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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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陰陽師大戦

なんかのパクリみたいな章題です。

土御門家には外向きの空間と内向きの空間を区切る大きな板張りの廊下が南北に走っていて、玄関付近の東側の区域が外向きの空間、西側の区域が内向きの空間になっている。

外向きの空間のうち、玄関から南の天文台に至る一区画が陰陽寮と私塾用の部屋である。

陰陽寮から西に伸びる畳敷きの廊下を行くと内と外を分ける板張りの廊下にぶつかる。二つの廊下が交わる所にある外向きの部屋で、謹慎中の晴雄がやむを得ず院政を敷いている。

その部屋で晴雄は陰陽少允相手に花札をしている。

陰陽寮は陰陽頭、助、大(じょう)、少允、が上層部であり、前二者が代表者で、後二者が現場指揮者である。少允は晴雄と歳が近く、数十年来の主従である。

「最近、幸徳井の坊ちゃんが、寮内をちょろちょろしています。」と少允は言いながら、いい札を持っていった。

「・・・うん、聞いている。」晴雄は自分の札を表に返してだす。タネ札がでたのに揃いの花が無い。

「「うん、聞いている。」じゃございません!」生返事の晴雄をたしなめる。まるで細君である。

「少允はどう思う?」山札をひくが、やっぱり揃いの花は無い。

「幸徳井家には貞享暦の際に幕府に頭を下げた先例があります。しかしそれはあくまで幸徳井家が教わったのであって御当家が教わったのではありません。

幸徳井は自分が御家の下にいるのが悔しいもんだから、今度は御家下げをしようと言うのです。結局幸徳井は幸徳井なのでございますよ。」

少允は、二百年近く前の因縁を持ち出して憎々し気に言った。小うるさい細君だ。

「・・・そうだね。でも科学技術の進歩も目覚ましく、天文部や暦部もこのままではいけないと思うのだが。」

「じゃあ、学者を招聘してください。」今度は拗ねた女子のように言う。

「洋学者を招聘?戦の前に、著名な洋学者が天誅にあったじゃないか。そんなことをすれば邸に浪人どもが押し寄せてくるだろう。」

「なら、このお話は終いでございます。」やっぱり拗ねた女子だ。

「・・・そうか。」

さっきからカス札ばっかりだ。

少允は、花札をする時いっつも面倒臭い話しをしてから勝ち逃げをしていく。これは一種の呪詛ではあるまいか(いいえ、ただの報・連・相です。)。今日もまた小銭を巻き上げられるに違いない。あぁ姫のすることは・・・。



少允は花札で勝ち逃げをしたあと、陰陽師(本職)の播磨、美作、兵庫、近江を呼び、寮生が真備に洗脳されないように、各組の管理を徹底するよう指示をした。

真備の陰陽生に対する工作活動は苦戦する。工作過程で小允からの圧力を知った。

「ここだけの話、僕は賛成ですよ。しかし所詮僕は見習いの身ですから。」見習いたちは口裏を合わせたように言った。


御所にて、真備は仕事中の大允の机の前にドカッと座って話しかける。大允はかなりの高齢である。

「こんにちは大允さん。今日は大允さんに話があります。」

「お話というのは、最近坊ちゃんが熱心に遊説して回っている、あれのことでございますか?」

真備は大きくうなずく。

「その話をするにはここは相応しくないでしょう。私は、今日、こちらを退勤したらお邸にご用がございますから、そちらでお伺いしてもよろしいですかな。」大允は穏やかに言う。

「わかりました。」

「私は御本社にご用がございますから、坊ちゃんもそちらにいらっしゃってくださいな。」


部屋を出た真備を見習いの信濃が追ってきた。

「真備さん、大允様はああ見えて怖いお人です。

お邸には少允様がいらっしゃるから、ご老体の大允様が、夜にお出かけになるなんてないんだ。どうかお気をつけ下さい!」

信濃は本気で心配した。


真備は黄昏時にお邸に着いた。

晴明神社(御本社)に至るお邸の南門は開いていた。その門をくぐって、参道を進むと、正面に祭場、その右隣に白塀に囲まれた御本社がある。神社の門の前には石燈籠を左右に配した鳥居があり、その門をくぐると大きな露台があって、露台から北に参道が続いて神社の本殿がある。

露台の上で大允と播磨、美作、兵庫、近江の四人の陰陽師が儀式の用意をしている。少允は晴雄の部屋で業務報告をしている。天文台ではいつものように天文観測が行われている。清子は自室で改元宣下の日時の選日をしている。

真備が神社の門をくぐる。篝火に照らされた露台上に大允を見つける。大允は真備に気づくと軽く頭を下げた。しかしそれっきりで降りてくる様子がない。真備は露台に上がった。

一斉に呪詛が始まる。

「泰山府君冥道諸神 (たちまち)明神 冥助を垂れ 万邪を退(しりぞ)け 障害を除け

 鬼は神とまみえること能わず 凶悪を永久に滅し ×× ××」

真備の周りに次々と白色の光牢が伸びた。真備は驚いて自分の周りの板張に目を落とし、そこから伸びる光を追って空を見上げた。

光牢は本来格子状だが、五人は互いの光牢の隙間を埋めるように光を伸ばしていく。牢は棺となり真備を取り囲んだ。呪文は猶も止まない。

棺は収縮し、真備の肉体を侵食し魂魄を潰しにかかる。

光牢返しをするんだ。

「ぐっ。」真備は胸が苦しくて膝をつく。

くそっ、できない。

真備は横倒しに倒れた。


真備が倒れるのとほとんど同時に、邸の塀の上の五点から、露台を囲むように若草色の光が走った。若草色の光が大きく晴明桔梗を描く。光は一気に収縮し大允の魂魄を目指す。五点の源では少年団が二人一組で呪詛をかけている。真備は護身のために少年たちを連れていた。光は大允を捕え棺となった。こちらも一人の力では外せない。

若草色の光牢は清子の部屋を通過した。通過する時に式神である槐を引きずった。驚いた清子はとっさに槐の魂を掴んで留める。怒った槐が変化を解いた。鎧を纏った蛇顔の女が現れた。

槐は、自律する式神、十二天将の一、勾陣(こうじん)式である。天将を必要としない平和な御代が二百五十年続き、その操る術は伝承が絶えて久しい。

槐は薙刀を手に光牢の後を追って部屋を飛び出した。

やっとです。やっと亥の日亥の刻のなぞ、槐が何者かがでてきました。これまた長かった。

槐は葛の葉の式でした。ばればれでしたでしょうか。お餅というのは命の象徴(勝手な解釈です。)だから、葛の葉は自分の餅と清子の餅を交換することで魂の交換をした、というかしたかった、みたいな回でした。どっちも自分みたいなものなんですけど。置いて行ったのが勾陣というところに母の愛を感じてください。勾陣は守りの式神です。

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