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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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春雷

残酷な描写があります。苦手な人は読まないでください。


2月16日 六角牢座敷

今日は朝から曇天だった。

処刑場の隅に植わっている連翹(れんぎょう)の黄色い小花が冷たい春風に震えている。

三郎は刑場の警固要員としてここにいる。

今月は東町奉行所(東組)の当番月なのに、西町奉行所(西組)の職員のほとんどが狩りだされている。所司代からも一隊の兵が出され門番をしている。

今日は特別だ。


ぽつり。ぽつり。

あぁ、とうとう泣き出した。三郎は天を仰いだ。


これから、大和国で蜂起し捕縛されていた義士のうちの19人の処刑が執行される。収監されている大和義士のおよそ半数にあたる。

東組が処刑の開始を告げた。

雑色が、白い紙で顔を隠された罪人を、一人ずつ引きずるように連れてくる。

罪人たちは、牢から刑場までの短い間で、ある者は大きな声で仲間に別れを告げ、ある者は辞世句を詠み、ある者は泣き叫んだ。

雑色は、手伝い人たちに罪人を引き渡すと次の罪人を迎えに牢に戻っていく。

手伝い人たちは、受け取った罪人を穴の手前に敷かれた荒菰(あらごも)の上に座らせると、その背を穴に向けて押し出した。

執刀者が刀を振り下ろした。


雑色が罪人を連れてくる。

手伝い人が、座らせその背を押し出す。

執刀者が刀を振り下ろす。


連れてくる。

座らせる。

刀を振り下ろす。


雨がだんだん強くなってきた。

それでも刑は粛々と執行される。


誰のものか見分けのつかなくなった胴体が、南北に掘った穴に沿ってきれいに列を作っている。降り荒ぶ雨が、鮮血とともに一瞬前の命の気配すらも洗い流していく。そのせいなのか不意に何が並んでいるのかわからない錯覚に陥る。

雨曝しにされているあれはいったい何?


刑場を見守る者も、牢内の者も、引き立てられてくる罪人以外は皆無言だ。

雨音が罪人の声と執刀者の気勢をかき消す。

それでも刑は粛々と執行される。


三郎の手には、八稜の鏡が握られている。

冷たい雨に指先の感覚がない。それでも握っている感覚が欲しくて、視覚以外の現実が欲しくて悲愴なほど強く握り締める。

三郎はもう一度天を仰ぐ。

凍えそうな雨が顔を打つ。


―――何故天は、逆賊の死をこんなにも嘆き悲しむのだろう。


天誅組紀行 吉見良三著 参考


三郎の役どころが悲惨なものばかりになりそうな予感。

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