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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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従五位下 陰陽権助


7月16日二条関白邸

清子は父と共に二条関白邸に参殿した。

通された座敷には、関白、中川宮、議奏広橋胤保卿がいた。

「今日来てもらったのは、姫に内密のお願いがあるからなのですが、お父上さんから聞いておいでかな?」と関白。あからさまな作り笑顔である。

「大難の際の黒簿の書換と聞いております。」と清子。

「あぁそうだね、話が早い。ではあれを。」

議奏の広橋卿が漆塗りの仰々しい文箱を持ってきて1通の文書を清子に渡す。

広げてみる。


任命書

土御門清

従五位下 陰陽権助に任命する。

元治元年7月16日  関白二条斉敬

           

「?キヨシ・・・」

「セイでもいい、今流行りの一字名だ。

姫が黒簿を書き換えるには、君側に侍らなければならない。しかし、我々としては姫の事は秘密にしておきたい。佐久間象山の二の舞になっては困るし、悪用されても困るからね。

幸いなことに、姫には瓜二つの兄がいて、若宮の近習をしている。そこでだ・・・」

広橋卿が行李を持ってきて清子の前に置いた。

「?」意味がわからず開けてみる。

?!衣冠

「兄と混ぜてしまえばいいと思うのだ。」にこにこ。

「つまり、私にこれを着よと?!

そんなの無茶でございます。このようなことを主上さんはお許しになられたのですか。」

ということは、キヨシって、私のこと?!

「もちろんです。最近、御心ここに在らずなご様子ではあられますが、有能な陰陽師をお近くに置かせていただきたいと申し上げたところ、『関白の良きように。』と仰せになられました。」にこにこ。

それはご存知って言っていいの?

清子は中川宮の顔色を窺う。にこにこ。

広橋卿の顔色を窺う。にこにこ。決定事項につき受諾せよとのにこにこ圧力。

関白は尚も話を続ける。

「当家は、危急時には准后様御一行の避難所になるのです。ですからキヨシ一人の滞在くらい何の問題もありません。しばらくこちらに滞在し、必要になったら私と一緒に参内することにいたしましょう。」

何を仰るのか、このにこにこは。何か申し上げてくださいませ、お父上さん。

がしかし、「宜しくお頼み申し上げます。」と父は頭を下げた。

「戻って来ずともよいと言ったはずじゃ。」父はぼそりと呟いた。


二条家の諸大夫が慌てた様子で座敷にやって来た。

「恐れながら申し上げます。大炊御門(おおいのみかど)家信様、中山忠能(ただやす)様等30人程がご面会を請うていらっしゃいます。いかがいたしましょうか。」

それを聞いた関白の顔は瞬く間に曇り、

「言いたいことなど聞かんでもわかるわ、長州の代弁者共が。

今は忙しい。後ほど参内した時に話を聞く、そう伝えよ。」と刺々しく言い放った。

それから清子に向き直り、声を低くして言う。

「敵は外にばかりいるのではありません。

先日、約60名の公家が連名で長州藩の宥免と攘夷を求める上書をしてきました。

いいですか、宮中は伏魔殿です。このことを努々(ゆめゆめ)忘れてはいけませんよ。」






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