吸血鬼篇1(プロローグ)
広いテーブルに等間隔で置かれた椅子に一人の青年が座っていた。
部屋には青年だけで、他に誰も居ない。
紙でできた本のページを捲る音が僅かにするだけで、酷く静かだ。
青年は本を読み終えて立ち上がる。窓から差す、僅かな夕焼けの光を見れば閉館の時間が近いと覚ったからだ。
青年は本を元の場所に戻し、急ぎ退館の手続きをするために司書の元に寄る。
司書は白を基調としたゆったりした服装で、顔元は白のベールが掛けられていて窺えない。
しかし、仕草や服装で解りにくいがスタイルがよいところを見れば美人であるのは確実だ。
青年は少しの間、見とれていたが司書に話しかける。
「す、すみません。退館しますので手続きして貰えますか?」
「はい、承りました。15:12に入館したユウキ様ですね」
「は、はい。結城言葉です」
司書は名前の確認が済むと、椅子から立ち上がり、引き出しから預かっていた物を取り出す。
手持ちの鞄や通信機、記録できる物などだ。
この図書館では館内の物を持ち出しすることを許しておらず、本の内容を記録することも許していない。よって、入館時にそういった事が出来る物を預かるようになっている。
「こちらがお預かりしていた物になります。御確認ください」
「あ、はい。だだだ、大丈夫で…す。全部、、、あります」
「本日は当館をご利用いただき誠にありがとう御座います。足元が暗くなり始めていますので、気を付けてお帰りください」
結城は司書に会釈し出ていく。
彼はこの図書館を半年程前から利用しているが、図書館の事も司書の事も何もまだ知らない。
ゆっくりと夜の帳が下りて、看板が見えにくくなる。
『私立図書館セイカ』。
殆どの本が電子化し、紙の本が珍しいと言われるこの時代に現存する最後の私立図書館である。
桜の花びらが舞う三月。
別れと出会いの狭間の季節。
結城言葉は平穏と別れ、激動の人生の始まり。