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博士の創る優しい世界

別に「バカだけを殺すウイルス」という小説を批判したいという気持ちで書いたのではなく自分だったらこんな感じにするなぁということを伝えたかっただけですから(必死)

「やったあ!完成したぞ!」


 とある研究所で博士が歓呼の声をあげます。


 博士は40年間の研究の末に出来上がった薬を見て幸せそうに目を細めました。


「これでようやく世界から戦争をなくすことが出来るぞ!」


 博士が作ったのは『人を優しくする薬』でした。


 これを飲んだ人は自分勝手な欲望が押さえられ、他人を思いやることができるようになる素晴らしい薬です。


 さらにこの薬を飲んだ人の子供も、飲んだ人と同じように優しい人として産まれてくるのです!


 しかし、どんな薬でも誰かに飲んでもらって効果を確かめなければいけません。


 そこで博士は一人の男を呼びました。


 それは博士の幼馴染でした。


 しかしこの男の性格は博士とは正反対!


 周りの人を幸せにしようと努力する博士に対して男はとても自分勝手で、上手くいかないとすぐ暴力を振るう乱暴者でした。


 そのため博士はまず最初にこの男に薬を飲んでもらおうと考えたのです。


「おう、どうしたんだ?いきなり呼び出したりして」


「実はきみにとある薬を飲んでもらって、その感想を教えてほしいんだ」


「おれに頼むんだから、わかってるよな?」


「……もちろん、お金は出来る限り多く出すよ」


「なら、いいんだ」


 男は厭らしくニンマリとわらいました。


 それから三ヶ月後、博士は再び男を呼び出しました。


「やあ、三ヶ月ぶりだね。元気にしていたかい?」


「あ、ああ……。きみこそすごく雰囲気が変わったね」


「そうなんだ!あの薬を飲んでから何かから解放されたような真っ白ですがすがしい気分なんだ!」


 なんと、男のいらいらした顔つきは薬によって洗い立てのシーツのように白く澄みきっていたのでした。


 薬の効果を確認して満足した博士は実験に付き合ってくれたお礼に多くのお金を渡そうとしました。


 しかし、男は「そんなにもいらないよ。むしろ、こっちがお礼を言いたいぐらいなんだ!」と言ってほんの少しのお金だけを受け取って帰っていきました。


 博士はこんなにも優しい人で溢れる世界はどれだけ素敵なんだろう!とこれからの幸せな未来に想いを馳せました。


 それから博士は『人を優しくする薬』を沢山作り、それを雨雲にして世界中に薬の雨を降らせました。


 薬の雨は三年ほどかけて世界中の自分勝手で愚かな人間を優しい思いやりを持てる素晴らしい生き物へと変えてゆきました。


 そうして世界から自分勝手な人間がいなくなり、地球上から一切の争いが無くなりました。


 博士は念願の夢が叶い、とても幸せでした。


 町を歩けばすれ違う人たちは全員に笑顔が灯っていますし、世界中のどこに行っても誰一人として言い争いすらしていません。


 博士はまさに理想の優しい世界を創り上げたことに満足しながら寿命を迎えました。




 それから200年後、()()()()()()()()()()()()()()()


 実は博士の作った薬はこの200年間雨として大地に染み込み、水に混ざり、そして様々なかたちで人々の中に取り込まれ続けていたのです。


 それらは世代を重ねる度に濃縮され、ついに『自分の身すらいとわず他人に尽くし続ける人』が産まれてしまったのです。


 この人たちは他の誰かのために、涙を流しながら別の誰かを傷つけ、激しい罪悪感に身を焦がしながらさらに別の誰かを(あや)めていきました。


 そうして『自分ではない誰かのための戦争』何十年、何百年と続きました。


 そして果てし無く長い時間が流れ……何もなくなった地上に最後の人間が横たわっていました。


『誰かのための戦争』は大地を壊し、海を汚し、空気を濁らせきって、他の誰かがいなくなったことでようやく終わったのでした。


 最後の人間は、濃縮され尽くした薬によって思考は愚か、単純な感情すら消えかかっていました。


 ただ、自分の死によって少しでも大地に栄養を与えられることに、搾り滓のような喜びを感じながら息絶えてゆきました。


 こうして博士の創った優しい世界は終わりを迎えたのでした。


 めでたしめでたし。

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