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御伽の図書館  作者: こずみっく神
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吸血鬼篇2


 ジリリリリッ!

 六畳の部屋に木霊する目覚まし時計。時刻は四時。

 まだ外は暗く、一般的に起きるには早い朝。

 結城言葉は目覚ましを止めて起き出す。


「ふぁぁぁっ……ふっ。準備しなきゃ」


 朝早くから起きる理由。それは、家族の朝御飯と弁当を作るためだ。

 父親、自分、妹二人の合計四人前の朝御飯と弁当を作るのは思いの外、重労働。

 何より、妹二人の好みがうるさい。

 例えば、片方は塩辛い卵焼きが好きなのに、もう片方は甘い卵焼きが好きだったりする。

 同じ味が好きなら一つで済むのに、好みに合わせないと後で怒ってきて面倒が増えるので手間を掛けて作る。


 言葉の家に母親が居ないのは、死んだわけでも離婚したわけでもない。

 母親の仕事と性分のせいだ。


 研究職に就いてはいるが、冒険家とも言える考えを持っていて、植物や動物、昆虫等を現地に行って調査している。


 現在はアマゾンに行っており、お土産と称して昆虫の標本や変な植物を育てるようにと、荷物を送ってくる。

 もちろん、通常は防疫機関等によって差し止めをされるが、言葉の父親の職業が関係して見られていない。


 父親は自衛隊の陸将補。世界基準に合わせると、少将になる。

 四十六歳で、期待される存在であり、様々な仕事を請け負っている。

 よって家に届けられるものは機密内容の物が多く、確認されずに届けられる。尚、配達者は偽装した自衛隊の人が殆どだ。


 そういった事情があるため、言葉が家事の全てをこなしている。

 二人の妹が家事をしたことがあるが、砂糖と重曹を間違えたり。掃除機を折ったり、家具を壊したりとあまりの悲惨さに家事禁止が発令されている。


「朝御飯と弁当です。いってきます。……と」


 言葉はメモを残し、家を出る。

 みんなの弁当と朝御飯を作り終えた後は、家族と話すことも無く学校へと登校する。

 まだ、日が昇っていない時間に登校するのは言葉が学校でやっていることが関係している。


 私立日緑学園。

 この高校は文武両道を掲げており、成績の良い者はそれより下の者を行使出来る。

 弱肉強食の環境ゆえに問題視されがちの学園であるが、卒業生は優秀な者に育っていることが多く、履歴書にここを卒業していることが書かれていればかなりポイントが高くなる。


「おはよう。みんな元気?」


 言葉は学園の一角に入り、声をかける。そこには人は居らず、代わりに様々な動物たちだった。


 ハムスター、牛、虎、兎、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪。後、近所の野良猫。

 干支を思わせる顔触れの動物たち。

 言葉は入学してから世話をしている。


「ほーら、御飯だぞー。お家から出てくれ。掃除をします」


 動物たちは言葉の言う通りに外に出て、御飯を食べ始める。

 御飯を出すだけなら、こんなにも早い時間に来なくても良い。問題は掃除だ。

 ハムスターは十数匹いて、少し多いと思う程度だが、他はそうとは言えない。

 例えば牛。彼らも十数頭居り、掃除が地獄のように大変だ。

 せめてもの救いは、乳牛では無いため毎日乳絞りをしなくてよい所だけ。

 他も十数頭(匹)居るため大変だが、猿や犬はよく言葉を手伝ってくれる。他の動物たちも頭が良く、言ったことを理解して行動してくれるので見た目ほど切羽詰まってはいない。


 本来、この動物たちの世話をする人たちは居る。飼育部という部活動だ。

 学園で飼っている動物達を飼育したいと願い出て、創設された部活なのだが、放課後にちょっと触れ合って終わりという活動しかしていない。

 元々、学園が飼育していたので世話をしなくても担当の者が居たが、腰が悪く立てないでいる。

 困った世話係の人を言葉が偶々見て、こうやって手伝っている。


「ぴょん助、ちょっと肥ったか?前より重いぞ?」


 動物達は言葉が世話をしてくれるのを大変喜んでおり、くっついたり匂いを嗅いだり、背中に乗せようとしたりする。小さいのは言葉に乗ろうとする。

 飼育部部員達には素っ気ない、もしくは敵意を向けるが言葉にはべったりする。


「もう皆が登校する時間だ。そろそろ行くね?お昼にまた来るね?」


 言葉は部活に入っていない。

 動物達と仲良くしているところを見られると厄介事が増えそうなので他の人が来ない間に退散するのを習慣付けている。

 言葉が去るのを寂しそうな表情で見送る動物達。

 一ヶ月程、続いたサイクルが数日後には壊れる事になる。




 静かな教室にチャイムが鳴る。


「終了の時間になりましたので終わります。各自、次の授業の準備と休息を取りなさい。以上」


 一時限目の授業が終わった。

 言葉は勉強は出来るので、これといったことは無かった。

 問題があるのはここから。


「コンニチワー。ユウキくん、居ますかー?居ますよね~?」


 ガラの悪そうなチンピラっぽい男子生徒が言葉を探す。

 クラスメイト達は特に気にした様子はない。いつもの事だ。


「な、なにぃ…かなぁぁ……」


 弱々しく返事をするのは言葉。

 先程の授業の内容をまとめた電子ノートを持ちながら近寄る。

 怖がっているのか、身体は小刻みに震えている。


「何って決まってんでしょ?これだよ、これ!」


 男子生徒は言葉から電子ノートをぶん取る。

 すると、男子生徒はクラスを去っていく。

 男子生徒のクラスは言葉のクラスより上であり、命令権がある。

 成績の良い者は上のクラスになっていくので、下のクラス(自分より成績が良くない者)に頼りはしない。

 だが、ここで言葉の問題が浮き彫りになる。


 言葉は勉強は満点を取れるが運動が取れない。

 普通に勉強と運動が出来る者よりも下のクラスになりやすい状態になっている。

 先程の男子生徒は勉強があまり出来ないが、運動が良かった。

 勉強だけ出来る言葉に目を付け、言葉が作ったノートで足りない勉強を補うことで、本来より上のクラスに行ったのだ。

 そして、そういった者は何人かいる。


 ここが、学園を問題視される所でもある。

 世間は、これを虐めや搾取と言い。

 学園は、これを効率的な成長と生徒の自主性と言う。

 この問題は数日後に大爆発する。




 時間が経ち、今は昼休み。

 言葉は動物達の所に向かう。

 いつものように御飯を与え、自分も弁当を食べる。撫でたりブラッシング等をして楽しい昼休みが終わっていく。

 授業が始まる前に戻っていく言葉。

 いつもと違うのは、この事を数人が見ていたことだ。


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