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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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二条城黒書院


二条城二の丸御殿は200年の眠りから覚め、まばゆく輝いていた。

清子たちは、襖に楓や(ひのき)などが雅に描かれている遠侍(とおざむらい)でしばらく待たされ、お呼びがかかると庭園を眺めながら長い廊下を渡って、黒書院に通された。

 黒書院一の間・桜の間。まさに豪華絢爛。

 ただ、鎌倉に幕府が開かれて以来、ずっとつつましい生活を強いられてきた公家からすれば、金ピカが過ぎて品がないと意地悪を言ってやりたくなる。武家の棟梁は、天子様から(まつりごと)を委任されているにすぎない。自らに真正性がないから、こうまで見栄をはる必要があるのだろう。政の中心が京に戻ってきた今となっては、虚勢にしか見えず、少々哀れみすら感じてしまう。

どうであれ、梅小路の田舎者はずっときょろきょろしっぱなしだ。


「土御門殿。久方ぶりです。今日はわざわざご足労いただき、大変嬉しく思います。」

よく通る若い声は言った。見れば、征夷大将軍は日焼けをした精悍な顔立ちの青年であった。

「お久しぶりにございます。長旅につきお疲れのことと案じておりましたが、ご壮健なご様子に安堵いたしました。」と父。

「お気遣いありがたく思いますが、道中は誠に楽しいもでした。東海道五拾三次の浮世絵を片手に、ここがここかと見比べながら参りました。

京の美しさは格別です。和宮の故郷と思えば感慨もまたひとしお。

藤子殿は元気にされております、藤子殿がいなければ宮はどれほど心細いことであったろうか。」

 藤子殿とは父の妹であり、和宮について江戸に下向している。当家は天皇家の護符である。主上には父が、和宮には叔母が、若宮には泰清がそれぞれ、厄除けよろしく仕えている。それが当家の御役目である。

「今日お越しいただいたのは、直々に占ってもらいたことがあって…。」大将軍が口ごもる。なんだか突然歯切れが悪くなった。

「つまり……これから話すことは他言無用に願いたい。」

「守秘義務は守ります。」神妙な顔つきで父は答える。大将軍はほっと安心して話始める。

「私は、今回の上洛で、主上から攘夷の実行を迫られるに違いないのです。

宮の降嫁はそのためなのだから。

…………攘夷などできるものか。

そもそも日本と異国は武力が違い過ぎる。主上は異国の武力がいかほどのものかご存知ないのだ。

攘夷などしようものなら、その報復で清の様になるのではないか。あの大国清が、イギリスとの戦に負けて、多額の賠償金を負わされ、領土の一部を奪われ、国民はアヘン漬けです。

私はこの国を是が非でも守らねばならない。

だから私は、攘夷などできぬとご説得申し上げねばならないと思っているのです。しかし、もしご説得が成らず、公武一和も成らなかったらどうしようかと不安でもあるのです。朝廷と幕府の溝を広げて、これ以上諸外国に付け入る隙を与えるわけにはいきません。」

そこまで捲し立てると、悩める貴公子は不意にこちらに目を向けた。

 その時、私は、話半分で襖絵に目を奪われていた。が、ちょうど大将軍近くの雪化粧した松の枝を鑑賞中であったので…目があった!

「ところで、そなたは土御門殿のお子か。そのように聞いておるが。」大将軍が清子に話かけた。

父が代わりに応えた。「申し遅れました。こちらは我が…………嫡男泰清にございます。本日は、この者の勉強のために連れて参りました。同席をお許しいただきましたこと、誠に痛み入ります。」

父上の顔が渋い。


この回の改行のタイミングがおかしかった。おかしいなぁ当時はいいと思ったんだよね。仕方ない処女作だから。

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