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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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化粧

「槐、駄目だわ。いくら何でもこれは無い」化粧用の鏡を覗きながら嘆く、戌下刻。

只今、清子と槐は化粧の練習中。清子は突如、陰陽頭=土御門陰陽道の最高神官となり、その生活は激変した。早朝から国家安寧を祈祷し、祈祷して、祈祷しずめ。その合間々々に朝廷から頼まれた選日や筮占いや、重要度の高いお客さんの祓いをする。今のところ引き籠もりを貫いている。

しかしもうすぐ10月1日が来てしまう!

毎年10月1日は、幸徳井家が来年の年間神忌上申を当家に持ってくる日だ。年間神忌上申とは、一年間の日の吉凶が書いてあるやつで、毎年11月1日にそれを陰陽頭が朝廷に献上するのが慣わしになっている。御暦奏の代わりだ。

陰陽頭泰清として上申書を受領すべきか、清子として疎開時の御礼を申し上げるべきか問題となる。

多くの陰陽道関係者にとって、今までの私は、節目節目の祭事に見かける程度の重箱入り娘でした。

しかし真備の父、幸徳井保源(やすもと)殿はそうではありません。私はがっつりお世話になりました。そんな人の前で、泰清だと言い張るなんてできっこないでしょう?

泰清と幸徳井父は上司と部下ですから、いずれ対面することは避けられません。しかしそれをできるだけ先延ばしにし、その間に少しでも清子と泰清を別人だと印象づけたいのです。そのための化粧の特訓です。

「これはお多福よ。そこまで吉にこだわらないと駄目なの?」

槐が困った顔をする。二人揃って引き出しに無い物を求めても土台無理なのだ。

恥を忍んで小さな八稜の鏡を取り出す。

本当は完成形を見せて忌憚無い意見をもらう予定だったのだが仕方がない。

「お師匠さん、お師匠さん。お時間ございますか?」約束をしたわけではないがいつの間にか定時になってしまった定時に話しかける。

「ございますよ。うわぁ!?」

「他人様の顔を見て、うわぁ!?とはあんまりです!」

「申し訳ありません。その化粧は?」

「どこをどう直せばうまく別人になれるでしょうか。」と情けない顔の白塗りお化け。

「それを私に聞きますか?別人にはなれてますよ。」三郎は、化粧に興味を持つお年頃なのだと考え、微笑ましく思う。

「これは不自然すぎて顔を強調しすぎです。目指すところは、確かに私なんですけども、こんな顔だったかなという感じです。分かります?」

「なんだか雰囲気変わったなという感じですか。」

「もうちょっとだけ踏み込んだ感じです。」

「とりあえず、その白粉は拭ってください。」必死になればなるほど面白い。

「薄化粧で別人になれますか?」

「適量ってものがあります。白粉を一旦塗った後あえてそれを拭い、肌に残った白粉が淡く光るくらいがいいと思います。」

「ふむふむ、槐やってみて」

槐が拭っていく。

「人の印象を左右するのは、やはり目です。お姫さんはややつり目なのでたれ目に見えるように目尻が下を向くように線を少し書きましょう。それから紅と白粉を混ぜて色を調整して目尻に、下側が重く見えるように着色してください。」

「ふむふむ、槐お願い。」

槐がせかせかとお絵描きをしていく。

「口は白粉で輪郭を消して小さく唇を書き指で馴染ませ、指に残った紅を眉や頬につけてぼかし完成です。」

お絵描き終了。

清子は化粧用の鏡を覗く。

「本当に別人のよう!」清子も三郎も感心する。

「ところで女の化粧法など何故ご存知なのですか?」ひとしきり自分の顔の観察が終わると大きなたれ目が八稜鏡越に見つめてくる。我が姫は可愛い。

「奉行所には、本屋が時々、この本は出版していいかと版木におこす前の本を持ってくるのです。それで読みました。」これは風俗を乱す過激な本を排除するためである。

「化粧法が何故駄目なの?」

「他にもいろいろ書いてあるんです。」

いろいろの内容は絶対に言ってはいけない。

三郎は一体何を教えているのか・・・。


花魁清姫になっていることに気づいていない、花魁を知らない姫君と女の化粧の違いがわからない男、及び花魁風が不適切な理由がわからない式神。

これを見ればお父上さんが驚愕し、即ボツになることは間違いない。

無駄だけど楽しい時間。




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