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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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白鷺

清子が父上に叱られます。


父晴雄は、屋敷に帰り着くやいなや説教を始めた。

「今日のあれはない。(あれとは、将軍の御前で突然桜吹雪を舞わせたことである。ただ舞わせただけならともかく、)行李から花吹雪が飛び出して来るなど、なんとも誤魔化しが効かぬではないか。人様の前で安易に手近な鬼を捕まえて使役してはいけない。」

「それは初耳でございました。これからは気をつけます。」

かわいい娘からは、しおらしい返事が返ってくる。

はぁ。

「言わなくてもわかるでしょう、普通。」

と言ったが、はたと動きを止め家中を見渡してみた。

家僕は全て式神。公家町からも遠く離れ、まるで陸の孤島。屋敷に来るのは陰陽師の類ばかり。

あぁ、なるほどなるほど、我が子の普通は他家の普通ではないのだ。

今日の事故は起こるべくして起こったのだ。

どうするよこれ。何とかせねばなるまい。

父は大きなため息をついた。


家僕が手紙を運んできた。封紙をはがし、片手で雑に広げて読んでみる。

「私は千成屋三郎と申します。1月7日に清水寺でそちら様のご子息に啓示をいただき?!…… 以下黙読」

要するに、うちのご子息の預言のおかげで災難を免れ商売繁盛しているので御礼をするという内容だ。

7日はすでにうちのご子息は出仕している。と言うことは、またご息女の仕業じゃ!

思わず、手紙をグシャグシャと丸めてしまった。


父は暫く不機嫌そうに扇を開いたり閉じたりしていたが、おもむろに丸めた手紙をきれいにのばしだした。

「そうじゃ、この千成屋に世話になろう。

文字は人となりを表すという。なかなかよい文字である。問題ない。

千成屋はすでにお前の常人ならざる事を知っている。我が家は下級公家故、公家同士の社交をするには、粗相をせぬよう更なる配慮が必要になる。人の世もままならぬ今の状態で殿上人と交わるなどどうにも敷居が高すぎる。

おお、これは良い考えじゃ、しっかり礼をしてもらおう。」

と言うと、さっそく筆をとった。

父は手紙をしたため終わると、それを鳥の形に折り畳み、縁側から

「松原橋の千成屋に飛んで行け。」と言って空に放った。

手紙は瞬く間に白鷺に変化し、暮れかけた空を東に飛んで行った。


こういうのがいけないんじゃないの、お父上さん。と清子は内心思うのであった。



千成屋

皆が今日はそろそろ店仕舞かと思っていたころ、突然一羽の大型の鳥が飛び込んできた。何事か?!

鷺らしい鳥は帳場格子の上にゆったりと降り立った。

そしてなんと、店の者たちの注目を一身に集める中、白鷺は紙鳥に姿を変えて帳場台の上に落ちた。

三郎はおそるおそる手紙を取り上げ、店主に差し出した。

店主は読み上げる。

「何何、わざわざ手紙をいただき感謝致し候う。(くだん)の礼として、そちらで、我が子に世の常識を教えてもらえないだろうか。3日後我が子をそちらに向かわせるので宜しく頼みます。

追伸、貴店で塩を取り扱っておれば沢山買います。土御門晴雄」

どうやら、三郎が土御門家に営業に行ったときに置いてきた手紙の返事のようだ。

土御門家ならば手紙が白鷺ということもありうるのだろう...か?


今朝方、三郎は梅小路の土御門家まで、荷車にいろいろ商品を載せて出向いたのである。

結構遠くて一刻程度かかったにもかかわらず、家僕に家主の留守を告げられてしまい、仕方なく、その家僕に、持ってきた商品と手紙を渡してくれるように頼んで帰ってきた。

 それにしても、世の常識を教えるとはどういう意味だろうか。

三日後に来るとは本当にあの子が来るのだろうか。

三郎は半信半疑だ。いや、ここにいる皆が半信半疑だ。

そして本当ならば大変面倒臭いことになると皆が思っているはずだ。

皆が困惑する中、店主はにっこり笑って

「三郎、任せた。」

「えぇ!?それはないよぅ次郎兄!」三郎は思わず、情けない声をあげた。


次話でやっと二人が出会えます。

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