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雑貨店主の好きなもの  作者: 更科


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雑貨店主は接客がお好き

同じ話を短編で投稿してしまっています。

連載に変更できなかったので再度連載一話として投稿していますのでご注意くださいませ。




 首都ほどではないが、この街が栄えているのは国内一ニを争う魔法学園があるからだ。

 しかしこの店があったのは学園ができる前の話であり、学園ができてからと言うもの周りには多種多様な店が溢れ、学生もしくはその家族を目当てにした店が増えている。

 地価が上がったのだろうが、もともとこの店を所有していたため今この辺りの店がどのぐらいの値段なのかは皆目検討がつかない。

 ふるびていることを強みに改装したばかりの店構えはかなり古臭いが、それが逆に今の若者にはもの珍しく新鮮に映るようで、客入りは悪くない。

 店構えとは裏腹に扱う商品は目新しいものばかりである。

 人の汗のにおいが店の中に漂うことがないよう、窓は開け放たれており、レジ横には商品のサンプルとしてハート型のポプリがいくつか置いてある。

 一人でしている小さな店だ。ほとんど道楽に近い。

 今現在店の中には何人かの客がいる。

 店内に気を配るのは店主として当たり前のことだ。小さな宝石をあしらった商品がいくつかある。万引きには気をつけなくてはならない。

 万引き防止には商品をショーケースに入れてしまえばいいのだとは思うが、ショーケースに仕舞い込むほど高値の商品ばかりではないし、うちの主力商品は主に若い女性をターゲットにしたカジュアルなものであるため、全ての商品を仕舞い込むのは難しい。それに直に手に取ってもらって気軽に鏡で合わせてもらったほうが買ってもらえる確率が上がるのだ。

 そのため店の中には学生が少し手を伸ばせば買えるぐらいの程々の値段のアクセサリーがたくさん並んでいる。

 その中を歩きながらみて回る客たちの瞳の輝きを見るのが店主の楽しみの一つでもある。

 昼ごろになると客たちもランチタイムになるため、店の客は少なくなる。

 自身の昼ごはんをいつ取ろうかと正面の壁にかかった時計の針を読んだ。一人でしている店であるため、昼ごはんの時間は店は閉めている。大体の時間は決まっているが、客が皆いなくなってから店を閉めるため多少の前後がある。

 今日は本降りしそうな曇天も相まってか、店にいるのは金髪を緩い三つ編みにした女性のみである。やぼったい三つ編みと、おしゃれな三つ編みがあるということを店主は知っている。

 この子は後者だ。

 女の子というには歳を重ねているが女性というには成熟していない。まだ学生だろうと思われる彼女は、熱心にアクセサリーを吟味している。

 いくつかのピアスを耳に合わせては、戻し、今度はネックレス、イヤーカフとさまざまな商品を手に取っては合わせてるが、しっくりこないのかすぐに元に戻してしまう。

 釈然としないという顔をしていて、店主は悩める彼女に声をかける。


「お手伝いすることはありますか?」


 店主が近づいてきたことに気がついていなかったのかパッと顔を上げた彼女は、透き通るような淡い紫色の瞳をしていた。紫といえば魔力が強い人間に現れる色である。この華奢な彼女も魔法使いなのだろう。制服は着ていないが、このぐらいの年齢であれば学生かもしれない。


「いえ、あの、なんだか気になるものが自分に合わなくて……」


 店主が見たところ彼女が先ほどから手にしているものは全て青色の宝飾がほどこされているものばかりであった。


「青色の商品が気になりますか?」


 彼女は驚いた、と言う顔をして「そう言われてみればさっきから青色のものばかりみてました」といい、先ほど戻したばかりのネックレスを見た。

 金色の髪と紫色の瞳と白い肌をした彼女には青色はあまりお勧めできる色ではない。


「恋人の色ですか?」


 ここ最近、カップルの間でお互いの瞳の色をしたアクセサリーを身につけるのが流行っているのだという。大昔の貴族のような流行りだ。


「恋人? いえ、違います」


 ブンブンと被りをふり、「青色は似合わないとはわかってるんですけど、目につくのが青色ばかりで……」と眉を下げた。

 ここで店主は再度質問を繰り出す。


「では、《推し》の色ですか?」


 歌劇団や騎士団のファンである人々はその推しの色、とされる色を好む傾向がある。


「おし?」


 そういったファン活動には疎いのか、彼女は心底分からないと言うように首を傾げた。


「見当違いのことを言ったようです。申し訳ない」


「いえいえ、私の勉強不足です、もうしわけありません」


 ぺこ、と頭を下げられ、店主は驚く。

 昨今見かけないタイプの礼儀正しさだ。


「真っ青な石よりもブルーグレーのような薄い青のほうがお客さまには似合うと思いますが」


 ちょうどちかくにあった商品を取り、進めてみるが、どうも気が進まないようだ。

 ちょっと困った顔をして、どう断ろうかと思案しているのを見た店主は、天啓を受けた。

 唐突にラブコメの波動を感じたのである。

 恋人ではないが、思い人ではある、ということではないのか。くぅ、言葉選びを間違えてしまった。初めから「好きな人のお色ですか」と聞けば良かった。

 自分に似合わないとわかっている色をそれでも身につけたいと思う心理は店主でも持っている一般的なものだ。

 ちなみに店主の付けているピアスの色は嫁の髪の色と瞳の色のグラデーションになっている。

 そこで店主はレジの近くに陳列している品物を一つ取ってきた。


「お客さま、よろしければこちらもご検討ください」


 彼女は手渡されたそれを手に取る。


「腕時計も置いてたんですね」


 ベルトの部分は落ち着いたピンクゴールド。時計の背面の色は真夏を思わせるような冴えた青色になっている。


「どうですか?」


 時計の文字盤の色ならば、それ程主張することもない。

 彼女は、じっと文字盤を見つめ、素敵なグラデーションですね、と微笑む。


「付けてみてもいいですか?」


「もちろんです」


 細い手首に巻いたベルトはかなり余っている。


「サイズ調整もこちらで行いますのでご安心くださいね」


 じっと澄んだ紫が時計を見つめ、その秒針が二回りした頃に彼女はそっと時計をはずした。


「これください」


「かしこまりました。他の時計もありますが、ご覧にならなくて大丈夫ですか?」


「これがすごく気に入りました。これにします」


 買いたいものが見つかったからか、眩しいぐらいの笑顔を向けられた店主も、にっこりと微笑む。


「では、お支払いの後で改めてベルトの調整をさせていただきますね」



 店の客全てを覚えているわけではないが、自身が接客したお客さんと、この店に並んでいた商品はほとんど覚えている。

 今日は店はお休みの日だ。夕ご飯の食材の買い出しを頼まれて、いくつか野菜を買い込んだ。

 同じように買い物をしている女性の腕につけられている腕時計が、目に入った。

 店に長く並んでいた商品だ。懐かしさに目を細め、その持ち主を見る。

 もう学園は卒業したんだろう。あの頃三つ編みだった髪は肩口で揃えられている。彼女が持っていた重そうな袋を引ったくるようにして、持ってあげているのは、彼女よりも頭一つ分背が高い男性だ。その男性の目が青いのを見る。そうして髪の色を見てみれば、キャラメル色のそれはまるでピンクゴールドに見えるのに気づく。

 なるほど彼女がすぐに気に入ったのにも納得だ。


 






 

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