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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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予言


金魚鉢を覗き込むと、そこにはまだ明けやらぬ王都があった。

何故にここ、自分でも失敗したなと思っている。

日の出が見るなら愛宕神社や善峯寺に行くべきだろう。清水寺は夕日が美しいのに。

しかし、せっかくなので何か面白いものはないかとあたりを見渡してみる。

すると清水坂を登ってくる3つの人影を見つけた。その場にいるわけではないのに少し身構えてしまった自分がおかしい。そっと近づいてみる。

...?

三人はそろいの山鳩色の丹前に、円に千成瓢箪が染め抜きされた前掛け、手に手にざるを持っている。

ごく普通の町人だ。

目を引くとすれば、一人だけ刀を二本差している。二本差しということは武士なのだろうか。

若者たちが早朝から寺にざるを持って何用だろうか。


彼らはずんずん歩いて寺の奥まで来たかと思うとそのまま山に入って行った。


3人散り散りになると下ばかり見て何かを探している。

何をやっているのだろう。

しばらくするとうち1人が

「ありましたよ。」と叫んだ。

残りの二人が寄って行く。

清子も寄って行く。

なになに?

小さな黄緑色の丸い蕾が見えた。

これは知っている、私の好きなやつ!

清子はわくわくして、文机の上の引出しから人形(ひとがた)を取り出し、何やらブツブツとつぶやき、ふーと息を吹きかけた。そしてその紙人形をそっと金魚鉢に浮かべた。


すると清子の姿が金魚鉢の中に像を結んだ。

清子の体はもちろん自室にある。

が、しかし、金魚鉢の中の三人は清子を認識できるようになっていた。


「もし、それは蕗の薹でしょうか?」

3人はびくりと顔を上げた。驚いた様子だがすぐにあらたまって膝をついた。

「左様です。」

「このような所に生えるのですね。一緒に探してもよろしいでしょうか。」

と言って三郎の顔を覗く。

ついでにこの者について探ってみよう。

「あなたはお武家様ですか。」

「はい、ですが五条大橋近くで大豆や味噌・醤油などを売っております。というか兄の下で商いの修業をしております。」

「武士なのに商人?」

「私の父方の家は商家なのですが、父が武家に婿養子に入りました。」

なるほど、そうするとふたつの身分が手に入るのか。関心しながらも清子にはもう一つ青年についてわかったことがある。


彼には早死の相がある。


三条大橋から四条大橋のあたりは、京で今一番賑わっている場所の一つであり、一番危険な場所でもあると聞いたことがある。商家が襲われたり、辻斬り、強盗、何でもありらしい。五条大橋はそう遠くないから早死の相はそういう事が関係しているのだろうか。

「御身とお家の守りは憂いなきようになされませ。」

清子はなんと言葉を掛ければよいかわからず、そのように伝えた。

 ところが、そこまで言ったところで清子の像は金魚鉢から消えてしまった。

人形が水に溶けて鉢の水をモヤモヤと濁している。金魚は餌だと思って口をぱくぱく動かしている。

残された3人は憐れなほど驚愕している。


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