十九話
てっきり俺も仲間になるものだと思っていたが、正式な許可と手続きを踏んだ後にしかなれないものだと言う。
バーでのランチキ騒ぎは、『一番分隊』と呼ばれるガスマスクと黒色のバイオハザードスーツを着た連中の登場で、幕を閉じた。
一ノ瀬いわく「一番から四番は死体処理なんかの汚れ仕事担当な変わりに、死亡率が低い」らしい。
五番から八番は要人警護、九番から十二番は襲撃、戦闘を主にしてい。一ノ瀬が率いているのは『十四番特殊分隊』
清掃、護衛、襲撃、諜報、暗殺までなんでもござれ、そして隊員は押し並べて特殊な経歴を持つ。
一ノ瀬は孤児で暗殺技術を叩き込まれた生粋の殺人者。
佐野は『トライバル』という反グレ集団を率いて、ヤクザと戦争をした犯罪集団のリーダー。
久世は『リベレーター』という特殊部隊、養成機関の出身で、紛争地域の最前線で戦っていた衛生兵。
エドゥアルドはあの有名な特殊部隊『スペツナズ』『デルタフォース』を渡り歩いた歴戦の軍人。
アイリスはハーバード大学を出て『FBI』へ、その中でも『SWAT』の強襲部隊に所属していた指折りのエリート。
他にも『スパイ』『狩人』『アサシン』『テロリスト』だった仲間も居たそうだが、死亡もしくは治療中だそうだ。
「せっかくの休みが台無しだわ」
バーを出たアイリスが、佐野を責めるような視線を向けて愚痴る。
「俺は暴れられて満足だ! しかも久々に拷問もできたしな」
そして佐野は街中で平然と拳銃を取り出し、口に咥えたアメスピの紫煙を吐き出して笑う。
「拷問って……ほとんどアイリスさんがデータを抜き取って得られた情報でしょ?」
久世はため息混じりに佐野に銃を仕舞うよう促す。
「…………」
日本語が分からないのか、エドゥアルドはバラクラバを外して、シュワちゃん顔負けのサングラスを着けて腕を組んでいる。
そんな中、俺と一ノ瀬は四人の後ろをトボトボついていく。
「雪子、これからどーするの?」
突然アイリスに話を振られた一ノ瀬は、いつもの惚けた笑みを浮かべながら「連絡があるまで待機かなぁ~」などと間延びした声を上げる。
「あぁー酒が足りねぇ……どっかで飲まねぇか?」
「へ~ジュンにしてはマシな提案だね♪ 実はお腹すいてて~えへへ」
千鳥足のマネをする佐野を通行人とぶつからないよう制し、チラリとこちらを振り返った。
どうやら同意を求められているらしく、アイリスも一ノ瀬を一瞥し、エドゥアルドが腕を組み直す。
「さんせぇ~! でも私たちこの街に来たばっかりだから、あんまりお店とか分からないんだよねぇ~チラリ」
小声で「チラリ」って言っていたのは確実に聞こえた。
そして一ノ瀬に集まっていた視線が、今度は俺に集まる。
「えっと……ここを真っ直ぐ行ったら、美味しいって評判の居酒屋があるけど」
評判ってのは半分嘘で、居酒屋にベタベタ貼られた宣伝文句の一つに『究極のうまさ! 究極のやすさ!』って書いてあるだけだ。
そして俺は当然行ったことがない。そもそもバーの件といい未成年が入店できるのか、疑わしい。
しかも六人中三人は学生服だぞ。
「日本の居酒屋はサイコーにクールよね! 私は賛成よ」
「酒飲めるなら何処でもいいぜ!」
「私も居酒屋にさんせいだよ! ただし私とユキちゃん、恭一くんは飲まないからね!」
久世が佐野に釘を刺すと「へいへい」っと、渋々了承していた。たぶん、酒を飲まないヤツは腹を割って話してないとか、訳の分からん自分ルールがある、昭和の上司タイプなんだろう。
「雪子も構わない?」
アイリスの問いかけに一ノ瀬は満面の笑みで「うん!」と元気な返事を返し、俺の顔を見て笑った。
他愛もない会話を続けて数分程、人並みに揺られながら歩いていると目的の居酒屋が見えてきた。
先頭を行くアイリスが俺に「ここか?」と聞いてき、俺が「そうだ」と頷くと、初めて入る店だというのに物怖じせずに戸を引く。
「いらっしゃい……ませ」
若い女性店員が笑顔で出迎えたと思ったら。まずアイリスの顔を見て「は、はろー?」っと拙い英語で挨拶をすると、制服三人組みを見て困惑したのが伝わった。
「あぁ日本語でオッケーよ。六人だけど、空いてるかしら?」
「ろ、六名さまですね! ご予約はされてますか?」
「いいえ。してないわ」
「ありがとうございます。ではご案内します」
ものの数秒で俺たちに馴れた様子で、他の酔客と同じように俺たちを扱う。
堀りごたつの個室へと案内された。想像以上に騒がしい。
常に話し声と笑い声、グラスを割る音と店員たちの掛け声が当然のように飛び交う喧騒空間。
上座の最奥にアイリスが座り、その隣に久世と佐野。アイリスの向かいにはエドゥアルドがデカイ図体を小さく折って、次に一ノ瀬、そしてその隣に招かれた俺は一ノ瀬の隣に座る。




