十六話
「いってぇ!!!」
激痛で目が覚め、上体を起こそうとしたが、強い力に押されて動きを制限された。
見ると巨大な筋肉の塊──もとい、バラクラバを着けた巨漢が俺の肩を押さえ、上半身裸にされてバーのソファーに寝かされている。
「ごめんね恭一くん、あと1個だから我慢してね」
久世が応急キットに入ったアドソン開創器とマッカンドの細い有鈎攝子を片手に、腹に空いた小さな穴を無理矢理広げた。
「いててて! むぐぅ! んん!!」
巨漢に布を噛まされ、内臓に触れられる感触と傷口を広げられる傷みに悶えること数分。これが何時間にも思えるほど、苦痛だった。
よく小便漏らさずに麻酔無しの弾丸摘出を耐えたと、俺は俺を褒めたい。
縫合針で傷口を縫われている頃には、少し傷みに慣れていた。
この3日で一気に生傷の絶えない身体になってしまった。2日前に一発撃たれ、その傷が塞がらないうちにボコボコにされ、今日は掠ったものを加えて3発。
消毒を終えて新しい包帯が身体と腕に巻かれると、金属シャーレに入った血塗れにひしゃげた弾丸とガラス片が目に入った。
かなり素早い処置だが、久世は医者かなにかなのか。
「手馴れてるって思ってるでしょ? ふふっ、元衛生兵ですから! えっへん」
また読心術ってやつか。
「そういや久世の肩は大丈夫なのか?」
「あぁ~ちゃんと防弾チョッキ着てたから、大丈夫だよ! 心配してくれてありがと♪」
ひらりとジャケットの内側に着たチョッキを見せると、血塗れの手術道具に何かの液体を吹き掛け、密封パックへ入れ、ポーチに仕舞った。
「それにしても凄いね。恭一の身体」
久世が何気なく言った言葉の意味が分からず、小首を傾げた。
「お酒飲んで暴れてたのに、次に起きたら酔いは醒めてるし、おまけに何発も銃で撃たれてたのに、こんなにピンピンしてるんだもん」
「俺は人より頑丈……らしい」
「らしい?」
久世は不思議そうに俺を見るが、俺も人づてに聞いた話で真偽の程は分からない。
血と硝煙の入り交じるバーで無数に横たわる死体の山、よく見れば俺が寝ていたソファーの下には、引き摺った血糊の後が色濃く残っている。
「水飲む?」
「毒が入ってないなら、もらう」
ガラスコップに入った冷たい水を一口すする。
傍らに居たバラクラバの巨漢は、ガスマスクと厚手のゴム手袋を嵌めて、俺が殺した男たちを無言で死体袋に詰めていく。
時々ライトを目に当てたり、喉を触ったりしながら淡々と固まった関節を折り、袋から滲む血をモノともしない。
「あの人はエドゥアルド・ティーシンさん、本人はベラルーシ共和国出身って言ってるよ? 元デルタフォースだって」
「まだ聞いてもいないぞ」
「え? でも知りたそうに見てたから……」
たしかに見てたかも知れないが、こうも見透かされると久世に嫌悪感を覚えそうだ。
「久世も元衛生兵って……穏やかじゃないよな。そのほっぺたの火傷と関係あるのか?」
「えへへ♪ やっぱり気になっちゃう?」
そう言った久世は防弾チョッキを外し、どこかの学校の制服を見せる。
「どう?」
「19にもなってキツイコスプレだな」
俺の言葉に久世はガックリと肩を落とす。
「そ、そーいうことじゃないよぉ~恭一くんって、結構キツイこと言うよね……」
俺を一通り非難すると、胸元から銀色のチェーンネックレスを見せてきた。
平たい銀の板にはCHIKA KUZEと記されている。軍人なんかがよく付けてる、いわゆるドッグタグってやつだ。
「リベレーターって知ってる?」
「FP-45のことか?」
「それもそーだけど、私が言ってるのは防衛省が、秘密裏に主導した日本独自の特殊部隊養成機関のこと!」
「秘密裏にしてたって……一般人の俺が知るわけ無いだろ」
「一般人って……恭一くんのお父さんは長尾組の若頭なんでしょ?」
久世も人のことをズケズケ言ってくるな。
たしかに俺はヤクザの息子だが、別に裏社会に精通してる訳じゃない。事実、コイツらが所属している組織とやらを知らない。
「あーなるほどぉ~」
「読心術でなに考えた分かっただろ? そういうことだ」
「う~ん、なんとなくね。じゃあ恭一くん、防衛省OBの現新羅カンパニーの兵器開発部門のアドバイザー、岸本 誠二って知ってる? たまにテレビとか出てる……」
「新羅カンパニーは知ってるが、岸本ってやつは知らないな」
新羅カンパニーのダメ息子を一人、知っている程度だがな。
「そっか……そうだよね」
「その岸本ってやつが、久世と関係あるのか?」
「私たちを……仲間を見殺しにした裏切り者。私がこの世で一番殺したい人だよ」
そう語る久世は遠い目をしながら、怒りの籠った瞳で左頬の火傷痕を擦った。




