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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第一章
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十二話

 中華街のヤバいエリアを早々に後にし、薄っぺらな鞄を持って小走りで15分ほどで、ようやく第二高校へ着いた。


 時刻はすでに昼前で今は絶賛、四限目の数学の授業中だ。


 割られた窓ガラスから漏れてくる冷気に、身震いしながら教室のドアを引くと、俺みたいに途中参加する生徒は珍しく無いため、教師はさして気にせず授業を進行していく。


 実に3日ぶりらしいが、相変わらずと言った様子で教室は閑散としている。


 不良連中は大抵午後から来るし、たまに午前中から居てもずっと寝てるかスマホを弄っているだけで、他の連中は俺と同じでまぁ普通だ。


 テキトーにノート取って、テキトーに手を抜いたり、隣近所の友達と小声でダベる。


「おはよ~日向くん、遅かったね」


 そして3日前まで空席だった俺の前の席に、一ノ瀬が座っていた。


 相変わらず間延びしたアホっぽい挨拶をしてき、俺は「あはぁ」と言って後ろの席へ腰掛ける。


「え~と、服がボロボロだけど、どーしたの?」


「昨日の連中に捕まってたんだ……まぁなんとかなった」


「なんとかなって無いように見えるけど……」


 チラチラと教師の目を気にしながらも、俺を気に掛ける一ノ瀬にシッシッと前を向くよう指示する。


一ノ瀬(おまえ)の姉て言う医者に、助けてもらった」


「え? それ……ホント?」


 そこから数分間、一ノ瀬は黙りこくり、何かを思案するようブツブツと独り言を始めた。


 次に一ノ瀬が口を開いたのは、四限目の終了を告げるチャイムがなった時。教師が教壇から降りるや否や、俺へ振り返る。


「さっきの話! もっと詳しく聞きたい!」


「あ、あぁ……飯食いながらでもいいか? 腹減ってさ」


「うん! いいよ! 私、日向くんの分もお弁当作ってきたから!」


 それは初耳、というかいつ寝ていつ起きたら俺の分も弁当が作れるんだ。しかも昨日は鍋で、余り物を詰め込む事なんてできないのに。


「食堂は混むし、そうだな……被服室なんてどうだ? 人も少ないし」


「うんうん! いいね!」


 親指をグッと立てて同意すると、二人揃って教室を出て北校舎最奥の被服室へ向かった。



***


 日が当たりにくい為、ジメッとしており少しカビ臭く薄暗い、基本的に人は寄り付かない。


 なぜ人目を避けたのか、それは俺が単に人混みが嫌いだからってのが大部分。


 だがそれだけでは無い、氷華先生の口振りから組織に関係している、または関係していた(・・・・)人間である可能性が高いからだ。


「それで、お姉ちゃんのこと……」


 かなり気になっている様子だが、一ノ瀬は木製の長机に俺と自身の分の弁当を保温バックから取り出し並べる。


「あぁ、一ノ瀬(おまえ)の求める姉かは分からないが、とにかく一ノ瀬に似てた……名前は氷華(ひょうか)って言ってた気がする」


 氷華の名にピクリと反応した一ノ瀬が、いつもの笑顔を忘れ、木で出来た四脚の椅子へ腰掛ける。


「わたし元々、孤児(こじ)で親姉妹(きょうだい)なんていないと思って、食べていく為に毎日、殺人の訓練ばっかりしてたの……」


 突然語り始めた内容は、非現実的でおおよそ共感どころか想像すらできないものだった。


「10歳くらいかな? 孤児院で暗殺の仕事ばかりだった頃にお姉ちゃんと会ったの……」


 そう言って語られた内容はこうだ。


 ずっと両親も兄弟姉妹もいないと思って生活してたが、それは一ノ瀬のトラウマで記憶喪失によるもので、氷華先生は一ノ瀬の過去をよく知っていたらしい。


 胡散臭い話だと一ノ瀬も思ったらしいが、二人で公共の病院のDNA鑑定を受けたところ、本当に肉親だったようだ。


 そして氷華先生()が立ち上げた『名もない秘密結社──組織』に入り、天才的な殺人術や人脈で、今の地位を確率したらしい。


 無論、今の地位とやら。


 組織の全容なんかも、俺はまったく知らないがな。


「でもある日、お姉ちゃん達は組織を裏切ったの……それが数年前の話で、ようやく見つけたんだって」


「だから氷華先生は、俺と一ノ瀬の繋がりから組織との関係を聞いてきたのか……」


「一応、追われる身だから……ねぇ! 日向くん!」


 突然、興奮気味に顔を上げ、蒼く澄んだ瞳を向けてきた。


「お姉ちゃん! 元気だった!?」


 なにを聞かれるのかと身構えたが、唯一の肉親を気遣うのか……それが普通ってヤツなのか、俺には分からないが。


「あぁ、まぁ元気そうだったのかな? 患者に優しくて真摯だったぞ」


「そっか、良かったぁ~えへへ」


 それだけ聞くといつものように、間延びした声でアホっぽく笑った。


一ノ瀬(おまえ)、氷華先生の居場所聞いたら殺しに行くのか?」


「…………それが、組織の命令なら……」


 yesともnoとも取れない曖昧で弱々しい言葉を、途中で詰まらせ静かに俺の目を見、震える桃色の唇を開いた。


「そんな事より、ご飯食べよっか!」

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