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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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萩壺庭にて

前話に加筆をしたので話数が増えました。既に公開していた話なので仕方なしに今回は2話投稿となりました。


災厄祓いを拝命した晴雄は泰清を呼び出し、清子と泰清に作戦を伝えた。


泰清は諸大夫の間の前に、清子は小御所に向かう渡り廊と清涼殿へ向かう渡り廊の分岐点に、つまり壺庭の対角線上に二人は座した。傍らには水盆を置き、香を焚いている。

渡り廊は点々と蝋燭が灯され(ほの)かに明るいが、庭に咲く萩の花の紅紫色まではわからない。

二人は同時に呪文を唱える。

「「天を我が父と為し 地を我が母と為す 来たれ、南斗・北斗・三台・玉女!

左に青龍、右に白虎、前に朱雀、後ろに玄武、前後扶翼ふよくす、急急如律令!」」

清子は壺庭を囲む渡り廊一体に光牢を張り呪詛空間とし、自分の背後に諸大夫の間を映し出した。泰清は天に向かって指刀を切り、御所周辺にいる鬼をいくらか捕まえて壺庭に引きずり込んだ。鬼たちは清浄すぎる空間に悶えている。

「ちょっとだけ我慢してね。」

参内を許可された公家たちが車寄から入って来た。そこはもう清子の術中である。

公家達は小御所に向かう。

「御機嫌良う、有栖川宮様」清子が挨拶をする。

あれ?諸大夫の間。進む方向を間違えたかと首を傾げる。

車寄から左に進むのが小御所のはずだ。


「御機嫌良う、有栖川宮様。」泰清が挨拶する。

おや?また諸大夫の間。いやいやそんなはずはない。諸大夫の間から右手に進むのが小御所。


「御機嫌よう有栖川宮様」清子が挨拶する。

この堂上を見るのは何度目か。「これは一体?」と有栖川宮。

「おかしい何故じゃ。何故小御所に着かない。」と中山。

「どうしたことだ。」有栖川宮。「どうしたことでしょう?」清子。

「何故そなたはここにいる?」有栖川宮。

「左様に仰られましても、宮様方こそ何故ここに?」と清子。

「小御所へ行くのに迷うはずがない。夢でも見ているのか。」と中山が我子を抓る。「痛い!」夢ではない。

「我等は狐に化かされているのかもしれません。」

「お前は狐か?」「滅相もない。」

公家たちは顔を見合わせる。

「ええい、もう一度。」公家たちは再度歩きだす。


「はぁ?何故そなたはここにいる?」

「左様に仰られましても、宮様方こそ何故ここに?」と泰清。

「私達は何度ここを通ったろう?」「さあ、何度でしょうか。」

「そなたの名は?」「土御門泰清と申します。」

「土御門?やはり狐ではないか。」「これはそなたの仕業だな!」公家達が口々に騒ぎ立てる。

「土御門というだけで何故その様に仰せになるのです。」泰清は悲しそうな顔をする。

大人たちは年若い堂上を寄ってたかって問い詰めていることに気付き、慌てて体裁を取り繕った。

「では、そなたはここで何をなさっておいでかな?」

「遊んでおりまする。」泰清はにこやかに答える。

「遊び?」

「秋の虫取りです。」

!?

「我等をうるさい蟋蟀(こおろぎ)だとでも言うのか!」

「狐め!」「狐め!」「狐め!」「狐め!」「狐め!」

限界を感じた清子が光牢を剥がす。幻が霧散した。

それに気づいた泰清も光牢を剥がす。ウワァと幽鬼が飛び出した。

鬼達は清浄な空間から一刻も早く逃げ出そうと荒れ狂った。

公家たちは、この世のものとは思えない風の(いなな)きに恐怖する。

二人は皆が驚いている間に姿を消した。


「うっふふ。」「フッハハ。」

「うまくいったね。」「うまくいったよ。」


夜の帳の中に二人の笑い声が響いた。


丁度、車寄から二条関白が入って来た。

関白は、不思議な香りが微かに残る壺庭に、遊んでいる二匹の揚羽蝶を見た。


幽霊は脳が見せる幻だと思いたいので、陰陽師も魂とか、精神とかに影響を及ぼすくらいの能力に留めたいと思っています。今のところは。

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