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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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心の僕

主上と宮のただならぬ関係。


皇国を統べるはずの皇尊(すめらみこと)が御自分のお考えを仰せになることもできず、ようやっと仰せになったとたんに国は乱れてしまった。ご心痛は如何ばかりであられましょうか。

会津中将は徳川一門であり、幕命により京を守護しているのだから、中将を助けたいということは、結局は幕府を助けたいということなのでしょう。

今、天の下を見れば、天時は幕府を滅ぼさんとしています。

にもかかわらず、主上さんは瀕死の幕府を(よみがえ)らそうとなさっている。死にかけを生き返らすとは、まるで私の持つ力のよう。でもそれは・・・

「天時に逆らう者はそれなりの報いを受けるものです。主上さんも報いをお受け遊ばすかもしれません。」清子は、あれやこれやを思いながら独り言のようにつぶやいた。

それを聞いた宮は、

「報いを受けるなら私が受ける。私でなければならぬ。」断固として言ったのだ。

「?!」清子はその語気に面食らう。

「・・・仰ることは簡単ですけども。」天罰の代理受領などできるのだろうか。

「私にとって主上は聖上であり、恐れ多くも友であり、真実の兄弟同然なのだ。

決して簡単な気持ちで言っているわけではない。

姫は、五徳(仁 ・ 義 ・ 礼 ・ 智 ・ 信)の中で君主にとって一番大切な資質は何だと思う?」

唐突な質問に戸惑うが、

「この乱世を統べるには「智」でございましょうか。」と清子は答えた。

「私はね、仁・思いやりの心だと思う。

他の資質は臣下が補うことができる。しかし思いやりの心だけは君主自身が持っていなければ、安穏な御代は来ないのではないだろうか。民を愛する者は強く、民を愛せざる者は弱いのだ。

ならば下々の者を思って宸襟を悩ませ給う主上は聖上にふさわしい。

そう思うから、私は、どんな困難な時でも、御気張りくださいと申し上げる。

そう申し上げるからには、私は、命を懸けて主上をお守りせねばならない。

そうせよと私の魂が叫ぶのだ。その声に従うことでたとえこの身が無(けん)地獄に落ちるとしても、私は自分の心に従わずにはいられない。そうすることで私の心は救われるのだ。」

宮を突き動かすのは、いつだって主上への真心なのだ。

清子は心の持つ強い力に魅せられた。


私の魂は叫んだことがない。

それは、私に、それほど大切なものが無いからでしょうか。

命を懸けるものがあるということは、直向(ひたむ)きに生きているからに他なりません。

ならば、魂が叫ぶとは、正に生きている証ではないでしょうか。

身は心に勝てはしないのです。人の(まこと)は心であり、身は器に過ぎないのだから。

すると、たとえ心を燃やしたために器は無残に砕けたとしても、心に従った身は、常に不幸と言えるでしょうか。

たとえ心を燃やすことが無く器は無傷だったとしても、ただ漫然と生きる身は、常に幸せと言えるでしょうか。

宮様は正に生きている。大和五條で討ち取られた志士たちも正に生きたのです。

私は少し思い違いをしていたのかもしれません。

「中将さんの名が黒簿に載っていたとして、私の魂が叫んだら、命期を延ばしてさしあげます。」

この呪詛を使うことは命を懸けることに似ている。清子が思わず口走ったのは、正に生きることへの憧れのせいだった。

「魂はそう簡単に叫ぶものではないぞ。」宮は笑っている。



(宮の熱に()てられている。)晴雄は心中穏やかでない。

「み、宮様。いくら陰陽師とはいえ、うら若い姫が殿方の寝所に行くなど、父として許すわけにはいきません。代わりに私が行きます、行きたいです!」この際黒簿が見えるかどうかなんて知ったことではない。

宮:「うーん。確かに中将は女官たちに人気があるから、変に噂になるのは困りもの。」

晴:「そうそう、噂になるのは困りもの。」

宮:「うーん。・・・よし、私も行くか!」

晴:「は?!暇人ですか!」晴雄の魂が叫んだ。


男の友情。

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