄からキラリと光る刀身を見せる男たち。


「さっきは良くも仲間を殺してくれたなぁ! クソガキども!」


 随分と悲惨な逃走劇になったのか、ズタボロのスーツ姿の男を筆頭に後ろに同じように高級そうなスーツの男が三人。


 日本刀(ポン刀)短刀(ドス)回転式拳銃(レンコン)を持った物騒な大人たちの出現に、信用してないと言った涼子は無意識か俺の背後に隠れる。


「俺とコイツを一緒くたにするのは早計じゃないか? お前の女だろ」


 正直さっきの二人は近接武器を所持していのに対して、目の前の連中のうち一人は銃を持っている。


 悠長に話をするのは危険すぎる気がするが、俺から逃げたスーツの男とは違い、あとの三人はまだ余裕があり、こちらを侮っているように見えた。


「はぁ? 何言ってんだガキ……そいつは中島のアニキだ!」


「なるほど……ならお前らをどんな風に殺しても問題ないってことだな!」


 カマ掛けにも簡単に引っ掛かってくれた。コイツの反応を見る限り後ろの三人の内一人が中島ケイタという線は消えた。


 やはり一ノ瀬たちが上手く対応しているのだろうか。


 それにこんな風に意気がってみたが、まだ戦うかは悩んでいる。逃げれば早いが、俺と涼子との身体能力差がわからない。


 走り回った挙げ句に追い込まれた形で戦うのは危険だ。


「涼子、鞄持って隠れていろ」


「鞄なんてどうでも良いから、逃げよ!」


 俺は連中から視線を外さずに二人分の鞄を背後へ投げ、腰に携えたサバイバルナイフを引き抜き、拳銃(ストーム)のセーフティを外してトリガーに指を掛ける。


「明日は英語のテストだろ? ノート提出しないと点数貰えないからヤバイんだよ」


「そんなこと言ってる場合!?」


「俺は死なない為に殺し屋になった……だからこんなところで死ぬつもりなんて無いんだよ」


 自分で言ってても笑えてくる。たしかに成り行きは自分の保身のためだが、今は一ノ瀬との約束──あのクズ野郎を殺すためだ。


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