十五話
リボルバーというと、総じて一度撃鉄を起こして引き金を引くシングルアクションを想像するが、俺の右手にある回転式拳銃は内蔵ハンマーの影響でダブルアクションオンリーだ。
つまり何が言いたいかというと、いくら.38スペシャル弾で反動が少ないといっても、2インチのスナブノーズ。
数メートル離れた標的を、俺みたいな素人が狙った所で当たらないって話だ。
「な、なんだてめ──」
俺の存在に気付いた真っ正面のおっさんのやかましい口へ、スナブノーズの短い銃身を突っ込む。
そして次は左手の大型自動拳銃を、近くにいた男の腹部へ照準を定め、両手同時に引き金を引いた。
豪放と共に脳ミソをぶちまけるおっさんと、腹押さえながら倒れる男──そして最奥の男は、佐野の援護射撃で踊っている。
残るは二人。俺は腹を撃った男へ駆け寄り、顳顬にオフデューティを押し付け再びトリガーを引く。
怯えて入り口へ駆ける男を捉え、白煙を上げるオフデューティの照星に据えてトリガーを引き絞り、弾倉が回転する。
人差し指に掛かる力が徐々に強まり、限界まで引かれた引き金が撃鉄を打ち下ろす時──背後から聞こえた二発の銃声と、背中に走る激痛。
咄嗟に銃口が逸れて俺の撃った弾は、照明を破り脳天まで突き抜けた激痛に声が漏れる。
「ぐぁぁあ!!」
だが膝をつく暇はない。久世を撃った連中の一人に逃げられる。
ヤクザのくせにヤバくなったら、平気でトンズラしやがる。お前らが食い物にする弱者に、そんな優しさすら与えなかったくせに。
「とまれぇぇぇええ!!!」
頭に血が上り喉が張り裂けそうなほど強く叫ぶと、靄のように視界を覆う青白い光が、眩く世界を照らした。
***
瞬く間に世界を灰色に染め、逃げる男は走るような形で動きを止めている。
すかさず両手の銃を構えようとしたが、まったく身体が動かない事に今気が付いた。
『いまキミは異能に目覚めようとしている』
頭に響く少年の声、目だけを動かして声の主を探す。
するといつの間に居たのか、景色に同化していた黒いロングコートを着た少年が透明な液体の入ったガラスコップを手渡してきた。
『それはキミが忘れている異能の使い方を思い出させる液体だ』
当然身体は動かない。答えるにはどうすればいい。
『考えてくれればわかる』
俺が忘れている異能ってのはなんだ。
『キミが望む根源的な欲望を表した異能だよ』
なんでも答えてくれるお前は誰だ。
『相場 龍ただの、キミの理解者だ』
胡散臭いが、この目の前の液体を飲めば、俺も異能者とやらになれるのか?
『なれるよ。ただし飲めば必ず後悔する。断言するよ』
構うか。目の前のコイツを殺せる上に、俺も羽籠みたいに人間を越えた異能の存在になれるんだろ? なら上等だよ!
『未来のキミはこの力を得て、酷く後悔していた。だから彼の夢を一つ叶えて、ボクはキミの異能を封印している。それを自らの意思で解くと言うなら、もう止めないよ』
そう言って少年はガラスコップを空中に置いて消える。
俺は妙な緊張を覚えながら、空中に二挺の拳銃を置いてガラスコップを手に取った。
少し粘度のある透明な、液体を一気に呷り飲み干す。味なんてしない、飲んだ気もしない。
***
「──とまれぇぇぇええ!!!」
喉が張り裂けそうなほど叫ぶと、靄のように視界の隅に現れた青白い光。
それを契機に俺は想像する。男の四肢を結ぶ鉄の鎖の出現を。
「動きを止める! 縁!!」
俺の言葉に呼応するよう、視界に宿る光は強く輝きを増し、粒子の塊が何もなかった空間に、突然鎖が現れて男の両手首、両足首を捕まえ、大の字に拘束した。
拘束を確認するとすぐさま踵を返し、銃を構える男へ駆ける。
「うわぁぁぁ!!!」
無茶苦茶に乱射する男へ構わず全力疾走。
頬を掠め、肩口を抉る弾丸に激痛を感じたが、歯を食いしばる。また怯んだら、誰かが傷つく。
半べそをかきながらホールドオープンした銃のトリガーを引く男の口に、左手の自動拳銃の銃口を突っ込む。
「死ね……」
撃鉄を打ち鳴らし、銃口からこもった銃声が響くと、男は脳漿をぶちまけて絨毯に仰向けで倒れた。
何発撃たれたのか、青白い光が宿る視界が歪む。呼吸が荒く、喉の奥に名にかが絡んだよう、コヒューコヒューと変な音がする。
大きく息を吸い噎せた俺は、咳とともに口から出てきた血に驚いた。
「は……え?」
手足が痺れ、血溜まりに膝をつくと両手に持っていた銃が床にずり落ちた。
突っ込んでいった時には、あまり感じていなかった激痛が、今のぼってくる。背中、腹から溢れ出る血に恐怖しながら、拘束した男を見ると佐野が当然のように右の太ももを撃つ。
男の絶叫と共に拘束していた鎖が、光の粒になって消えた。
「ふざ……けんな……俺が、ぶっころす……」
血が足りないせいか、喋っただけでかなり疲れる。
仰向けで倒れようとすると、誰かに肩を掴まれ支えられながら意識を失った。




