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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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逃避行

もしやBL、BLなのかこれは・・・。


お邸を飛び出して、二人は近くの茂みに飛び込む。茂みの間から邸の様子をうかがう。南門からひっきり無しに、泰清の捜索隊が出て行く。皆揚羽蝶の紋のついた提灯を持っていて、その明かりは四方に散って行った。

暫くして、門から出てくる人がいなくなった。二人はどちらからともなく大笑いを始めた。

一頻り笑った後、泰清は、思わず逃げてしまったが、

「これからどうしようか。」敢えて明るく言う。

「上神輿町の屋敷にはすぐに手が回るだろうな。」

「だろうね。」

「―――じゃあ、奈良にでも帰るか。」真備も明るく言う。

私はどうするのがいいだろう。・・・多分ごめんなさいをするのが一番いい。

だが、真備にこのまま一人で帰れと言うのもその心中を思うと見捨てるようで忍びない。

「私はどうしようかな。」決めかねて独り言のように尋ねた。

「一緒に行こう!」真備は言った。

言っている意味がわかっているのかと、泰清は真備を見る。

真備の譴責事項は、①陰陽寮を混乱に陥れた。②(下賤の民である配下の少年団が)官人陰陽師に呪詛をかけた。③御本社の破壊。④泰清誘拐だ。口頭注意で済みそうにない。

だが④については今ならまだ、無かったことにできるのではないか。

「この分だと俺、廃嫡だぁ。あーあ、下手打ったよな。」真備は頭を抱えてしゃがみ込む。

それから、泰清を見上げて、

「最後に若様と話がしたい。」真備が見つめ返す。

「―――うん、わかった。」泰清は答えた。

二人は茂みから出た。明るい月が田舎道を照らしている。

「とりあえず、伏見で宿を探しますか。」

少年たちは歩き出した。

道中は陰陽寮の悪口を言い合って楽しく過ごした。

「因循!」「固(ろう)!」「姑息!」「老害!」

あははははっ。

―――本当に話したいことは、他にあるのに。



伏見は水上運輸の中継都市である。京橋町は京都と大阪をつなぐ淀川の三十石舟の発着所で、近辺には旅宿が並んでいる。洛中の二条まで貨物を運ぶ高瀬川や伏見城の名残の濠川沿いは酒蔵が立ち並び、金座銀座もあって栄えているが、住民の多くは肉体労働者であり洛中とは違った趣がある。

泰清、初めて伏見の町中を歩く。

まだ戌の下刻前(21時前)。夜の街で公家の少年が二人で空宿を探す。いくら真備が旅馴れているとはいえ、やたらと目立つ。烏帽子がいけない。

「坊やたち、どこから来たの?」綺麗なお姉さん。

「都です。」

「金持ってるか?」無宿者。

「私は持ってないけど、真備は持ってる?」

「宿はあるか?おじさんが泊めてあげるよ。」下卑たオヤジ。

「恐れ入ります。あの様に仰ってるけど真備どうする?」

「・・・」

真備は泰清を引っ張って連れて行く。

「もう!俺以外と口をきかないでください。世の中はあなたが思っているよりずっと貧しくて、隙あらば他人から搾取してやろうと窺っているんです。」濠川のほとりで言い聞かせた。

そんなにいけなかった?泰清はいいかげん歩き疲れたこともあり、しゅんとして頷いた。

「おやおや、喧嘩かな?」とうとう変なのに捕まった。

二人は、見るからに屑そうな人相の男五人に囲まれた。

「迷子だろう、おじさんたちが明日お家に連れて行ってあげるから一緒においで。」

「おやおや、どちらもかわいいね。いい値がつくに違いない。」

「ちょっと待って、この子たちお公家さんだよ。」「ますます高く売れるだろうさ。」

人攫いだ。

「うるさい!お前らなどに用はない!」と真備。

「威勢もいいね。気に入った。」「さぁ、来るんだ。」屑たちが二人に近寄った。

泰清は人攫いたちのただならぬ雰囲気に後ずさる。真備が刀を抜く。

「こらこら、売り物に傷は付けたくないんだ。大人しくしてくれよ。」また別の屑がへらへらと言う。

泰清は、真備に剣術ができるとは思っていない。陰陽師の帯刀はただの箔付けだ。だから自分が何とかしなければ。

「いくら払えばいい?」

「ヒュー。別嬪さんは頭もええんやね。でも別嬪さんは高く売れるから払えるかな。」にやにやしながら答える。

「いくらか申せ。」怯えていると思われたくない。

「ははっ、こっちも剛毅(ごうき)だ。じゃぁ、二人で200両でどうだ。」

「200両?!いや、でもなんとか・・・月賦でもいい?」どこから捻出するか真面目に考えだす泰清。

その様子を見た真備は腹を立てる。俺のことを全く当てにしてない。

「しょーもない事考えなさんな!さっきもゆーたやろ、俺以外としゃべんなって!」

ここで主家に何かあってみろ、俺は大允の言う通り、全くの害でしかない。

だったら死んでも退けるか阿保んだら!

真備は泰清をかばって前にでた。



お約束的展開。

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