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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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二十三話

 メンヘラストーカー女を絞め落としてすぐさま、栫井のスマホを使って警察へ通報しておいた。


 パスワードが分からなかったが、緊急通報に関しては持ち主の了承が無くても行える。こんな時に適当な使い方だろう。


「いてぇ……クソッ!」


 砕けた右腕を庇いながら、激痛に苦悶の声を漏らす。


 飛び出た血だらけの骨は、本来ならザラザラとした空洞だらけのものだが、俺の骨は異様な事に骨の一部が鉄のように硬い。


 まぁたしかに頑丈そうだが、ビル三階相当から落ちた程度でこの有り様だ。


 ナノマシンっと言ったか? そんなSFじみたモノなら俺のこの腕も治るのだろうか? 


 血だらけの身体を引き摺りながら、俺は本来の目的である帰路へつくことができた。


+++


 ふかふかのベッドが心地よく、真冬にトランクス一丁の俺からすれば例え学校へ行く時間だろうと、ベッドから出たくない。


 とは言ってられず、部屋は暖房が利いているおかげで布団の中と大差ないが、朝から見るには若干気疎く思える派手な内装。


 情熱の赤い薔薇がベッド脇の壁紙を覆い、真っ赤なソファーにAVくらいしか映らない無駄にでかいテレビモニター。


 ときどきローションが残るガラス張りのシャワールーム。


「癖で右腕使っちまうが、まだかなり痛いな」


 左手一本で不恰好な包帯と添え木をした右腕を庇い、血が滲んで変な匂いがする胸の丁寧な包帯。


 痛み止めを規定量なんて気にせずガブガブ飲んでいたら、ぐっすり眠ってしまった。


「8時半か……確実に遅刻だな」


 遅刻だろうと焦りはしない。今年入学して早半年、数えられないほど遅刻を繰り返してきたので慣れたものだ。


 ワイシャツのまま眠っていたので、血だらけの右腕や、穴が空いた胸元は気にしないが、生まれて始めて上着を肩から掛ける昭和の番長スタイルだ。


+++


 満身創痍で裏口からラブホテルを出たらあることに気がついた。


「あっ鞄がねぇ……まぁいっか」


 元々たいしたものは入ってない。教科書なんかは教室だしな。


 なぜか全身筋肉痛で少しの挙動でも痛むが、右腕に比べればかなりマシだ。


 文句をぶつぶつと呟きながら学校へ向けて歩き始めた。



+++


 今日は奇跡的に何も起こらずに学校まで来れた。


 そう本当に奇跡だ──ただ一つの重要な事を除いて。


「今日、学校休みじゃねぇか!!」


 硬く閉ざされた門扉を前に、憤りの声を上げながらガタガタと揺らすと、俺の全身が悲鳴をあげた。


「クソッいてぇ……でもそりゃそうか」


 カツアゲされた日から数えて何日経っているんだ。


 ニュースやスマホ、時計なんて持ってないから日数や時間の感覚に疎い自信はある。


「っが、まぁいいか。氷華先生のとこへ行って、この腕治してもらえるか聞いてみよう」


 確認するように大きな独り言を吐き、中華街へ向けて歩きだした。


+++


 数十分歩いて気がついたが、曲がりなりにも組織に所属する身で裏切り者扱いされてる氷華先生に会うのは、果たして良いことなのか。


 だがそんな想像は右腕の激痛を前に、簡単に払拭される。


「痛いもんは痛いし、なにより金がない」


 あのナノマシンとやらを俺に投与することで得られるデータを、あの人は海外に売って金にしている。


 なら今回も治療費は無しでもいいのかもしれない。


 そんな事を考えながら、昼間は比較的安全な中華街の裏側へ赴き、昨日も来た地下へと足を運ぶ。


「失礼します……」


 鉄扉を恐る恐る開け、中へ入ると薬品の匂いと鉄錆びのような匂いが混じった独特な香りが鼻をつく。


「ん? あぁまた来たのね」


「どーも……」


 軽く苦笑する氷華先生、色んなところが小さいとはいえ、やはり姉妹なだけに一ノ瀬とそっくりだ。


 そして傍らに居た。どう見ても医者や看護士ではない、二本の長槍を携え、紋章の入った赤いマントを羽織る外国人。


「また派手に折れたわね。むしろ良く折ったと感心するわ」


「すんません」


 薄暗い診察室、氷華先生の前に置かれたスツールを指して座るよう促される。


「ずいぶん雑な応急処置だけど、貴方がやったのかしら?」


「えぇ、まぁ……テキトーに」


 氷華先生の差しへ座ると、右腕の包帯を取られ、添え木がコトリと床へ落ちた。


「ひどい怪我ね。何があったのかしら?」


「えっと……異能者、栫井幸奏に襲われてビルの三階くらいから飛び降りたら受け身に失敗して、この有り様です」


 簡単にあらましを語った後に気がついたが、異能なんて非現実的なこと、氷華先生が信じるのかと。


「案外早いこと能力者と戦ったのね。これも貴方の能力(ちから)かしら?」


「え? 氷華先生は俺の言ったこと疑わないんですか?」


「……私も異能者だから、と言えば納得するかしら?」


 俺の言葉に一拍置いて答える氷華先生の声音はとても落ち着いていて、まるで俺の言う事をすべて信じているかのように、真摯な眼差しだ。


 まぁ目の奥は相変わらず死んでいるが。


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