ゴブリンの項
冒険者ギルド 魔物辞典全集 ゴブリンの項より抜粋
ランク:G~(単体での評価。個体数、支配階級によって変動あり)
分類:亜人種
体長:約80cm~(支配階級個体は150cm~)
生息域:砂漠、極地を除く全域
討伐証明部位:魔石(胸の中心、肋骨に守られた位置)
特徴:二足二腕で鋭い爪と牙を備えた魔物。体表の色は緑色である場合が多いが生息地によって異なる。通常個体は本能のままに襲ってくるだけだが、支配階級個体は伏撃、奇襲、罠、人質など極めて悪辣な手段をとることもある。新人冒険者はもちろん中堅でも油断すれば帰らぬ人となるためくれぐれも気を付けるように。
討伐証明部位は魔石。肋骨に阻まれてナイフが刃こぼれする新人が後を絶たない。腹を裂いてから胸に向かってえぐるようにすると比較的楽にとれる。
「ゴブリンの生態」(著:ニコラス)
害獣として有名なゴブリンはその性質上一部の地域を除くどこにでも現れるため、被害報告が後を絶たない。前提として以下の特徴が挙げられる。
・コロニーを形成し、役割、階級がしっかりと定まっている
・多産であり、爆発的に増殖する
・雑食かつ悪食であり、仲間の死骸であっても食べる
ゴブリンはコロニーを形成する。コロニーの中心にはひときわ大きなゴブリンが存在しており、女王と呼称される。通常のゴブリンは体長80cm程度であるがクイーンは体長2mほどもあり、多くのゴブリンを出産していることが確認されている。クイーンは一週間で10匹ほどのゴブリンを産むことができるため爆発的に増殖する。過去には数万匹のコロニーが形成されたという報告もある。コロニー内のゴブリンが一定を超えるとクイーンは支配階級と呼ばれる統率個体を出産する。通説ではゴブリンが1000を超えると支配階級の出産が起こるとされているが詳細は不明である。支配階級の出産以降、クイーンは支配階級の出産のみを行い、通常個体を出産することはなくなる。支配階級として報告されているゴブリンは兵士、上等兵、魔術師、将軍、王である。後者であるほど出現が遅く、脅威度は高い。上位個体は下位個体10匹分の戦闘能力があると言われているため、たかがゴブリンと油断した新人冒険者が事故にあうケースが非常に多い。特にキングの出現は新たなコロニーが形成される前兆であるため、発見次第速やかな報告、駆除が義務付けられている。キングは成熟に数年の歳月を要し、成熟するとクイーンとの間に次代のクイーンを作る。次代のクイーンは新天地を目指して多数のゴブリンとともに大移動を行うことが報告されている。この大移動は生態系を大きく狂わせるため、大暴走を引き起こすこともある。雑食、悪食のゴブリンが大移動を行うと、後には何も残らないことから「ゴブリンの大移動」ということわざも生まれた。
ゴブリンの生態及び繁殖に関する報告 文責:国立魔物研究所第三研究室副室長 エルマン
今回はゴブリンの生殖行動について興味深い報告が上がってきたため、それについての実験結果と考察である。
結論から言ってしまえばゴブリンの99%はメスである。人間とゴブリンの関係は古く、文明の黎明期からその存在が報告されている。ゴブリンが好んで女性を攫うこと、ゴブリンの股間部分に性器のような棒状の器官が確認されていたこと、棒状の器官から白濁した液体が分泌されていたことなどから、「ゴブリンは人間の女性を孕ませるもの」という認識が形成されてきた。また、これを疑問に思うことなく子孫に伝えられてきたため、「ゴブリンはオスである」という認識が広まってしまったと考えられる。
今回上がってきた報告は「男性がゴブリンの幼体を出産した」というものである。詳細は省くが、森の中で単独行動中にゴブリンに襲撃され、その後救出されるもゴブリンの幼体を出産し死亡している。また、この男性は過去に婦女暴行で複数回捕まっていたため、去勢の刑を執行されていた。男性器がなかったことから女性と勘違いされたと考えられるが詳細は不明である。この報告で注目すべきは「男性が出産した」という点であろう。本来男性には出産に必要な子宮も卵巣も存在しない。にも拘わらず出産できたなら、別の要因を考えるべきである。
この件について私は一つの仮説を立てた。それは「ゴブリンの精液と思われていたものは精ではなく卵である」というものである。ゴブリンは女性の胎内に卵を産み付け、卵が孵ると周りの肉を食べて急速に成長、出産となるのではないかと考えた。この仮説を証明するために以下の実験を行った。
実験
羊の子宮を用意しよく洗浄して上から観察できるように口を開けた。また、口は密閉できるようにし、内部の環境の変化を最小限に抑えるようにした。
拘束したゴブリン(以下、検体A)の性器から筒状の器具を用いて精液を採取した。
採取した精液を子宮に入れ、内部の温度が36~37℃になるようにし、経過を観察した。
結果
観察一日目
変化なし
観察二日目
精液の中に浮いている直径2cm程度の肉腫を17個確認した。
観察三日目
肉腫の直径が10cm程度まで成長していた。
観察四日目
肉腫の直径が25cm程度まで成長していた。また、肉腫に手足及び眼球らしき器官を確認した。
観察五日目
体長30cm程度まで成長。盛んに動き回り共食いを始める。周囲の子宮を食い破ってしまったため周囲を豚の生肉でふさいだ。
観察六日目
共食いの結果個体数が4体にまで減少。周囲の肉を積極的に捕食するさまが観察された。体長40cmとゴブリンの幼体と変わらない大きさに成長したため実験を終了。幼体は殺処分した。
考察
複数回行った実験のいずれでもゴブリンの幼体が確認された。動物の子宮と生肉の種類を変えてもゴブリンの幼体が発生したため、ゴブリンが性器から分泌している液体が精ではなく卵であったと考えられる。このことからゴブリンの性器はいわゆる産卵管の一種であると考えられる。
一度だけゴブリンの幼体をそのまま成長させる実験を行ったが、成長したゴブリンはいずれも検体Aのもとに向かおうとする行動を見せた。成長したゴブリンと検体Aを引き合わせたところ、検体Aを中心に組織立った行動をとるさまが確認された。これ以上の実験は危険と判断し検体Aを含むすべてのゴブリンの殺処分を行ったが役割、階級のはっきりしているゴブリンの生態解明の糸口になると考えらえる。
室長からの一言
君の考察は大変興味深い。しかし我々の役目は魔物の生態を明らかにすることではなく人々を魔物の脅威から守ることだ。